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編集者がいない離島の出版社が目指す出版ビジネスの新しいカタチ

2022.05.11

売上より大事なのは、本で生まれる人の繋がり

出版社は情報が集まりやすい都心部が有利――それはもはや過去の話かもしれない。隠岐諸島にある出版社が2021年に発売した書籍がなんと3万部のヒットを記録。運営しているのは、元自動車エンジニア。しかも出版社内に編集者は存在しない。異例づくしの出版社が大事にしている、都心でないことを最大限に生かした制作・販売戦略について聞いた。

***

島根県本土からフェリーでおよそ3時間。隠岐諸島にある人口2000人ほどの離島、海士(あま)町で出版社「海士の風」を運営するのは、株式会社風と土と代表取締役の阿部裕志さんだ。

2019年に立ち上げました。運営のコアメンバーは私含め3人です」

海士の風には、なんと編集者がいない。企画およびプロデュースのみを担当し、編集や出版は英治出版という別会社に委託しているのだという。

「海士の風では売上目標を立てていません。一冊一冊を丁寧に作りたいと考えており、編集作業を委託することで、固定費を抱えず、タイトルごとに委託料を払うことで運営しています」

阿部さんは本を出版することがゴールではないことを特に大事にしている。

「世の中を良くするための本ってすでにたくさんあって、知恵は十分集まっています。それが根付いていないことが問題です。我々は本を売るだけではなく、本の中で書かれている理念や思想を世の中で実現したいと考えています。そのためにも、本を通じて人のつながりを作り、関係資本を築くことを大切にしています」

2021年4月には初の書籍となる『進化思考』を刊行したが、制作の過程でもユニークな取り組みを行なっている。

「著者と話し合い、発売4ヶ月前に試作版を100冊刷って、著者や私たちの知り合いに送本して読んでもらい、フィードバックをもらいました。いわば100人の共同編集と一緒に本を作り上げるようなものです。修正箇所は1000箇所以上にのぼりましたが、おかげでより高いクオリティの本になりました。協力してくれた方に発売前に話題にしてもらったり、発売後に対談企画を組んでもらったりしていただけたのもありがたかったです」

編集を委託し、柔軟な体制のもと制作しているからこそできる施策で、大手の出版社だとそう簡単には実現しないだろう。これが話題になり、Amazonでは発売前からビジネス書ランキングで1位になるなどヒット。発行部数3万部を超え、山本七平賞を受賞するに至った。

元エンジニアが離島で感じた「人の出会い」による価値

阿部さんは海士町出身ではなく、2008年に移住し起業、今に至っている。離島で出版社を立ち上げたのは偶然が重なった結果だと語る。

「元々は自動車工業のエンジニアとして勤めていましたが、当時は世界的に激しい競争にさらされながら仕事をしていました。この争いの果てに、一体誰が幸せになれるんだろうか――そんな問いが頭の中をずっと巡り続けていました」

社会のあり方に疑問を抱いていたその折、友人から海士町を紹介された。少子高齢化が進み、このままでは無人島になりかねない危機的な状況の島だが、実際に行ってみると、ご近所でのおすそ分けや子どもたちも見知らぬ人に挨拶するといった、都会では失われつつある光景が当たり前のように広がっていた。

「そして何より、島のためなら変化を恐れないという島民の皆さんの姿勢にとても共感しました。ここでなら人生をかけて、自分が心から願う未来を生み出すことができる。そう思って移住と起業を決意しました」

阿部さんが一番大事にしているのが「共創」という考え方だ。

「人と人の共感や信頼が生み出す力の可能性を信じていて、そこから生まれる価値を広めることが使命だと思っています。本の出版はその手段の一つです。我々が共感する著者と一生の思い出になるような熱量で本の制作に取り組んでもらうことで、最高の一冊を作り上げることができます。

そして、たくさんの人の力を借りて楽しく本を作る過程で、その本や著者のことを応援してくれる人が増えます。本にかかわった全ての人が幸せになるような取り組みを大事にしています」

『進化思考』発売後、著者の太刀川英輔さんが島で唯一の高校である隠岐島前高校で授業を行なった(海士町公式noteより)。

この考え方は、風と土とで取り組んでいる他の事業にも通じている。まちづくり計画や医療人材採用等を自治体と協力して進める地域づくり事業、海士町をフィールドにトヨタ自動車やサントリーといった企業に研修を提供している人材育成事業、そして2019年からスタートした出版事業。この3つの柱でビジネスとして確立させつつ、持続可能で幸せな社会の実現を目指している。海士の風では現在『進化思考』『「わかりあえない」を越える』の2冊の本を発売しており、今後も継続的に刊行し続けていく予定だ。

「目標は、3年で10冊の本を作ること。現在も様々な企画が進行中で、これらを通じて新しい繋がりを作り、新しい価値を生み出していきます」

取材・文/桑元康平(すいのこ)

1990年、鹿児島県生まれ。プロゲーマー。鹿児島大学大学院で焼酎製造学を専攻。卒業後、大手焼酎メーカー勤務を経て20195月より、eスポーツのイベント運営等を行うウェルプレイド(現ウェルプレイド・ライゼスト)のスポンサードを受け「大乱闘スマッシュブラザーズ」シリーズのプロ選手として活動開始。代表作に『eスポーツ選手はなぜ勉強ができるのか』(小学館新書)。
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