4月から部下を持つことになった管理職やリーダーにとって、そろそろ一ヶ月が経ち、課題や悩みも浮き彫りになってきた頃ではないだろうか。
そんな新任管理職が直面しやすい悩みとその解決策、そして持っておくと役立つマインドを、マネジメント職の人材育成のプロのもと、紹介する。
新任管理職が直面する3つの課題
新たに管理職となったとき、多くの人が直面する課題が3つある。そう述べるのは、リクルートグループの一つで、企業の人材採用・育成、組織開発、人事制度構築に関するサービスを提供する株式会社リクルートマネジメントソリューションズで、マネジメント職の企画開発を手がける木越智彰氏だ。
【取材協力】
木越智彰(きこし・ともあき)氏
株式会社リクルートマネジメントソリューションズ HRDサービス開発部
出版社勤務を経てリクルートマネジメントソリューションズ入社。海外事業・専属トレーナーのマネジメント業務を経験し、現在は研修の企画開発に従事。主にマネジメント領域を担当する。
●新任管理職が直面する3つの課題
1.従来のプレイング業務が手放せない!
2.メンバーを育成しろと言われてもどうすれば?
3.短期と中期の両立は現実的に無理!
それぞれ課題の内容と、解決策を解説してもらった。
1.従来のプレイング業務が手放せない!
「管理職になって、まず何から手をつけていいかわからない。それが普通の状態だと思います。所属組織が変わらずに昇格した方は、その仕事については精通したハイパフォーマーだったはず。『だいたいこんな対処でよさそうだ』と、たいていの課題については解決方法が思いつくのではないでしょうか? ですが、全部に自分で答えを出してしまうというのは早めに我慢できるようになるといいかもしれません。喜んで何でも自分でやってしまうと、『プレイング業務に邁進するマネージャー』が陥るループにはまってしまいます」
●解決策
「本人は忙しくしているつもりでも、メンバーはそんなあなたの姿を『プレイング業務で、てんやわんやになっている』と見透かし、冷ややかに見ているかもしれません。『ああ、また課長が処理してくれる』。メンバーにそう思わせてしまうと、後が苦しくなります。あえて、対応を任せていくことで、メンバーも『信頼されている』という責任感が芽生えます。
実は、管理職に昇格した方がむずかしさを感じることのうち、長い期間、残るものがこの『プレイングとマネジメントの両立』なのです。管理職になると自身の『伸ばすべき意識・行動』に目が行きがちですが、実は『抑えるべき意識・行動』も重要であり、プレイング業務は後者に当たります。早めにプレイングから脱却することで、一目置かれるマネージャーになることができるでしょう」
2.メンバーを育成しろと言われてもどうすれば?
「『やるべき仕事は多い、業績圧力も強い、戦力は常に不足している。このような状態で「部下育成もあなたの仕事です」って、本気ですか?』。そう思われるのも当然です。でも、メンバーの成長やメンバーの協働状態をよくすることも、マネージャーに求められる大切な成果なのです」
●解決策
「ただでさえ多忙極まりない中で、『1 on 1ミーティング』を行ったり、メンバーからのアウトプットに対してフィードバックしたり、メンバーのコンディションもケアしたり、ということを『アドオンの仕事だ』と思うと途端に苦しくなります。そうではなく、仕事も任せながら、どうやったらそのメンバーの力を高められるだろうか? というひと工夫をしてみましょう。
例えば、少しだけストレッチが必要だけれど、頑張ればやり切れる仕事を任せる、刺激になりそうな先輩社員と組ませる、他部署のマネージャーからもフィードバックしてもらうよう依頼するなど。つまり、全部自分で関わる必要はないのです。
メンバーの成長のために、あなたが使えるリソースは見渡せばいろいろあるはず。優秀なマネージャーはいつも『この機会を使って、あのメンバーに成長してもらおう』という材料を、いつもキョロキョロ探しています。ふと気づけば、足りない足りないと思っていたメンバーの戦力が、たくましく育っていることに気づくでしょう」
3.短期と中期の両立は現実的に無理!
「仕事も進んでいる、メンバーも成長している、順調順調。来半期もこのままいけそうだ!と思っていたら、部長から呼ばれて『来期は何を取り組めばいいと思う?組織はどうすればいいと思う?3年後、この部はどうなっているといいだろう?』といろいろ聞かれたけど、しどろもどろに…。そうなのです。マネージャーは目の前の短期的成果だけではなく、組織を中長期的に成果があげられるようしなければいけないのです」
●解決策
「すぐには中長期的な取り組み課題を描くことを求められないかもしれません。ただし、近いうちに求められることになります。それに備え、日ごろからご自身の問題意識に沿って状況を見て、情報収集をしておきましょう。よく言われますが、一つ上の視座から物事を見るようにすると良いでしょう。
昇格直後なのに、また一段上から!?と思われるでしょうが、まずは心がまえから。ご自身の上司とのコミュニケーションを増やしていきましょう。日常から、上司が何を考えているのか?をめぐって会話できる関係性を築いておき、その視野や視点を盗みましょう。そうしておくと『どう思う?』と聞かれたときに、『いやどうですかね…(汗)』とはならないはずです」
新任管理職が持っておきたいマインド5つ
新任管理職は、日々、マネージャーとしての仕事をこなしながら、先述のような課題を解決しながら、どのようなマインドを持っていればいいだろうか。
木越氏は次の5つを挙げる。
1.拙速にやり方を変えない
2.苦手なところを伝える
3.「ここはすごい!」を仕事の場面で演出する
4.すぐに組織は変わらない!マネジメントは遅効性があることを認識する
5.マネジメントチームを作る
それぞれを解説してもらった。
1.拙速(せっそく)にやり方を変えない
「拙速とは、つたなくてもスピード重視でものごとを進めることです。マネージャー昇格直後は、誰しも意気込むもの。前任のマネージャーのやり方を変えてやろう、自分の色を出していこう!と拙速に変えようとしてしまうものです。しかし、ぐっとこらえて、まずは状況の観察とメンバーの声を聴くことに徹しましょう。
そうすることで、自ずとどこから手を付ければいいか見えてくるはずです。いきなり的外れな一手を打って、メンバーをしらけさせると後からリカバリーが大変です。数か月も何もしないのはNGですが、まずは落ち着きましょう」
2.苦手なところを伝える
「昇格したばかりのマネージャーは『マネージャーは全方位的に何でもできなければならない!』と思いがちですが、自分自身を縛ってしまうのが一番よくないことです。自分の不得意分野はどんどんメンバーに頼るぐらいでちょうどいいのです。
しかしメンバー側は、マネージャーの得手・不得手や特徴が分かりません。そこで、ご自身の取扱説明書を書いて共有しておくといいでしょう。『事務手続きが抜けがち』など、フォローが必要なところを分かっておいてもらいましょう。完璧な人より、どこか抜けている人は相手から『自分が手伝えるところがある人』と認識され、そういう人のほうが可愛げがあったりしますよね。
説明に当たっては、ご自身のSPI(性格と能力の適性検査)やストレングスファインダー(才能診断)などのアセスメント結果の抜粋を使うと伝わりやすいでしょう」
3.「ここはすごい!」を仕事の場面で演出する
「マネージャーが抜けてばかりだと、『この人、大丈夫かなあ』と思われてしまい、チームの士気にかかわります。そこで『ここぞ』という場面かつ、あなたの強みが遺憾なく発揮される場面については、あえて圧倒的な実力を見せておくのも一つの手です。
『課長はキーパーソンとのアポでの関係構築がすごいな』などと、ここは敵わない、というポイントをいくつか印象づけておくと、これまたメンバーからの頼りどころが分かりやすくなります。例えばメンバーから『ここまではお膳立てするので、あとはここだけお願いします!』と言われればしめたものです。そうなればプレイング業務も減るでしょう」
4.すぐに組織は変わらない!マネジメントは遅効性があることを認識する
「管理職に就いて数カ月、半年経った頃、『色んな試行錯誤をしてきたのに、チームは変わらないし、メンバーの成長も感じられない。このままでいいのだろうか?』と思う瞬間が必ず訪れます。しかし、マネジメントは遅効性があります。あなたの取り組みが組織の成果に現れるまでにはタイムラグがあります。もう少し、今の努力を続けてみましょう。
とはいえ、チームの状態が分かるようなサーベイなどがある場合は、それを参照しながら、良い方向に向かっているかどうかをモニタリングしておきましょう」
5.マネジメントチームを作る
「ふと気が付くと、なんだか孤独である。あんなに仲の良かった後輩も、微妙に距離を取っている気がする…。そうなのです。マネージャーは基本的には孤独。評価権を持ったあなたの立場はこれまでとは異なります。一人で頑張っている気がする、そんなときは周りを見渡して同僚マネージャーに目を向けてください。
マネジメントは一人でやるものではありません。同じ部署の隣の課のマネージャーはあなたと近接した領域で頑張っています。お互いにアドバイスできることもあるでしょう。自分のメンバーに関わってもらうこともできるでしょう。あなたのチームは、あなただけでなんとかしないといけないわけではないのです。マネージャー同士で『マネジメントチーム』をつくって、助け合って組織を良くしていきましょう」
メンバーが生き生きと仕事をしていることが自分のやりがいに
最後に木越氏に、新任管理職のビジネスパーソンに向け、応援メッセージをもらった。
「マネージャーになった方の中には『本当はやりたくなかった』という方もいるかもしれません。また『なかなか前向きになれない』というのも不自然なことではありません。当社がマネージャー層を対象に行ったアンケート調査結果では、昇格前、マネジメントに前向きだった方とそうでなかった方は半々ぐらいの比率でした。後ろ向きな方の理由は『自分には向いていないと思っていた』が大多数。
しかし、後ろ向きだった方も、実際にやってみると半分以上の方がマネジメントを前向きにとらえられるようになっています。『メンバーが生き生きと仕事をしていることが自分のやりがいにつながった』とおっしゃる人も多くいます。その新しいチャレンジを通じて、新たな自分が発見できることは間違いありません。ぜひ、マネジメントを楽しんでみてください」
新任管理職が直面しがちな課題はほとんど共通しているようだ。孤独になりがちなマネージャー職だからこそ、良い意味でメンバーや周りのマネージャー層を頼ってマネジメントを楽しみながら、チームも自身もレベルアップさせていくことが大切といえそうだ。
【調査出典】
リクルートマネジメントソリューションズ「管理職意向の変化に関する実態調査」
取材・文/石原亜香利