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D2Cブランドの〝ものを売らない店〟が急増している理由

2022.05.11

■連載/阿部純子のトレンド探検隊

小売店を通さず、ECサイトなどから商品を直接消費者に販売するD2Cブランドが注目される中で、D2Cブランドの商品を実際に手に取ることができる体験型店舗「ものを売らない店」が、この2年で急増している。

先駆けとなったのは、2020年8月に新宿と有楽町にオープンしたアメリカ発の「b8ta」。その後、丸井グループ、大丸 東京、そごう・西武と百貨店も続々と「ものを売らない店」に参入している。

4月末に越谷レイクタウン店をオープンしたb8taと、ショールーミングストア事業を開始した髙島屋を取材し、今や定番化した「売らない店」を今後どのように発展させるのか、その戦略を探った。

【b8ta】すでにコモディティ化した「売らない店」を進化させ差別化を図る

2015年にシリコンバレーで創業した、RaaS (Retail as a Service)のパイオニア「b8ta」。区画を提供して、出品している企業と来店する客を繋げるビジネスモデルを展開している。

しかし、発祥の地のアメリカではコロナ禍でb8ta 全店舗が閉店。アメリカは店舗、ECでの売上や来店客数に比例する売上歩合を導入していたことで、コロナでの客数激減が大きな痛手となった。

日本では、2020年8月に新宿と有楽町にオープン。新型コロナと共に事業がスタートしたが、2021年4月には福岡のポップアップショップ、2021年11月には渋谷に3店舗目がオープンし、カフェの併設、食関連の企業の出展など体験の幅を広げている。

日本は固定賃料で来店客数に左右されないため、コロナ禍でも順調に国内事業は拡大。日本国内における事業に関わる”b8ta”の商標権およびソフトウェアのライセンスを2021年末に独占的に取得した。

今年4月には東芝テックをリードインベスターとした第三者割当増資を実施し、資金調達を完了。6月末に追加の資金調達を予定しており、累計調達額は6億円前後となる予定だ。4月末には4店舗目となる越谷レイクタウン店がオープンし、国内事業の拡大を見据えている。

「売ることを主目的としない店舗は国内で市民権を得ており、“売らない店”がますます増加しています。売らない店に注目が集まる理由はいくつかあります。まず、実店舗の存在価値が問われている中、コロナ禍でさらにその流れは加速し、オンライン購入が増えてオフラインでの購入が減ったこと。さらに、商業施設、百貨店の新たな収益モデルとして注目されているという点や、店内での行動分析をして、ブラックボックスだった店舗内の行動を可視化できる点が挙げられます。

我々はパイオニアとして、“売らない店”を開拓してきた自負があり、多店舗展開を実現できているのは弊社だけです。すでに売らない店はコモディティ化している状況の中で、4店舗目オープンとなると、どのように差別化していくのかがポイントになってくるでしょう」(b8ta Japan CEO北川卓司氏)

進化は出展する商品カテゴリーの変化にも表れている。当初はガジェット、IoT関連商品が70%を占めたが、現在は50%にまで落ちており、商品カテゴリーの幅が広がっている。

より進化した体験型ストアを見据えた「実証実験店舗 b8ta 1.5」が昨年11月にオープンした渋谷店だ。食品カテゴリーを拡充し、試飲・試食の新たな体験を導入。3D LiDARを使用した店前通行量の把握や、独自のアプリを使った新しいデータ取得方法を採用。イベント、試食・試飲のタイミングは人流ピークのデータを活用している。

さらに昨年渋谷店で特別展示された「日産アリア」のように、可動式什器によるディスプレイ変更、自由に色の変わる照明などで、フレキシブルな展示エリア、イベントスペースを実施している。

〇b8ta Koshigaya Laketown

新店舗の越谷レイクタウン店は53.87坪で、国内外から46の商品やサービスが出店。出品料は他店と同様に月額30万円だが、展示スペースは1区画490mm×980mmで幅が通常の2倍となっている。

イベントスペースのほか、ライブキッチンを併設。電化製品を買わずにレンタルしてお試しができる「レンティオ」と協業して、シャープのホットクックやウォーターオーブントースターなど、キッチン家電7アイテムを利用し試食を実施、気に入った場合はその場でレンタルの申し込みできる。オープン時はスタッフ調理のみだが、今後は予約制で客自身が調理できるスタイルも予定している。その他にも10ブランドの試飲・試食が可能になっている。 

世界に720万人のユーザーを抱える世界最大級の宅配ミールキットサービス「HelloFresh」、食物アレルギーケア食品「Table for All」、オーストラリアワインのサブスクリプションサービス「G’day Wine(グッダイワイン)」、日本未上陸キッズ向け歯ブラシ「ジョーダン歯ブラシ」など、日本初進出、オフライン展開初の商品やサービスも出展。

また、埼玉りそな銀行と地域デザインラボさいたまとの協業により、埼玉県所在企業5社の出品も決定し、今後も埼玉県にゆかりのある企業の出展機会を創出していくという。

【Meetz STORE】ギフト機能を充実させた専用オンラインサイトや出展企業に海外販路を提供

「売らない店」の構成比が4割を超え、D2Cブランドへの融資や出店、運営を支援する子会社も設立した丸井グループ、大丸 東京のショールーミングスペース「明日見世」、D2Cブランドを集約した西武渋谷店の「CHOOSEBASE SHIBUYA」と、百貨店でも続々と売らない店は誕生しているが、4月末に髙島屋新宿店にもショールーミングストア「Meetz STORE」がオープンした。

髙島屋とトランスコスモスの合弁会社「TAKASHIMAYA TRANSCOSMOS INTERNATIONAL COMMERCE」(以下TTIC)によるショールーミングストア事業で、ブランド力やきめ細やかな接客サービスを強みとする髙島屋、デジタルサービス・システム構築を得意とするトランスコスモス、海外への卸・小売販売事業を行う中で構築したさまざまなD2C企業との接点を強みとするTTIC の3社で、ショールーミング事業のスキームを構築。

百貨店が得意とする接客サービス、ギフト機能を充実させた専用オンラインサイト、D2C 企業を中心とした従来の百貨店にはない品揃えを提供することで、百貨店になじみのないZ世代の接点の獲得を目指す。

2023年には関西圏への出店、アジアを中心に海外も含めて最終目標10店舗を計画している。また、ショールーミングストア事業で得たD2C企業とのネットワークを、TTICで取り組んでいる越境EC 事業に生かすことで、出展企業に対し海外販路を提供するとともに、インバウンド需要を取り込みも狙う。

「“売らない店”については以前から注目しており、b8taが日本に進出してきたころから事業化を進めてきました。その間に大丸やそごう・西武といった百貨店が事業を開始しましたが、先行する企業の運営状況などをしっかりと観察させていただき、我々の特長をどう出していくべきかを検討してきました。

Meetz STOREの大きな特色は、ギフト機能を充実させた専用オンラインサイトです。ギフトに適した商品セレクトに加え、専用オンラインサイトでお買上げいただいた商品は、ご要望に応じてギフト包装配送が可能で、SNS やメールだけを通じての知り合いで、住所を知らない相手にもギフトを贈ることができます。

髙島屋は海外へ日本の良品をお届けするビジネスも行っており、TTICは越境EC事業にも取り組んでいますので、海外販路に興味をお持ちのスタートアップの事業者にも髙島屋の海外店舗につながる入り口としてイメージしていただき、海外へのチャレンジを手助けできるのではないかと考えています。今回、韓国の子供服、バンコク髙島屋のデベロッパーパートナーであるサイアムピワットが日本初上陸となりますが、日本市場への参入を考えている海外の企業の手助けもしていきたいと思っています。

Meetz STOREでは百貨店の既存のお客様だけでなく、百貨店と接点が少ないZ世代を取り込んでいきたいという強い思いがあります。EC購入に慣れているZ世代に、実物に見て触れる体験型店舗を提供することで、新たなブランドとの出合いやリアルなショッピング体験へのきっかけづくりにしたいと考えています」(TTIC 取締役 総務担当役員 塩川禎氏)

〇Meetz STORE

「食・グルメ」「ライフスタイル」「ビューティー」「日本アート&クラフト」「エシカル」の5つのテーマに沿った商品を提案。各分野に精通した5名のキュレーターによる目利きの力を通じた商品を発信する。

キュレーターセレクト以外に25ブースあり、全部で約60社が出展。商品はキュレーターと同じく5つのカテゴリーでセレクト。大阪のものづくり製品「大阪製ブランド」として大阪府知事が認定した大阪府7ブランドも出展する。韓国の子供服ブランド「ペリミッツ」、タイのサイアムピワット社がセレクトする3ブランドは日本初上陸となる。

商品選定の基準はギフトとして選びやすいものに加え、作り手から買い手へ、そして買い手からギフトとして受け取る側へ想いを結び、想いを循環させるプラットフォームにふさわしいストーリーのある商品をピックアップしているという。

基本的に6か月単位で入れ替わる予定だが、季節性の商材もあるため1~3か月単位で入れ替わるものもある。

店頭では専属のギフトコンシェルジュを6名配置。展示商品の説明や、専用オンラインサイトの利用方法などのアドバイスを行い、客のニーズに合わせたショッピング体験をサポートする。店内にはオンライン接客専用ブースを設置し、来店できない客も店頭と同様の接客が受けられる(要予約)。

天井にはAIカメラがあり、AIカメラからの取得データ、専用オンラインサイトやSNSから得た閲覧データなどを組み合わせた定量分析に加え、ギフトコンシェルジュが接客での会話を通じて得た客の購買意欲や動機などの定性情報を提供。これらの情報を今後の製品開発などに活かす。

専用オンラインサイトはTTIC が運営を担うため、出展者は店頭用展示サンプルと販売用商品の手配など最小限の準備で済むため少ない負担で、ECのみの販売では難しかった新たな顧客の獲得も期待できる。

【AJの読み】いかに差別化するかが今後の課題に

2020年から2021年にかけて、期間限定のショップも含めD2Cブランドを誘致した体験型店舗が続々とオープンした。商業施設や百貨店が売場を提供し、ECチャネルのD2Cブランドがリアル店舗に出展することで新しいタッチポイントを獲得していく「売らない店」は話題性があったが、「売らない店がコモディティ化した今では、新店舗オープンだけではメディアにも注目されない」(北川CEO)というほど競合が増えており、さらに今夏には、D2Cブランドを集積したニューヨーク発のショーフィールズが日本に上陸する予定だ。

b8taではRaaSビジネス展開を容易にスタートできる新事業の開発や、アジア諸国への進出を資金調達の使途として挙げている。Meetz STOREも出展企業への海外販路の提供や、インバウンド需要の取り込みなど、海外にも目を向けた事業を展開する。過熱するD2Cブランド体験型店舗は、差別化が今後の課題となってくるだろう。

文/阿部純子

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