脳画像検査で精神病やうつ病の悪化リスクを予測
将来、重度の精神障害の診断や治療の選択に際し、脳MRI検査が必要になる時代が来るかもしれない。
脳MRI検査によってうつ病または精神病の患者の中から、転帰不良となる可能性が最も高い患者を見つけ出せる可能性があるとする研究結果が報告された。
英バーミンガム大学のParis Lalousis氏らによるこの研究の詳細は、「Biological Psychiatry」に2022年4月11日掲載された。
この研究は、精神病を予測するツールについて検討している欧州の研究「PRONIA試験」の参加者のデータを用いたもの。
対象者は、発症早期の精神病(recent onset psychosis;ROP)患者155人、発症早期のうつ病(recent onset depression;ROD)患者147人、および健康な対照群275人だった。
Lalousis氏らは、機械学習アルゴリズムを用いて対象者の脳画像データの評価を行ない、画像の神経解剖学的特徴に基づいて患者をクラスター1(153人)とクラスター2(149人)の2つのグループに分けた。各クラスターにはROP患者とROD患者の両方が含まれていた。
解析の結果、クラスター2では、灰白質の容積が少ないことが転帰不良に関連することが示唆された。
灰白質は筋肉の制御や記憶、感情、意思決定に関わる脳領域である。また、同クラスターでは炎症レベルの上昇や集中力の低下、その他のうつ病や統合失調症に関連付けられている認知機能の障害が認められた。
それに対してクラスター1では、灰白質の容積が多く、それが患者の良好な転帰に関連することが示唆された。
次に、最初の診断から9カ月後の患者の状態を予測するため、2つ目のアルゴリズムを用いた検討を行なった。
その結果、従来の診断と比べて生物学的な見地から分類したクラスターを用いた方が、転帰の予測精度は高いことが示された。
さらに、これらのクラスターを米国とドイツで実施された他の大規模コホート研究の中で検証したところ、患者の転帰の予測にこれらのクラスターを使用できることが示された。
なお、これらの大規模研究の参加者には、新規診断例だけでなく慢性疾患患者も含まれていたが、罹病期間が長くなるほど、灰白質の容積が減少するクラスターに分類される確率が高まったという。
こうした結果を受けてLalousis氏は、「このことから分かるのは、発症早期の患者では、ある脳の特徴から転帰不良を予測できる可能性があるということだ。また、別のクラスターでは、集中的な治療の必要性は低いとみなしてもよい患者の特徴が示された」と話す。
Lalousis氏によると、これまでにも精神疾患の診断や予後の予測に脳画像検査を用いる研究は行なわれてきたが、現在、臨床でそのような目的で脳画像検査が行われることはないという。
こうした状況を説明した上で同氏は、「今回の研究により、脳画像データや他の神経生物学的な情報を使って、精神病やうつ病の患者に対する、より的確な治療アプローチを生み出すという目標の実現に、一歩近付くことができたと感じている」と話している。
なおLalousis氏らは、大規模臨床試験を計画する前に、今回の研究結果を改めて確認する予定だ。
「クリニックの受診者にこれらのモデルを適用することで、従来の診断よりも正確に患者を層別化できるかどうか検討する。それが、われわれが今やるべきことだ。もし、その後の患者の転帰に違いが認められれば、これらのモデルが実際に臨床的に有用であると言って差し支えないだろう」としている。
今回の報告を受け、米南カリフォルニア大学ケック医学校精神科のSteven Siegel氏は、「このモデルは、現在の診断精度や治療計画を大幅に向上させる技術になる可能性がある」と期待を示している。(HealthDay News 2022年4月18日)
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(参考情報)
Abstract/Full Text
https://www.biologicalpsychiatryjournal.com/article/S0006-3223(22)01156-8/fulltext
構成/DIME編集部
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