脳内の「小さな」善玉コレステロールがアルツハイマー病を防ぐ?
粒子サイズの小さい高比重リポ蛋白(HDL)が、脳脊髄液中に多く存在していると、アルツハイマー病のリスクが低下する可能性を示した論文が、「Alzheimer’s & Dementia: The Journal of the Alzheimer’s Association」に2022年4月13日掲載された。
上席著者である米南カリフォルニア大学(USC)ケック医学校のHussein Yassine氏は、「脳内の小粒子HDLをカウントしたのは本研究が初めて」と述べている。
HDLは、いわゆる“善玉コレステロール”と呼ばれるHDL-Cを運搬するためのリポ蛋白。HDL-Cの値が高いことは動脈硬化のリスクが低いことと関連しており、さらに認知機能の高さとも関連する可能性を指摘した研究報告もある。
しかし、認知機能についての研究の結果は一貫性がなく、メタ解析では両者の関連は示されなかった。
これに対してYassine氏らは、HDLの粒子サイズの違いに着目。脳脊髄液や血液中の小粒子HDLを計測し、認知機能との関連を検討した。
研究対象は、60歳以上の健康なボランティア180人。平均年齢は76.6歳で、BMIは26.8、HDL-Cは62.1mg/dLであり、アルツハイマー病リスクの高い遺伝子型(ApoE4)の人が3.9%含まれていた。
また、臨床認知症評価尺度(CDR)という指標で評価した認知機能は、56.7%が0(認知機能障害なし)、26.7%が0.5(認知機能障害の疑い)、4.4%が0.5超(軽度認知機能障害)だった(12.2%はデータなし)。
脳脊髄液中の小粒子HDL数、および、認知機能テストの双方のデータのある141人を対象として、年齢、性別、教育歴、ApoE遺伝子型を調整後、両者には有意な相関のあることが分かった(ρ=0.19、P=0.027)。
解析対象を認知機能障害のない人に絞ると、この関連はより強固になった。
また、脳脊髄液中の小粒子HDL数は、アミロイドβ42とも相関していた(ρ=0.31、P<0.0001)。脳脊髄液中のアミロイドβ42はアルツハイマー病の発症に先立ち低下し始めることが知られており、その値が高いことはアルツハイマー病のリスクが低いことを表している可能性がある。
なお、血液中の小粒子HDL数は、脳脊髄液中の小粒子HDL数と有意な相関があったが(ρ=0.32、P<0.0001)、アミロイドβ42との相関は有意水準に至らなかった(ρ=0.13、P=0.08)。
これらの結果は小粒子HDL数が、認知機能の低下が始まるよりも先に減少し始めていることを示している。
Yassine氏は、「脳脊髄液中の小粒子HDLは、アルツハイマー病で見られるアミロイド斑を構成するペプチドのクリアランスに関与している可能性がある。よってアルツハイマー病の予防において、小粒子HDLが何らかの役割を果たしているのではないか」と、大学発のプレスリリースの中で述べている。
またYassine氏は、「現在、脳の健康を維持する手段として、適度な運動とリスク因子に対する薬物治療などがある。それらに加えて、脳内の小粒子HDLを増やす薬が有望と考えられるが、創薬にはまず、体内での小粒子HDL生成促進メカニズムの解明が欠かせない」と語っている。
同氏らは既に、分子レベルでの小粒子HDLの研究をスタートしているという。さらに、アルツハイマー病リスクの高い糖尿病患者や、アルツハイマー病のリスクに影響を与えることが示唆されている薬剤を服用している患者も研究対象に含めた、より大規模な研究を計画している。(HealthDay News 2022年4月15日)
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(参考情報)
Abstract/Full Text
https://alz-journals.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/alz.12649
Press Release
https://keck.usc.edu/small-good-cholesterol-particles-may-have-a-role-in-alzheimers-prevention/
構成/DIME編集部
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