TOKYO2040 Side B 第14回『もうひと工夫で文書管理にさらなるDXを』
※こちらの原稿は雑誌DIMEで連載中の小説「TOKYO 2040」と連動したコラムになります。是非合わせてご覧ください。
国を挙げての「文書管理デジタル化」時代
2022年4月1日に、令和三年に改正された「公文書等の管理に関する法律」が施行されました。公文書管理についてはここ数年、情報開示制度とともに政治報道で目にすることが増えていると感じます。
公文書の保存や破棄、あるいは黒塗り等がどのような範囲になされているか、興味をもってニュースを追っていた方も多いかと思います。
今回施行された改正に先駆けて「公文書管理に関するガイドライン」についても改正されており、DX視点でとても大きな進歩がありました。
参考:内閣府「2022年2月4日開催 第93回公文書管理委員会 配布資料一覧」
行政文書は原則として電子媒体で作成し保存すると明記され、これまで行政機関で30年保存した後に国立公文書館へ移管していた文書(法律や条例に関連するものなど)は20年で移管できるようになり、可搬媒体(例:紙の文書)はスキャニングして電子化された「長期保存フォーマット」で保存され、変換されたものは廃棄できるようになります。
かたや「期限の定めなく利用し続けることとなる文書や、常時最新のものに更新される文書については、常用文書として管理することが適当」とされ、電子文書をデータベースとして使用することが想定されています。
また、「例えば、法令等の定めにより紙媒体での保存が義務付けられている場合や、歴史公文書等の資料・記録としての価値を維持する上で不可欠な場合には、紙媒体を正本として管理することが必要である。また、電子化によって業務が複雑化・非効率化しないかについても、適切に判断が行われる必要がある。」(上記サイトの「2-5スキャナ等を利用して紙媒体の行政文書を電子媒体に変換する場合の扱いについて(案)」から引用)とのことで、必要に応じてデジタルと紙が共存する場合もあるとしています。
そのほか、ガイドラインでは公務員(職員)がメールやSNSに記載した内容も公文書に当たる可能性があるとし、その取り扱いを適切にするよう求めていたり、決裁された文書の修正を認めず、修正をするにあたっては再び決済をすることが条件となるなど、電子文書となるにあたって、改ざんに対する不安への目くばせも感じられます。
これらに基づいて、各行政機関がそれぞれに応じた文書管理規定を作っていくことになります。
また、4月1日には改正個人情報保護法も施行され、こちらもデータ利活用やAI利用が盛んな時代にあって、適切に使用されるようになっています。
本誌連載小説『TOKYO2040』では、今回のデジタル文書管理や情報開示制度が近未来ではさらに進み、行政文書や公文書が公務員が業務をするそばから全自動で記録され、住民が一層スムーズにアクセスできる世界を描いています。
作成している文書、「データ」になっていますか?
さて、視点を身近なところに移してみると、日々の業務で数多くの「文書」を扱っているという人もいるのではないでしょうか。
文書といっても、このコラムのように長い文章であることもあれば、決められたフォーマットに数字を埋めるエクセルのファイルだったり、手書きの申込書や届いた手紙を整理して束ねてファイリングすることもあるかと思います。これらはすべて形は違いますが、管理されるべき文書ということができます。
身近なDXの一歩として、まずこれらをすべて「データ」と捉えることから始めるのがよいです。というのも、ペーパーレス化に焦り「紙の文書をスキャナーでPDFファイルにしたが、紙のときより探すのが大変になった」という結果になっては意味がないからです。
では、データとして捉えるには、どうしたらよいでしょうか。
例えば「(1)紙の書式に顧客に書き込んでもらい→(2)後でそれを見ながらオフィスのパソコンに入力し→(3)プリントアウトしてファイリングし、閲覧できるようにする」という業務があったとします。
想像できる歴史的経緯としては、昔から一定の様式に手書きしたものをファイリングして用いていた業務で、ワープロやパソコンの登場で綺麗に印字できることから手書きのものをあらためて入力する習慣が生まれ、それでも昔からのファイルと同一の閲覧性が欲しいのでプリントアウトして綴じている、というところでしょう。
これをDXするとしたら、まず(1)を改め「顧客にはWebサイト上に用意したフォームへ、スマホやタブレットで入力してもらう」ことで(2)の作業を丸ごと省力化します。次に(3)については紙で閲覧したいという習慣を撤廃し、PCやタブレットで閲覧することにします。書き込みたい、付箋をつけたい、順序を変えたい、いずれの欲求もシステムで叶えられます。
もちろん機材やシステム構築には費用がかかりますが、おおむね見積もりで大切なのはその費用よりも、実は(1)~(3)にかかっているコストです。DXには行動変容が起こらなければ意味がないということについてはこの連載で何度も触れてきましたが、DXにおいてコストが削減され、これまで埋まっていた「人の時間」が空いていくことを恐れてはいけません。
もし(2)を専業としているスタッフがいたとして、過去に入力したデータやプリントアウトしか現存していない文書を、新しいシステム用に変換する業務にスライドするのも一つの策です。すでにパソコンを通じて入力されているものも、最新のデータ形式にするにあたって完全自動化できない場合もあるでしょうし、紙をスキャニングしたあとに「AI-OCR」処理されたデータに間違いがないか確認する必要もあるでしょう。
文書管理をDXするというのは「最初からデータとして入力しておき、紙に出力しないで利活用して得られる世界」を考えることに等しいです。
もちろん、所属企業や組織によって文書や帳票の保管には規定があると思いますし、法律で定められた保存をしなければならないものもありますので、現場よりも経営者が多方面への影響を考えながら慎重に、それでもスピーディーに進めなければなりません。
すでにデジタル化していても、まだ余地アリ?
先ほどの例は業務の流れや形態を変えてしまうものですが、すでにデジタル化されている文書でもUI/UXの観点から、さらに一歩踏み出して変革できる場合もあります。
例えば、すでに紙の帳票をデジタル化したが使いにくいという場合です。
なぜその文書を使った業務が煩わしいのかを分解して考えてみます。デジタル化した際に、従来使い慣れた紙のフォーマットを模して画面デザインしたために、項目が左右上下に散らばり、Z字に細かく視線を配らなければならないからだ、という気づきがあるかもしれません。
また、職場のパソコン画面の解像度が粗く、横スクロールや縦スクロールが多くなっているということも考えられます。スクロールを一切ぜずに一画面で確認できることや、縦一直線のスクロールのみで確認できる、というのは大切なことです。マウスのホイールを1クリックぶん回した時に数行いっぺんにスクロールしてしまってカーソルキーでわざわざ戻ったりしているなんていうのも、不便な理由かもしれません。
こういうときは、すでにデジタルデータになっているものであれば表示順やレイアウトを改善すればよく、簡単なところで「縦型に回転できるモニタを設置する」「マウスのホイールでスクロールする行数を小さく設定しなおす」でも解決するかもしれません。
秘伝のエクセルファイルもデータベース思考で改善!
身近な例はまだあります。長年の業務で使われていたエクセルファイルなどでありがちなのが、プリントした際に綺麗にA4サイズに収まるように上司や先輩が苦労して作った秘伝のもの。
入力欄が散らばっていて、計算式が入っている部分もあれば別途計算してから入力しなければならないところもあり、年度によっては慎重に行や列を増やして、プリントの際にズレないようにセルの高さを微妙に調整……etc.なんて経験、ありませんか?
データベース的な考えに慣れた人なら、数値や文字入力用の「データ」シートとそれを加工する「処理(計算)」シートとその結果を綺麗に見やすく配置した「出力(印刷用)」シートに分け、参照させることで、入力したいときは「データ」のシートだけを書き換えればよいようにし、行列の増減なども「処理(計算)」シートで済ませてしまうなどをすると思います。
こんな工夫も十分にDXですし、先述した『「データ」と捉えることから始める』に即しています。
こうすることで一時的に使用していたに過ぎない「紙」や「エクセルファイル」が、活きた「データ」に変わります。そしてデータに変えたことで、将来的にその蓄積に意味を持たせることが可能になります。
国が大きく文書をデジタル化しようと舵取りをした現代、「DX」や「デジタル化」を流行り言葉で終わらせないためにも、個人情報保護の観点に留意しながらも、仕事のUI/UX・体験が大きく変わるところまで進め、習慣化することが肝要です。
文/沢しおん
作家、IT関連企業役員。現在は自治体でDX戦略の顧問も務めている。2020年東京都知事選に無所属新人として一人で挑み、9位(20,738票)で落選。
このコラムの内容に関連して雑誌DIME誌面で新作小説を展開。20年後、DXが行き渡った首都圏を舞台に、それでもデジタルに振り切れない人々の思いと人生が交錯します。
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