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【深層心理の謎】人は日常の行動習慣が及ぼす影響力を過小評価している!?

2022.05.16

 急に鼻の奥がむずむずしてきた。とても我慢できるものではない。右手で口もとを覆い、路上で立ち止まって大きなクシャミをひとつした。何かみっともないことになっていないか確認しながら歩き出したのだが、何も心配はいらないことに気づく。そもそも今の我々はいつもマスクをしているのだ――。

池袋西口の繁華街でマスクをしたままクシャミをする

 お昼時の街には、荷物を持たず手ぶらで歩く3、4人のグループがちらほらと見受けられる。近くで働く人々が昼食のために街に出てきたのだろう。メンバー的には30代か40代の男性たちがメインだが、若い女性の姿も少なくない。

 かつて自分も会社務めをしていた頃には、こうして同僚たちと一緒に昼食に出かけたことは何度となくあって、思い返せば懐かしくもある。忙しくない時期であれば、昼休みに連れ立ってランチに出かけるのは当然という感じもあった。昼休みが近づくと今日はどの店に行くか検討したりもしていて呑気なものであった。

 ちょっとした用事を終えて、池袋駅西口の繁華街を歩いていた。お昼時真っ只中の12時半だ。戻ってからも仕事はあるが、自分もまた今のこの場所の大勢にならってランチ時に昼食を食べてみたい。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 歩きながらバッグの中に予備の不織布のマスクが入っているのを確認した。後でこのマスクにつけ替えるつもりだ。それというのも、さっき歩きながら大きなクシャミをしてしまったからだ。マスクの内側が汚れてしまったわけではないのだが、この後に外したら再びつけたくはない。替え時ということだろう。

 周囲に人がいる中でクシャミをする場合、自然に手で口を覆う動作が伴ってくるのだが、今のご時世ではマスクの上から手で口を覆うことになる。今の我々には必要がない動作のようでもあるのだが、いつかマスクをしなくなった時のことを考えれば、クシャミをする時に咄嗟に出る動作であり続けるべきなのだろう。

 咄嗟に手で口を覆ったことでマスクをしていることに気づいたということ自体が、もはやマスク着用が習慣になってしまったことの証左ともいえる。マスクをしているという自覚が失われてしまっているのだ。

 コロナ禍がはじまったばかりの頃は、近所に出かける際にはよくマスクをするのを忘れていたりもしていたのだが、最近ではそんなことはまったくなくなった。幸か不幸か、意識的な努力をすることなく外出時にはマスクをしている自分がいるのだ。人は案外簡単に新たな習慣を身につけられるということなのだろう。

 繁華街の広い通りを進む。「ロマンス通り」と呼ばれている盛り場だ。界隈には飲食店のほかもカラオケ店やパチンコやパチスロ、ゲームセンターなどもある。独特な薄いピンク色の外壁の「ロサ会館」はこの界隈のランドマークのひとつだ。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 必要に迫られれば新たな習慣はわりと簡単に身につくといえるのだが、その具体的な習慣は当然だが良い習慣もあれば悪い習慣もある。たとえば昼休みに飲食店でランチを食べるという習慣は当人にとって良いものなのだろうか。

 昼の休憩でランチを食べる楽しみが仕事への発奮材料になっているのであれば、それは良い習慣といえるのかもしれないし、一日の食生活の中でランチ習慣がカロリーオーバーや栄養バランスを崩す要因になっているのだとすれば、悪い習慣になる可能性もあるだろう。

 我が身を振り返れば、起床後には炭酸水とブラックコーヒーを飲むことが朝の習慣になっている。この習慣はおそらく多少は健康に資する習慣だと思っているのだが、しかしその一方で夜はどうしても飲酒の習慣に抗うことはできていない。この夜の習慣のほうはあまり褒められたものではないだろう。

 ……とはいえ昼から飲もうとは思わないほうだ。もし今日が休みであったとしても、今この時間から飲みたい気持ちにはならない。まぁともあれ今は昼食を食べる店を早く決めよう。

我々は習慣が持つ力と影響を過小評価している?

 繁華街を進む。ロサ会館の一階にある洋食店の前には3、4人が順番待ちをしていた。洋食もいいのだがあまり並ぶ気にはなれない。もう少し先へいってみたい。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 その習慣が良いものか悪いものかはあくまでもケースバイケースだが、習慣の特徴はその動作なり行為が労せずして半ば無意識的にこなせてしまう点である。そして我々はこの習慣が持つ無意識的な側面を往々にして過小評価していることが最新の研究で報告されていて興味深い。


 コーヒーを飲むことなどの日常の行動は習慣的ですが、人々はその行動を説明するときに習慣の影響をとても軽視していることをUSCの研究者は発見しました。

 今朝コーヒーを飲みましたか? もしそうなら、それはあなたが実際に疲れを感じたからですか、それとも単に習慣的な朝のルーティーンに従ったのですか?

 今月に「Psychological Science」で発表されたUSCの研究では、参加者はコーヒーの消費を含む行動における習慣の役割を過小評価していることがわかりました。

「私たちが毎日行うことの多くは習慣的ですが、私たちは自分の習慣を認めることに消極的であり、代わりに行動は私たちの気分と意図に沿ったものと考えています」

※「University of Southern California」より引用


 南カリフォルニア大学の研究チームが2022年3月に「Psychological Science」で発表した研究では、我々は日常の習慣の影響を過小評価していることを報告している。習慣の持つ力を我々はどういうわけかかなり低く見積もって軽視しているというのである。

 研究チームはまず最初にコーヒー愛飲家に対して、何に促されてコーヒーを飲んでいるのかを尋ねてみた。収集した回答によれば、習慣よりも2倍、倦怠感によってコーヒーを飲んでいることを報告した。

 次に研究チームは1週間にわたって参加者を追跡し、2時間ごとにコーヒーの摂取と倦怠感を記録した。参加者の説明とは対照的に、習慣は倦怠感と同じくらいコーヒーの消費に強い影響を及ぼしていたことがデータから明らかになったのだ。つまり参加者は、コーヒーの消費量に対する倦怠感の影響を過大評価し、習慣の影響を過小評価していることがわかったのだ。

 また別の実験ではオンラインの参加者にネガティブ、ポジティブ、またはニュートラルな記憶を思い出してもらった後、キーボードで「Yes」と「No」に設定したキーを指示に従って押す課題を行った。そしてこの課題を行った後、参加者はさらにもう一度この課題をやってみないかと打診されたのだ。その返事は「Yes」か「No」のキーを押して意思表示することになる。

 最初の課題でどのキーをどの頻度で押したのかは人それぞれに違っていたのだが、直前の課題で「No」のキーを押す頻度が高かった者は「No」と回答する確率が高くなり、課題で「Yes」を多く押していた者は「Yes」と答える確率が高まっていたのだ。つまり新しく身についた習慣が自由回答に影響を及ぼしたのである。

 重要なポイントとしては、回答者はあくまでも今の自分の気分と意思によって回答したと自覚していることだ。習慣から多大な影響を受けているにも関わらず、当人の自覚としてはあくまでも自分の意思で行っている行動であると考えていて、習慣の影響力は些細なものであると軽視しているのである。どうやら我々の多くは習慣の持つ力と影響力にあまり気づいていないようだ。

個室に案内されて一人焼肉を堪能する

 ロサ会館を通り過ぎ、通りを挟んだビル群にも飲食店がひしめきあっている。回転寿司店に麻辣タンメンの店、つけ麺店などが目に入るが、2階以上のテナントにもかなりの飲食店があり居酒屋も多い。

 焼肉やホルモンの店もいくつかある。十字路の角に面した店も焼肉店だ。和牛焼肉の店で、店先にランチメニューの表示もあり見ればなかなかお得である。焼肉も久しぶりだ。入ってみよう。

 一人客には向いていないお店であるのは明らかで、ひょっとすると入れないかとも思ったが、お店の人に案内されたのは個室だったので少し驚く。ランチの時間帯ゆえの“サプライズ”ということになるだろうか。

 個室の4人掛けのテーブル席に着き、少ししてお水を持って来た店員さんに牛タンとカルビがセットになったランチメニューに、追加料金で肉の増量をお願いした。コーヒーはセルフサービスで自分でとってくるシステムだ。

 個室に入ってものを食べるというのも久しぶりだ。そもそもこのコロナ禍では団体で狭い個室に入って飲食するのはそれなりにリスクがあると考えられてきている。自分のような1人客のほうがむしろ個室を利用しやすくなっているとすればこれまでにない面白い現象だ。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 肉がやってきた。葉や藁などが敷かれた肉の盛られ方に趣がある。さっそくロースターで肉を焼く。

 金網の上でいい具合に焼けた牛タンを箸で回収してダイレクトに口に運ぶ。国産牛のタンを食べるのはかなり久しぶりで、ある意味ではこういう味だったかという確認作業にも似ている。歯応えといい、口に広がる風味といい食べていて嬉しくなる。カルビのほうもゆっくり味わうことにしよう。

 個人的には定期的に焼肉を食べる“習慣”はある。コーヒーなどとは違い毎日のように焼肉を食べるわけではないが、外食で焼肉やステーキを食べたり、自宅で牛肉を焼いて食べたりすることは日常茶飯事だ。

 この牛肉食の習慣を止めようとは思わないが、習慣にまかせて無自覚で摂取し続けていれば、いずれは健康面で問題にならないとも限らない。前出の研究のように習慣の多大な影響力を軽視してはならないのだ。「生活習慣病」が厄介なのはまさに“習慣”であるからなのだろう。

文/仲田しんじ


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