大学進学と同時に家を出る場合などには、住民票を移さないケースがあるようです。「手続きが面倒だから」「どうせ戻ってくるから」といった理由があるのかもしれません。
しかし法律上は、転入・転居時の届出(住民票の移転)は義務となっている点に注意が必要です。また、住民票を移さないことには少なからずデメリットもあるので、転入・転居後早めに手続きを行うことをお勧めいたします。
今回は、引っ越したら住民票を移すことは必須なのかどうかについて、法律その他の観点からまとめました。
1. 転入・転居時の届出義務について
住民票に関するルールなどを定める「住民基本台帳法」では、転入・転居時の届出義務を定めています。
1-1. 「転入」と「転居」の違い
「転入」とは、異なる市町村間で住所を変更することを意味します(住民基本台帳法22条1項)。転入の場合、新住所の市町村では、新たに住民票を作成することになります。
これに対して「転居」とは、同じ市町村の中で住所を変更することを意味します(同法23条)。転居の場合、従前の住民票の住所記載が変更されます。
1-2. 転入・転居・転出はいずれも届出義務あり
住民の居住状況を正確に把握する観点から、転入・転居をした場合には、新住所の市町村長にその旨を届け出ることが義務付けられています(住民基本台帳法22条1項、23条)。
転入・転居の届出は、転入・転居をした日から14日以内に行わなければなりません。
また、異なる市町村間で住所を変更する「転入」の場合、旧住所の市町村長に対しては「転出」の届出を行う必要があります(同法24条)。転出の届出は、実際に転出する前にあらかじめ行わなければなりません。
1-3. 転入・転居・転出の届出を怠った場合は「過料」|ただし例外あり
転入・転居・転出の届出義務に違反して、届出を行わなかった場合には「5万円以下の過料」に処されます(住民基本台帳法52条1項)。
ただし、「正当な理由」がある場合には、転入・転居・転出の届出を行わなかったとしても、例外的に過料の対象外となります。正当な理由がある場合の例は、以下のとおりです。
・1年以内に旧住所へ戻ってくることが決まっている場合
・進学のため実家を離れるが、卒業後は実家へ戻ってくることが決まっている場合
1-4. 実際に過料が科されることはあるのか?
転入・転居・転出の届出義務に違反したとしても、実際に過料が科された例は聞いたことがありません。過料を科された例が見られないことの背景には、以下の理由があると考えられます。
・届出義務違反のケースが無数に存在すること
・違反によって自治体に実害が生じるケースがほとんどないこと
・「5万円以下の過料」という制裁内容が軽いものであること
2. 引っ越したら住民票を移した方がよい理由
ただし、過料の制裁を受ける可能性が低いとしても、新住所で生活する期間がそれなりに長くなる場合は、転入・転居・転出の手続きを行い、住民票を移しておいた方がよいでしょう。
引っ越したら住民票を移した方がよい理由は、主に以下のとおりです。
2-1. 公的な郵便物が現住所へ届くようになる
税金や社会保険など、公的な案内に関する郵便物は、すべて住民票記載の住所宛に送付されます。住民票を移すメリットの一つは、これらの公的な郵便物が現住所宛に届くようになる点です。
大学生などであれば、実家に公的な郵便物が届いたとしても、親が管理してくれれば大きな問題はないかもしれません。しかし社会人の場合は、ご自身の手元で管理することが望ましいと思いますので、一時的な転居であっても住民票を移しておくことをお勧めいたします。
2-2. 新住所で選挙権を行使できる
国政選挙や地方自治選挙の投票は、住民票記載の住所地でのみ行うことができます。
そのため、住民票を移していない場合には、旧住所で投票を行わなければなりません。しかし、投票を行うためにわざわざ遠方から旧住所へ足を運ぶのは大変であり、選挙権行使の機会を失ってしまうケースもよくあります。
選挙への投票を行う予定がある場合には、引っ越したら早めに住民票を移しておきましょう。
2-3. 住民票を移さないと、身分証明書が受け付けられないケースがある
運転免許証やマイナンバーカードなどの身分証明書には、住民票上の住所が記載されます。
したがって、引っ越しても住民票を移していない場合、身分証明書上の住所と現住所の間にズレが生じます。この場合、正当な身分証明書として認められない可能性があるので注意が必要です。
たとえば、金融機関での手続きや、図書館などの公共サービスの利用申込みなどの場面では、現住所を反映した身分証明書の提示が必須となります。これらの手続きが必要となった場合、転入・転居・転出の手続きを結局行わなければなりません。
ある程度以上の期間生活をしていると、金融機関や公共サービスに関する手続きを行うべき場面に遭遇する可能性が高いです。そのため、ごく短期間の転入・転居である場合を除き、引っ越し後は早めに住民票を移しておきましょう。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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