業界の構造を一新するようなチャレンジは、人をワクワクさせ、はっとするような仕事のヒントを与えてくれる。東北の復興を支援するエンシンとホテル運営のインキーパーが、モジュール工法で建築した「ビジネスホテル ドリームビレッジ エンシン」も、そのひとつだ。
モジュール工法が示唆するホテルの未来
モジュール工法とは、別の場所で部屋などのモジュールをつくった後、建設地に運んで組み立てる方法。基礎工事から順を追って建設する従来の工法と比べ、工期を大幅に短縮できる。
エンシンは、東日本大震災の後、岩手県陸前高田市にコンテナ建築による「ドリームビレッジ陸前高田」を建設、宮城県気仙沼市にさらに気密性、断熱性を高めたモジュール工法による「アイルームエンシン気仙沼」を建設した。いずれも、復興作業に携わる工事関係者の宿泊需要が急増したため、いち早く建設したものだ。
しかし、現在では多くの復興工事が完了し、一部で宿泊施設の需要も減少した。一方で、キオクシア岩手が建設される北上工業団地では、増加する工事関係者に対して、宿泊施設の供給が不足している。
エンシンとインキーパーは、気仙沼で使用していた建物を解体、北上市に移設して「ビジネスホテル ドリームビレッジ エンシン」をオープンした。客室は長期滞在を想定したミニキッチン付で、コインランドリーと全客室分の駐車場を完備。夕朝食の要望にも対応する。
不動産であるホテルを動産化し、別の場所で再び不動産として活用するという「日本初の試み(インキーパー関欣哉氏)」。基本的に宿泊業は、需要の波は大きく不規則なのに、部屋数を増減するなど、フレキシブルな供給量の調整が難しい。フットワークよく需要に供給を最適化できるモジュール工法は、宿泊業の宿命を越え、新しいモデルをうむ可能性がある。
また、SDGsが国連で提唱され、省資源は各国の課題となっている。モジュールのリユースは、今後のビジネスとして期待は大きい。
今回は工事関係者向けのビジネスホテルだが、リゾート向けなど幅広い業態へ展開が可能だ。たとえばインキーパーが現在計画しているのが、グランピング向けのモジュールを、リースで提供するビジネス。事業者は初期費用を抑え、低リスクでグランピング施設を運営できる。数年後、仮にブームが去っても、別のモジュールに替えて宿泊事業を継続したり、あるいは簡単に撤去して、まったく違うビジネスに土地を活かすこともできる。
資源を活かすビジネスモデルの転換を
関氏が指摘するのは「ビジネスの賞味期限」だ。業種に関係なく、顧客から永続的に求められ、利益をうみ続けるビジネスは、おそらく存在しない。成功体験に縛られず、常に変わり続けることが、人と企業にますます求められる。
問題は、賞味期限が切れたとき、ゼロから新しいビジネスを考える時間があるとは限らないこと。また、そのたびに機械や建物をつくっていたら、地球の資源は枯渇する。
持っているナレッジや資源を活かし、いつでもビジネスモデルを転換できる仕組みづくりが重要。モジュールの再利用は、正にそのためのアイデアだ。
仕組みだけでなく、環境の変化へしなやかに対応できるマインドも大切だ。この点、コロナ禍で実感したビジネスパーソンは多いのではないだろうか。
ビジネスはもちろん、個人の生き方にも通じるビジネスストーリー。準備万端に整えて、不確実な時代を進んでいこう。
●プレスリリース
需要のある場所に移動するホテルが誕生!
取材・文/ソルバ!
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