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若者世代の取り込みが最優先課題、日本サッカー協会と中央大学の連携にみるスポーツ界を盛り上げるヒント

2022.05.20

母校・中央大学で学生と議論する中村憲剛氏(筆者撮影)

 2021年の出生数が75万人に減少し、合計特殊出生率も1.37と低空飛行を続けるなど、日本の少子化は凄まじいスピードで進んでいる。若年層の人口が年々減る中、経済界や企業は限られた人的資源を確保しようと今、躍起になっている。

 それはスポーツ界も同様である。2020年春から続くコロナ禍の影響で、スポーツイベントの人数制限が長く続き、スタジアムから足が遠のいてしまった若者世代も少なくないからだ。

 サッカー界も例外ではない。93年のJリーグ発足以降「ドル箱」と言われた日本代表戦の観客数が大きく減少。昨年9月~今年3月の2022年カタールワールドカップ(W杯)アジア最終予選を見ても、3月30日のベトナム戦の44600人が最高だった。

 この時は6万3000人収容の埼玉スタジアムを満員にできる絶好のチャンスだったが、本大会切符獲得直後という状況に加え、チケット販売開始時はまだまん延防止等措置中で、入場制限がなくなったのは試合10日前。さらにはコロナ禍による観戦控えも重なり、残念ながらフルとはいかなかった 。

16~22歳の男女にターゲットを置くJFA

 日本サッカー協会(JFA)も現状に危機感を抱いている。選手登録数が2014年の96万人をピークに下降線を描き、20210年には82万人まで落ち込んでいる実情を踏まえ、若年層の取り込み策を日々、模索しているという。

 マーケティング本部の髙埜尚人本部長もこのような話をしていた。

「JFAは目下、16~22歳の男女をターゲットに設定し、彼らとどのようにつながりを持つかという新たな課題に取り組んでいます。この年齢層は次世代のファンであり、我々のパートナー企業のターゲット層でもある。デジタルと相性がよく、施策のPDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルを回しやすいという特徴もある。そんな3要因を満たす人々なのです。

 ただ、スポーツや娯楽の選択肢が増え、メディア環境が日々、変化する今、彼らに『代表戦があるから見に来てね』というだけではスタジアムに足を運んでもらえない。彼らにサッカーを『自分事』として受け止めてもらう必要があると感じていました」

授業の趣旨を説明するJFA高埜氏(筆者撮影)

大学生がJFAアプリの開発を提案!

 そこで髙埜氏らJFAスタッフが考えたのは、大学との連携だ。教育は、JFAのSDGsの取り組みの中で、5つある重点領域の一つに定められている。中央大学アメリカンフットボール部出身の彼は、後輩の職員を通して「一緒にアクションを起こしてくれる先生はいないか」と打診。国際経営学部の木村剛教授が興味関心を示してくれて、2022年度から特別講座「JFA×中央大学・アスパス!協働プロジェクト」を設ける方向で一致。全4回の講義の第1回目が4月18日に行われ、17人のゼミ生を中心に約50人の学生が参加するに至った。

「今回のクライアントはJFA。彼らが開発中のアプリに加える新規企画を学生側がプランニングし、JFAの役員にプレゼンテーションして、採用に至れば、実用化されます」と木村教授は生徒を鼓舞。まずはJFAやサッカーの現状、サッカーに興味を持ちそうな人物像の設定、関心を高めるためのアプローチ方法などを考えるところから一歩目を踏み出した。

「木村先生とは昨年7月から議論を重ねてきました。最初は日本代表プロモーション策やファンサービスの提案をしてもらおうかと考えていたのですが、それだと一過性で、学生に残るものが少ない。アプリの提案であれば、後々にも残りますし、学生にとってのベネフィットも大きい。プロジェクトの効果を最大化させられると考え、そういったテーマを設定しました。教育の分野で、サッカーを題材にし、人材育成に貢献したいと思っています」と髙埜氏は説明する。

若者に「自分事」と考えてもらう試みが有効

 もう一つ特筆すべき点は、元日本代表の中村憲剛氏をプロジェクトリーダーに据えたこと。2020年限りで現役引退した彼は現在、解説者やJFAロールモデルコーチなど幅広い活動を手掛けているが、JFAの登録制度改革に関与する「JFAグロース・ステラジスト」という役職にも就いている。若い世代への働きかけは登録制度改革の根幹でもあるサッカーファミリー拡大ともリンクしてくるし、彼自身が中央大学出身で後輩との信頼関係を築きやすい。まさにうってつけの人材をトップにしたことで、学生たちのモチベーションも一気にアップした模様だ。

 実際、1時間半の授業の中では、中村憲剛氏が複数の学生とサッカーに関してディスカッションをして、現状を把握するという場面が見られた。普段はサッカー関係者やサッカー愛好者との関わりが多い彼にしてみれば、「90分の試合で1点がなかなか入らないサッカーはコスパが悪い」などという言葉を突き付けられた経験は皆無に等しかったはず。「こんなにも自分の視野が狭く、頭の中が凝り固まっているのだと分かり、衝撃を受けました。同時にサッカーの置かれた現実の厳しさを再認識しましたね」と本人も神妙な面持ちで話していた。

「憲剛さんは4月の1回目と12月の最終回に登場することになっています。途中の6月と10月は別の講師に登壇してもらい、違った角度から考えるヒントや素材を提供してもらうつもりで準備しています。

 講義が4回というのは、『講義と講義の合間に生徒がリサーチやプランニングを行うことがすごく大事』というご意見を木村教授にいいただいたことが大きいですね。学生側から『日本代表戦の実地研修をしたい』『どういうファン層が中心なのかを見て回りたい』といったニーズがあれば、こちらもできる限り、対応していきたいと考えています。

 こうやってビジネス視点で大学生とコラボレーションをするのは、JFAにとっても初めての試み。今から成果が楽しみです」と髙埜氏は大きな期待を口にしていた。

ゼミ生と笑顔で記念写真に納まる中村憲剛氏(筆者撮影)

中村憲剛氏の母校・中央大学を筆頭に選手出身校との連携が進むか?

 この試みが成功すれば、2023年以降は他大学との協働、授業・講義の実施も視野に入ってきそうだ。実際、日本代表OBには中村憲剛氏以外にも、同志社大学出身の宮本恒靖氏(現JFA理事)、東京学芸大学出身の岩政大樹・鹿島アントラーズコーチなど大卒選手が数多くいる。彼らが母校とタッグを組んで、サッカーを多くの学生に「自分事」と認識してもらうことができれば、新規顧客の開拓にもつながるのではないか。

 中村憲剛氏も「いろんな選手が出身校と協業する機会を設けられれば、裾野は必ず広がる。そうなっていくように、今年の中央大学との取り組みをしっかりやって、大きな成果を残せるようにしたいです」と意気込みを新たにしていた。

 身近なところでサッカーと接点を持てれば、試合に足を運んだり、自らボールを蹴ろうと考える若者も増えていくだろう。そういう地道な努力こそが未来の発展へとつながる。今回の試みを機に、JFA側もさらなるきっかけ作りを進めていこうとしている。

 髙埜氏は次のように熱い思いを吐露した。

「サッカーファンになる入口は3つあると思います。1つは実際にプレーして楽しさを感じること。2つ目は観戦体験から魅力に気づくこと。そして3つ目がサッカーの社会的価値に接することです。

 1つ目のプレーに関しては目下、キッズ年代へのアプローチを強化しています。

 2つ目の観戦体験についても、メンバーシップアプリやSNSの活用など1人1人のニーズに合わせたコミュニケ-ションが重要。それを駆使しつつ観戦を促したいと考えています。

 そして3つ目の社会的価値は、今回の中央大学との協業も含まれます。サッカーを通した教育というのは無限の可能性がありますし、関係する自治体、企業、団体とも結びつく可能性がある。そうやって多角的な接点を増やしていけば、サッカーの持つ力を再認識してもらえる。若い世代の興味や関心にもつながるはずです」

中村憲剛氏もファン拡大の重要性を再認識した様子だ(筆者撮影)

 確かに、今の20歳前後の世代はSDG’sへの理解・関心度が高く、社会問題解決への意欲も強い。単に「楽しい」「儲かる」といった物理的なことだけで価値判断するのではなく、社会貢献や人々の役に立つ活動をより重視する傾向が強い。サッカーがそういうものだという理解が進めば、もっと積極的に関わりたいと考える人も増えてくるに違いない。

 このような発想は他のスポーツ界、企業活動にも通じる点。日本社会の「金の卵」である16~22歳の世代が何を求めているかを察知し、彼らに刺さる仕掛けを考え、実践していくことが、未来の発展につながるはずだ。

 今回のJFAの挑戦から何らかのヒントを得られるビジネスパーソンも少なくないだろう。まずは12月まで続く「アスパス!協働プロジェクト」の行方を興味深く見守っていきたいものである。

※アスパス!:“地球(earth)の明日(未来)のために私たち(us)がつなぐパス”の意を込めた造語で、JFAのSDGsや社会貢献活動の総称

取材・文/元川悦子
長野県松本深志高等学校、千葉大学法経学部卒業後、日本海事新聞を経て1994年からフリー・ライターとなる。日本代表に関しては特に精力的な取材を行っており、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは1994年アメリカ大会から2014年ブラジル大会まで6大会連続で現地へ赴いている。著作は『U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日』(小学館)、『蹴音』(主婦の友)『僕らがサッカーボーイズだった頃2 プロサッカー選手のジュニア時代」(カンゼン)『勝利の街に響け凱歌 松本山雅という奇跡のクラブ』(汐文社)ほか多数。

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