■連載/阿部純子のトレンド探検隊
IKEA for Businessを集約した5階など、3フロアがリニューアル
2020年11月に都心型店舗2号店としてオープンした「IKEA渋谷」が、今年4月にリニューアルオープンした。
リニューアルしたのは3フロア。5階は、渋谷・道玄坂にあった法人・ビジネスオーナー向けのプランニングスペース「IKEA for Business」を閉店してフロアを集約し、個人、ビジネス双方に対応したインテリアデザインサービスエリアを新設。
2階は、ホームデコレーション、展示品などを割引価格で販売する「IKEA渋谷 Circular shop」(以下、サーキュラーショップ)を移設。6階は、リビングルーム、ベッドルーム、収納家具をまとめて展示するスタイルに変更した。
リニューアルのポイントや狙いなどについて、IKEA for Businessのストアマネジャーを務め、現在はIKEA渋谷のDeputy Market Manager (副店長)である菊池武嗣氏に話を伺った。
「道玄坂のIKEA for Businessはショールームとして商談をさせていただく場としての役割がメインで、その日にお持ち帰りいただく買い物はできませんでした。実物を見て『これが10個欲しい』というお客様には対応できなかったのです。オンライン商談の際に、パーツを見たいと希望されたお客様が、購買店に行くように言われてしまったというご指摘もありました。
それに加え、『IKEA渋谷で家庭用のデスクを見たが物足りなさを感じたので、IKEA for Businessに来た』というBtoCのお客様が想定以上にいらっしゃって、ビジネス向けとはいえ、法人、一般向けの双方にニーズがあることを感じていました。
同時に、お客様のニーズが多様化し、オンライン販売やリモートサービスが増えてきている中で、最終的に納得いただける形で購入していただくサポートができれば、とも考えていました。
都心型店舗のメリットを活かすには、BtoBのニーズ、オフィス向け商品を家庭で使いたいというBtoCのニーズ、オンラインのお客様が実物をご覧になりたいというニーズ、さまざまなお客様の利便性を向上すべきであると考え、5階のフロアを充実させて、シームレスにどちらのお客様でもご覧いただけるフロアにリニューアルしました。
IKEA for Businessのショールームと比べて売場面積はIKEA渋谷の方が拡充されており、BtoB、BtoCのお客様のニーズに対応するため、商品数も増やしています。IKEA for Businessでは、ホテルやカフェ、美容院などの店舗に寄った特長的な商品を展示しており、全部の商品を取り揃えることが難しかったのですが、拡充したこちらではより広いチョイスが可能になりました。
IKEA for BusinessのときもBtoCのお客様は来店されていましたが、来店客数では圧倒的にIKEA渋谷の方が多いので、より多くの方の目に触れていただくことができるようになったのも利点です」(菊池氏)
〇5階フロア
IKEA for Businessを集約し、個人向け、ビジネス向けいずれにも対応したインテリアデザインサービスエリアを新設。専任アドバイザーによる、IKEA Familyの個人向けのインテリアプラニング、IKEA for Businessのインテリアプランニング、双方のサービスを行う。
インテリアデザインサービスエリアは、道玄坂のIKEA for Businessの雰囲気と近いフリーアドレス。セミナーエリアとしても活用しており、コンサルティングを行っていないときは、商品展示の一部として見てもらうように設計されている。
都心型店舗としては初めて、キッチンやワードローブなどの組み合わせ家具のパーツを揃えたプランニングスタジオもオープンした。システムキッチン「メトード」、収納システム「ベストー」、ワードローブの収納「パックス」と、パーツや面材、素材などすべてのサンプルが用意され、天板、パーツなどを組み合わせてトータルコーディネートとして相談ができ、商品展示されていないカラーでもここで確認することが可能。
都心型店舗では初めての大型キッチンエリアを設立し、イケアの特徴を活かしたセットにしている。日本では壁付けにした収納キッチンが一般的だが、イケアではキッチンにも使える収納として提案。収納システムのベストーで構成した食器棚など、カテゴリーにこだわらず提案できるようにしている。
イケアではルームセットというシチュエーションを設定した展示をしているが、5階に関しては法人がメインとなるので不動産の店舗を想定したルームセットを用意。キッチンの具材を使った受付カウンターや、商談エリア、事務用エリアと2~3人の従業員を想定したオフィスの提案になっている。
「法人では1~50人規模のスモールビジネスのお客様が中心。美容室やカフェといった店舗にしてしまうとイメージが限られてしまうので、商談スペースやオフィススペースを併設している不動産店舗がわかりやすいシチュエーションではないかと、こちらのセットを展示しています」(菊池氏)
プロフェッショナルオフィスのエリアはオフィス向けのデスクやイスが並ぶが、その間にダイニングテーブルのセットが展示されている。実際に大型のダイニングテーブル(下記画像)はスモールオフィスでは会議用のテーブルとしても活用できるため、ビジネス用、家庭用とカテゴリーに分けずにシームレスに展示することでより選択の幅が広がる。
コロナ禍以降リモートワークが増えたことから、自宅での仕事場もビジネス用、家庭用がシームレスに選べるようになっており、スペースにはデスク周りを整理できる小物が並び、自宅で使えるハイテーブルの提案も。
インフォメーションは相談窓口としてスタートとなる場所。客自身で商品が探せるタッチパネルも用意されている。
「都心型店舗は郊外型の大型店と違い全商品を展示できないので、オムニチャネルとしてのシームレスを体験していただけるようにしています。今後はオムニチャネルをさらに徹底して進めて行きたいと考えており、IKEAアプリを使って買い物ができる『IKEA Scan & Pay』など、チャネルを増やしていくことで、お客様にとって一番使いやすい方法を選んでいただけるようにしていきます」(菊池氏)
IKEAアプリに新機能として搭載された「IKEA Scan & Pay」は、店舗で買い物する際にIKEAアプリで買いたい商品のバーコードをスキャンして、会計時にアプリで作成された会計用の2次元バーコードを優先レジにかざすことで決済できるシステム。
対象商品は家具、雑貨、フードと店舗で販売している全商品で、購入商品をアプリ上で確認できるので、買い忘れの防止や、ショッピング中に買い物の合計金額を把握することもできる。
〇2階、6階フロア
以前は5~6階と上層フロアに置いてあった、インテリアグリーンやキャンドル、フレーム、時計といったホームデコレーションをアクセスしやすい低層の2階へ移動。
開店準備の段階で生じた新中古品、商品の入れ替えで使用しなくなった展示品をアウトレット価格で販売するサーキュラーショップを設置し、循環型ビジネスにも取り組む。
6階は都市部で暮らす人々のニーズに合わせ、一人暮らし、二人暮らしのリビングルーム、ベッドルーム、収納家具を中心に展示。買い物の利便性やトータルコーディネートがしやすくなるように、以前からあったベッドやソファといった家具類と、別のフロアにあったクッションやカーテン、ラグなどのテキスタイルを同じフロアにまとめた。
【AJの読み】個人、ビジネス、オンラインとすべての客層をカバーできる都心型店舗
都市部に住んでいる人にとっては、車で行かなくてはいけないような郊外に立地していたころ、イケアは頻繁に買い物に行ける場所ではなかった。2017年にオンライン販売が始まり、欲しくてもすぐに買いに行けなかったイケアの家具が、オンラインで購入できると利便性を実感したことを思い出す。
2020年にはイケア・ジャパン初となる都心型店舗「IKEA原宿」が原宿駅前にオープン。フリーザーバッグなど小物類がすぐに買えると、仕事で原宿近辺に行くときは立ち寄るのが定番となった。
「オンライン販売は2017年からですが、ビジネス向けについてもイケアでは10年前から取り組んでいます。コロナ禍によりオンライン販売が増え、リモートワークが増加し、車の所有率も変化してきました。イケアとしてもより多くの方にリーチしていきたいということから都心型店舗が誕生しました。
オンラインで商談する中で、パーツなどでもやはり実物が見たいという要望が出てきます。オンラインを利用しているお客様は、さまざまな事情で移動に躊躇されている方もいますし、利便性を求めている方もいます。そういった方々に郊外の店舗で全部見てくださいというのは難しいため、ご覧いただける場所を作るということが、トータルで見たときにお客様にとってはより便利になるのではないかと考えています。
IKEA渋谷ではIKEA for Businessを集約して、BtoB、BtoCをシームレスにしたことで、オンラインやリモートの方にもサポートしていくことを目指しています。また、IKEA渋谷のみならず、昨年オープンしたIKEA新宿もお客様のニーズに合わせて、今年の4月にリニューアルしました。想定していたよりもお子様連れのファミリー層が多かったことから、改装も含め、来ていただいたお客様のニーズに合った商品の入れ替えも行っています。
都心型店舗は現在3店舗ですが、お店に来ていただくお客様がいかに納得して買っていただけるのか、今後も追求していきたいと思っています」(菊池氏)
個人やビジネス、オンライン商談、オンライン購入と、目的や手段を問わず、すべての客層をカバーできるイケア都心型店舗は、時代やニーズに合わせて今後も変化を続けていくのではないだろうか。
文/阿部純子