■連載/法林岳之・石川 温・石野純也・房野麻子のスマホ会議
スマートフォン業界の最前線で取材する4人による、業界の裏側までわかる「スマホトーク」。今回は、Galaxyからオープンマーケット向けに発売となったGalaxyの新製品について話し合っていきます。
Galaxyから日本初のオープンマーケット向けスマートフォン「Galaxy M23 5G」登場
房野氏:日本では初めて、Galaxyからオープンマーケット向けのスマートフォン「Galaxy M23 5G」が発売されました。
法林氏:ようやくだね。
石川氏:ようやくですね。オープンマーケット向けのスマートフォンは、各メーカーの苦労が伺えます。ソニーはキャリアモデルの発売日から遅らせて発売していますし、サムスンはキャリアに納めているモデルとは違う製品を出してきた。まだまだメーカーはキャリアに配慮しているんだなと感じますね。
オープンマーケット向けの製品があることは、選択肢としてはいいことだし、サムスンも「やっと折れたか」といった印象です。
石野氏:キャリアとオープンマーケットに、同時に同じ端末を出すことが難しいのはよくわかります。メーカーからすれば、キャリアも端末を買ってくれるお客様ですからね。
メーカーが、「キャリアとは別のところから、より豪華な仕様の製品を安く販売します」と言い出したら、キャリアとしても「じゃあその分の台数を差し引いて仕入れます」となる。結果、安定したビジネスを崩すことになるので、キャリアがメーカーに圧力をかけるとかいう話ではなく、できなくて当然。安定したビジネスに自ら喧嘩を売って、販売台数を下げに行くようなことはできないですよね。
こういった背景があるので、ソニーのように発売日をずらすといった工夫が必要になります。今回のサムスンでいえば、Amazonと一緒にやっている「Galaxy M」シリーズが海外で出てきたのが大きかったでしょう。日本でも、ちょうどオンライン専用プランが出てきているので、タイミングとしては悪くないかな。ただ、サムスンに期待しているのは、Galaxy M23 5Gのような端末ではないんですよね(笑)
法林氏:まぁ、5万円前後という価格帯は、メーカーとしては取りに行きたいマーケットだからね。
石川氏:取りに行きたいし、他社に取られちゃいけないマーケットですね。
法林氏:そうだね。
石野氏:Xiaomi(シャオミ)とかOPPO(オッポ)にガンガン取られてしまいそうな価格帯ですからね。
法林氏:本来、5万円を切るくらいのマーケットは、戦っていかないといけないですし、今まではキャリアから「Galaxy A」シリーズを販売しているけど、商売的にはあまりうまくいっていない。というのも、キャリア側が5万円程度の端末をあまり上手に売れていないんですよね。もっと安い端末を売っているのが現状です。
数年前に、シャープが「AQUOS zero5G basic」をネオハイエンドって位置づけていた。本当はメーカーとしても、5万円から7万円程度の価格帯は一番注力したいところなんだけど、キャリア側ではあまりヒットしていないので、今回サムスンがGalaxy M23を出したのが、いい流れになるかもしれないと思っています。
房野氏:Galaxy M23 5Gは、CPUにSnapdragon 750Gを搭載していますが、オープンマーケットを見たときに、どれくらいのニーズがあるのでしょうか。
石野氏:Snapdragon 700番台は、売れ筋のスマートフォンに搭載されるケースが多いので、マーケットニーズは十分あると思いますよ。Galaxy M23 5Gも、すごくバランスの良い端末ではあるけど、12年間も日本でGalaxyを出し続けていて、いまだにおサイフケータイ非搭載なのかぁとも思ってしまいましたね。
法林氏:サムスンとしては、まずは最初のステップって感じなんじゃないかな。おサイフケータイを搭載する前にやることがあると思っている節がある。
房野氏:Galaxy M23 5Gはグローバル版とは違う仕様になっているんですか?
法林氏:基本的にはグローバル版がベースになっていますね。
石野氏:対応周波数などは日本仕様に合わせています。ドコモからは出ないので、4.5GHz帯のn79には対応していない。型番に5Gと付いているのに、ドコモの5Gはほとんど掴まないんじゃないですかね。
房野氏:ユーザーはどの通信会社の回線を選ぶのが良いですかね。
石野氏:ソフトバンクかauがいいと思いますね。特にソフトバンクからはGalaxyシリーズが販売されていないので、ソフトバンクユーザーでGalaxyを使いたいという人にもいいかもしれません。
石川氏:そんな人いるかなぁ。
法林氏:使いたい人はいるでしょ。
石野氏:あと、これまでドコモとかauでGalaxyを使ってきた人が、MVNOに回線を切り替えても、継続してGalaxyが使いやすくなります。MVNOでスマートフォンを買おうとしたら、聞きなじみのないメーカーの端末しかない、と困っているかもしれないですからね。MVNOとしても待っていた端末かもしれません。
石川氏:Galaxyとしては、原宿に実店舗を構えているのが効いてくるかも。キャリアに頼らずに、サポートなどもしっかり対応できるとなると、これまでやりたかったけどやれなかったことが、今後どんどんできるかもしれません。
房野氏:Galaxy Harajukuでは端末の修理なども対応していますよね。
石野氏:そうですね。しかも即日修理もできます。
法林氏:Galaxy Harajukuは結構優秀だよね。
石野氏:Galaxy M23 5Gでいえば、独自の保証サービスもやりますね。一見すると、Galaxy HarajukuはBTSの聖地にしかなっていないんですけど(笑) 客層はスマートフォン好きかBTSファンの両極端になっています。
石川氏:iPhoneを持っているBTSファンね(笑)
法林氏:Galaxy M23 5Gは、サムスンとしては相当戦略的に出しているはず。というのも、2021年の「Galaxy S21 5G」シリーズは、「Galaxy S21+ 5G」がauのみ、「Galaxy S21 Ultra 5G」がドコモのみと、少し変な売り方をしていました。結局売れるのは標準サイズなので、そこと並ぶようなモデルで、もう少し安いものをと考えている。
MVNO市場も含めて、SIMフリーを増やしていきたいし、サムスンは日本での知名度も高いので、そのほうが自分たちの売り方として勝負しやすいでしょう。Galaxy M23 5Gのような端末でGalaxyを手に持ってもらって、じゃあ次は石野君みたいに「Galaxy Z Fold3 5G」にしようかなと思う人がいるかもしれません。
石野氏:僕の真似をしてGalaxyを選ぶ人はいないと思いますけど(笑)、若い世代には、BTSきっかけでGalaxyにする人もいると聞きます。BTSパワーの凄さを感じましたね。
法林氏:僕らの世代に比べると、若い世代では韓国と日本の違いを意識していない人が多いよね。
石川氏:高い価格の端末を買う人の年齢層は、どうしても高くなりがち。Galaxyは過去10数年間苦労してきたけど、若い世代に比較的訴求しやすい端末となると、価格の安いモデルを重視するのには納得がいきます。
房野氏:今後、Galaxy SシリーズやGalaxy Aシリーズがオープンマーケット向けに発売されることはあるのでしょうか。
法林氏:しばらくはGalaxy Mシリーズを推していくと思います。Galaxy S、Galaxy Aに加えて、プレミアムラインのGalaxy Zは、当面の間はキャリアモデルとして売るでしょう。
問題なのは売れる台数。今回発表した新製品の中でいうと、Galaxy M23 5Gは一定数売れると思いますが、Galaxy S22 Ultraがしっかり売れるのかが心配です。
房野氏:我々の周りでは高評価ですけどねぇ。
法林氏:Sペン内臓は待望だったからね。
石野氏:「まるでNoteみたい」と言っていて、Galaxy S22 UltraのCMを見て笑っちゃいましたよ。まるでじゃないだろって(笑)
石川氏:うまくいったら、Xperiaのように時期をずらして、Galaxy S22シリーズをオープンマーケット向けに販売するかもしれませんね。
石野氏:あと、台数とかビジネスへの影響を考えるのであれば、もともと販売台数の少ないGalaxy Zシリーズを同時に発売してもいいかなと思います。
房野氏:ちなみに、オープンマーケット向けスマートフォンはオンラインだとどれくらいの台数が売れるのでしょうか。
石野氏:オープンマーケット向けスマートフォンの販売台数は、1年間に280万台程度で、300万台には届いていません。キャリアも含めたスマートフォンの国内販売台数は、年間3000万台くらいなので、10分の1にも満たないんですよ。
加えて、オープンマーケット向けは、MVNOで売られている端末や家電量販店の販売台数も含むので、オンラインのみと考えると1モデルあたり数千台売れていればいいほうだと思います。
法林氏:Galaxy M23 5Gは、1万台くらいの販売数は達成できるんじゃないかな。ヨドバシカメラとビッグカメラで売ることも踏まえると、十分視野に入ると思います。
日本でのGalaxyの全盛期にキャリアへ納めていた数から考えれば、少ない台数ではあるけど、最近の1円端末などの格安スマートフォン市場にGalaxyが投入されてきた現状を踏まえると、サムスンにとって今は、転換期なんだろうなと思います。
石野氏:あと、ハイエンドモデルの売り上げが減っているので、全体の収益は落ちてきている。昔に比べるとエントリーモデルやミドルレンジモデルを出すことで、数を稼いで、ハイエンドの売り上げを補いつつ、オープンマーケットも取りに行くという形ですね。
法林氏:iPhoneの中で売れているのはiPhone SEという時代。Galaxyが2万円以下の格安端末を選ばず、一定レベルの製品を導入したのを見て、サムスンは市場の感覚が良く分かっているなと思います。
石野氏:最初に安いGalaxy Aシリーズの20番台などを持ってくるとダメでしたよね。買った人に悪い印象を与えかねない。メーカーの力やブランド力を見せるためには、いきなりエントリーモデルを届けるわけにはいかない。Galaxy M23 5Gくらいの価格や性能は、いい線をついていると思います。
7年ぶりにGalaxyのタブレットが日本市場へ! 課題は価格と対応アプリ?
石野氏:Galaxy M23 5Gと同じ流れで、日本市場に7年ぶりでGalaxyのタブレットが販売されますね。一部ではGalaxyのタブレットを日本で出してほしいという要望の声も大きかったようです。レノボのAndroidタブレットも売れ行きは好調ですし、要はハイエンドAndroidタブレットが市場に少なかったので、一部ユーザーにとっては待望の製品という形です。
法林氏:そもそもAndroidタブレットの数が少なくなっているからね。一番売れているAndroidベースのタブレットがAmazon Fire HDだと言われているくらい。
石野氏:以前は、HUAWEIやASUSが頑張っていたんですけど、HUAWEIは自社OSに切り替えていますし、ASUSも戦略的にAndroidタブレットをやらなくなってしまっています。
法林氏:あと、LGが扱わなくなってしまったのが大きい。市場にはNEC、Lenovoしかいないような状態です。
石野氏:数が少ないこともあって、グローバル市場では良いタブレットを販売している、サムスンの製品が欲しいという声が高まっていった感じですね。
石川氏:市場にタブレットが少なくなってしまった要因として、Googleがあまりタブレットに積極的じゃない印象がある。でも、市場自体にはニーズがあるので、今回、サムスンが期待に応えた……という感じですね。
房野氏:Galaxyのタブレットは、大画面、フォルダブル製品向けのOSである「Android 12L」に対応していくのでしょうか。
法林氏:GalaxyタブレットがAndroid 12Lに対応するかはわからないけど、Googleには大画面のモバイル端末のプラットフォームとして、Android 12Lを浸透させていきたいという思惑がある。ただし、Googleは縦割りの会社というか、隣の事業部が何をやっているのかわからないという会社なので、どうなっていくかわかりません。
石野氏:サムスンのタブレットは、PC、TV、タブレットと無線接続が可能になる「Samsung DeX」機能が起動する。Galaxyスマートフォンの場合は、ディスプレイにつなぐ必要があるけれど、タブレットなら単体でDeXを利用できるので、PCライクに使えるのが便利です。
法林氏:新型コロナの感染拡大で、リモートワークとかテレワークが増えている中、PCだけじゃなくて、ビデオ会議用の端末があるとラクという認識が広まっている。
石野氏:そうですね。DeXは結構優秀で、マルチウィンドウで表示されますし、少なくともChromebookくらいの使い勝手は実現できています。
法林氏:Chromebookはあくまで学校とか、教育現場で使うようなデバイス。マルチウィンドウで使うとなると、もう少し上のスペックが必要ですし、安い値段で作るのがChromebookの良さです。
石野氏:DeX機能は、iPadよりもPCライクに使える。キーボードでの操作もできますし、人気に火が点かないかなぁと期待しています。あと、Galaxy Z FoldシリーズにもDeX機能を搭載してほしいです。
房野氏:今回登場する「Galaxy Tab S8+」は、Amazonだと11万5500円、ビックカメラ、ヨドバシカメラだと12万7050円と、価格が少し高いのが気になります。
石野氏:結構高いですよね。Androidタブレットは、Amazonが率先して低価格の製品を出して、それに対抗する形で、Googleが「Nexus 7」といった製品を出してきました。「いきなりその値段かよ」とも思うほど安価でしたね。
石川氏:この価格設定が、Androidタブレットがあまりうまくいっていない理由。値段ありきになってしまったので、難しいですよね。
法林氏:今回の「Galaxy Tab S8+」の値段を出すなら、MacBookやSurfaceが買えるという話になってしまうので、10万円にもうすこし近づけられれば、販売拡大の可能性は広がるよね。
石川氏:あと、Androidタブレットを出したとしても、ちゃんと対応しているアプリが揃っていないと厳しい。iPadは、iPad用に作られたアプリがたくさんあるので、画像編集やスケッチをする時に、ハードとソフトが両立しているのが強みです。
法林氏:だからこそ、Android 12Lを推進していこうという話になってきているんだよね。
石野氏:現時点で、Office系のソフトなどは対応していたり、Galaxy Notesというアプリも使えるので、一通りのことはできますが、ちょっと物足りない。写真の加工をしたい時に、Photoshopが使えないとか、今後はユーザーからの課題が出てくるんじゃないですかね。
石川氏:iPadは普及しているがゆえに、アプリを作る側も、ビジネスとして成立する。しかも、PCを買うには躊躇するけど、iPad Airくらいなら買おうかなと思う若い層のニーズも取り込めていたりするので、Androidタブレットは頑張らないといけませんね。
法林氏:iPhoneが出た翌年くらいから、アップルはiPadを売り続けているので、長くやっている強みがあるよね。AndroidタブレットをPCのように使おうと思うと、やっぱり物足りない部分もある。Googleも頑張っているので、時間はかかるかもしれないけれど、徐々に環境は整っていくと期待しています。
……続く!
次回は、HISモバイルをはじめ、MVNOの現状について会議する予定です。ご期待ください。
法林岳之(ほうりん・ たかゆき)
Web媒体や雑誌などを中心に、スマートフォンや携帯電話、パソコンなど、デジタル関連製品のレビュー記事、ビギナー向けの解説記事などを執筆。解説書などの著書も多数。携帯業界のご意見番。
石川 温(いしかわ・つつむ)
日経ホーム出版社(現日経BP社)に入社後、2003年に独立。国内キャリアやメーカーだけでなく、グーグルやアップルなども取材。NHK Eテレ「趣味どきっ! はじめてのスマホ」で講師役で出演。メルマガ「スマホで業界新聞(月額540円)」を発行中。
石野純也(いしの・じゅんや)
慶應義塾大学卒業後、宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で活躍。『ケータイチルドレン』(ソフトバンク新書)、『1時間でわかるらくらくホン』(毎日新聞社)など著書多数。
房野麻子(ふさの・あさこ)
出版社にて携帯電話雑誌の編集に携わった後、2002年からフリーランスライターとして独立。携帯業界で数少ない女性ライターとして、女性目線のモバイル端末紹介を中心に、雑誌やWeb媒体で執筆活動を行う。
構成/中馬幹弘
文/佐藤文彦