現在、物流業界の宅配分野でLCC(ローコストキャリア)が注目されている。新型コロナウイルス感染症の感染拡大でEC需要が急速に伸びたことで、宅配量も増大した。コロナ禍以前からあった物流業界の人手不足や長時間労働、燃料価格上昇などの課題もあり、荷主にとって低運賃で配送を委託できるローコストキャリアを担う物流企業が台頭してきている。
今回は、そのローコストキャリアの代表的な担い手である、ラストワンマイル協同組合とLOCCO株式会社に、現状と課題、今後の展開について聞いた。
LCCを独自配送物流で実現~ラストワンマイル協同組合
ラストワンマイル協同組合は、中小運送会社が集まり結成した組合で、2018年4月10日に設立された。現在、関東・近畿・東海・東北・吸収の47社が参加している。結成の背景には、2017年頃の「物流クライシス」から始まる。ドライバー不足、ドライバーの残業時間増し、燃料価格の上昇などの理由から、大手物流会社が運賃の値上げや集荷制限、荷物のサイズ制限を始めたことから、荷主が非常に苦しい状況となった。
中小の物流会社にも荷主からの配送依頼が殺到した。さらに今後は、ECの通販がめざましく伸びていくことも考え、設立に至ったという。
同組合は、運送会社の協同組合ではめずらしい共同受注をする仕組みで運用している。組合員の多くは大手宅配運送会社の下請け経験から、豊富な知識と配送実績を持ち、ヤマトシステム開発のバックアップもあり、大手運送会社に匹敵する貨物追跡システム・不在システム・伝票発行システムを運用している。
ラストワンマイル協同組合の専務理事、塚原淳氏は、設立の想いについて次のように述べる。
「同組合を結成した運送会社は、かつて大手運送会社3社(ヤマト運輸・日本郵政・佐川急便)さんの下請けとして個人宅向けの宅配の荷物を配送していたり、法人向けに専門に配送をしていたりしていました。EC需要を背景に、宅配の荷物がどんどん増えている中、配送したいと思っても、3社の下請けでないと配送できない状況でした。そこでなんとか自分たちで配送できないかと考えて立ち上がったという経緯があります」
●ラストワンマイル協同組合の特徴
塚原氏は、顧客である荷主に対するアピールポイントとして、3つを挙げているという。
「同組合では、低運賃で出荷でき、なるべく集荷の制限はしないようにするほか、お客様対応のコールセンターや、梱包、資材、出荷(3PLロジスティクス)、専用伝票、オリコン便、置配便などの付帯業務の相談が可能な点の3つを掲げています」
●ローコストキャリア宅配便が実現できている背景
そもそも、なぜローコストキャリアを実現できているのか。塚原氏の話によれば、主に「荷主と物流の工程を分担している」ことがあるという。
通常は、「受付から集荷、仕分、横持ち(運搬)、仕分、配送」までの一連の作業を、配送業者がワンストップで担っている。一方、同組合はこの工程を荷主と分担することにより低運賃を実現している。
例えば、荷主が集荷を依頼せず、営業所別にあらかじめ荷物を仕分けして、各営業所に自ら持ち込む。これにより「受付・集荷・仕分」が省略され、通常よりも低運賃での配送が実現できるという。
●独自性配送物流が直販時代の一つの選択肢に
現在、モノが売れない、人口減少などの社会的背景から、少しでも利益を出すために、卸売店や小売店を介さないECによる「直売」形態に移行が進んでいる。そうした中、荷主がサービスの向上及び物流の満足を獲得するには、「物流の共存」が今後のテーマになってくると塚原氏は述べる。そこで、荷主が物流委託運送会社に求めることは大きく3点が挙げられるという。
「荷主様にとって、『1.運賃の安定化』はやはり必要です。実際、大手配送会社の3社さんだけでなく、同組合にも配送を委託することで、ある意味、運賃値上げなどがあったときの保険にしていただいているケースもあります。また、『2.ビックデータの保護』、つまり個人情報等のセキュリティの保護や、『3.独自性のある物流が構築できるか』。この3つが荷主様に選ばれる物流委託運送会社としては重要だと同組合では思っております」
同組合では、他社共同の配送物流の独自性配送物流の仕組みを構築している。立川ハブセンターに集められた多くの荷主の荷物を、13か所の地区デポに配送し、さらに組合員が持つ46か所配送センター別に仕分けをしてトラックに複数の荷主の荷物を混載して配送することで、密度濃く効率的に配送できるようになっている。
●今後の計画と展望
塚原氏は、今後の計画と展望について次のように述べる。
「今後の展望は、エリア拡大と荷主の会社数を増やしていくことです。ちょうど4期目が終わったところですが、前年比280%くらいになりました。4期目から5期目は、350~400%くらいになるのではないかと見込んでいます。このペースで荷物が増えていくと、新しい組合員を増やさなければ配送しきれなくなってしまうので、組合員となる運送会社さんを増やしていきたいです。現在は47社ですが、今後、3年後、5年後には100社くらいになるのではないかと思っております」
置き配サービス「OCCO(オッコ)」輸送費を約10%削減
続いては、2020年8月に誕生したシェア型LCC(ローコストキャリア)宅配サービス、株式会社LOCCOが手がける「OCCO(オッコ)」だ。
同社は、物流企業であるセイノーHDのココネットと、通販企業のフェリシモ、システム開発企業のNL PLUSの3社が協働し、物流企業が抱える課題解決を目的に設立された。物流クライシスを受け、宅配運賃の大幅値上げなどを背景として、フェリシモは自ら荷物を届ける仕組みをセイノーHDとNL PLUSに協力を仰いだ。「人と人をつなぐトロッコになりたい」という願いから「LOCCO」を社名にし、「OCCO」は「置くだけ」、つまり置き配を意味しているという。
配送は、セイノーの幹線輸送を利用し、置き配による再配達削減により、既存の宅配業者よりも安価かつ安全に届ける。置き配完了後は届け先にメールで配達完了画像を送るサービスを備えている。
●OCCOがローコストキャリアを実現できている背景
LOCCOの広報担当、川﨑氏は、OCCOがローコストキャリアを実現できている背景について次のように述べる。
「OCCOは、都市間の輸送をセイノーグループの幹線輸送網を利用することで効率化し、ラストワンマイル配送をシェアワーカーに委託することで、安心安全な輸送サービスの提供とコストダウンを同時に実現させております。現在、北海道から鹿児島県までの全国19都道府県で配送可能です。当社の置き配サービスOCCOを利用していただくことで、輸送費用全体の10%程度、コストを削減頂けています」
OCCOが始まってから、荷物の受け取り手であるフェリシモユーザーからも好評の声が挙がっているそうだ。
「利用者の皆様より『配達を待つ時間が無くなり便利』『配達完了画像がメールで届いて嬉しい』『ビニール袋に入っていて汚れの心配もなく安心』というお声をいただいているとうかがっています」
●現時点の課題と解決計画
現在、どのような課題があるのだろうか。
「コロナ禍の影響もあり、一般的に『置き配』に対する認知度は高まってきているものの、当社に対する認知度は決して高くない状況です。当社のことをより多くの方や企業の皆様に知っていただき、より多くの方々にLOCCOの良さを感じていただくことが、現在の課題です。セイノーグループのネットワークを駆使し、より多くの方々にご利用いただけるよう取り組んでおります」
●今後の展望
OCCOの今後の展望について、川﨑氏は次のように述べる。
「物流クライシスや2024年問題、配送員の高齢化など、現在の日本では数多くの物流課題に直面しています。コロナの影響が長引いていることもあり、置き配は、今後、今以上にスタンダードになっていくことでしょう。
このような状況の中で、日本の物流課題を解決する選択肢のひとつとして、当社の置き配があります。少しでも、日本の物流が『送り手』『受け取り手』『配り手』とすべてのステークホルダーにとって、心地の良いものとなる未来を創造していきたいと考えております」
ローコストキャリアといっても、ただの低運賃だけでない背景があることがわかった。コロナ禍でECが急増した中、新たな宅配の配送の担い手は、EC利用ユーザーにとってはもちろんのこと、物流クライシスや物流課題で苦しむ物流業者全般にいい影響がもたらされているようだ。
取材・文/石原亜香利