【連載】もしもAIがいてくれたら
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第1回:私、元いじめられっ子の大学副学長です
第48回:AIが進化しても一度壊れた街は魔法のように元には戻ることはない
AIアートの進化はすごいけれど、人間の仕事が奪われることはないという話
フランスの自動車会社ルノー傘下のアルピーヌは、現地時間2022年4月8日、フランスの芸術家集団「OBVIOUS(オブビアス)」とコラボしたA110のアートカー「Sastruga(サストルガ)」を発表し、その実車を近現代アートのイベント「アートパリ2022」に出展しました。値段はもちろんのこと、斬新なデザインのクルマに実際に乗れるかはわかりませんが、車好きとしては目を惹かれました。
アルピーヌが活躍した数々のサーキットのピットレーンや追い越しゾーンなどの画像をAIに学習させ、画像を生成するネットワーク(Generator)と識別するネットワーク(Discriminator)で構成されるGAN(Generative adversarial network)(敵対的生成ネットワーク)を使ってイメージを生成しているということです。さらに、アルピーヌの原点であるアルプスの自然として、風に侵食された雪が地面に幾何学的な起伏を残すサストルギ現象からインスピレーションを得たデザインを、そのイメージに反映させて車体のデザインとしたとのことです。
できた作品をどのように評価するかは、人間次第ですが、この10年ほどでAIアートは進化しました。
2015年にGoogleのDeep Dreamによる作品が発表されたときは、悪夢のように不気味な作品といった評価が多かったと思います。このときは、入力された画像から、学習済みの画像パターンと似た部分を再構成して出力する、といった今から見れば単純な手法でした。AIが学習した画像が人の顔や動物の顔が多かったせいか、何を入力しても、目のようなものとして再構成され、人間や動物の目がたくさんあるような、不気味なイメージとして出力される傾向がありました。
その後は、絵画的なアート作品に関連したAI技術は様々提案され、進化してきました。代表的なものとしては、2015年に提案されたGatysらによって提案されたNeural style transfer(ニューラルスタイルトランスファー)があります。ある画像からスタイル情報を抽出し、異なる画像にスタイル情報を転送するという手法で、自然な絵画を生成することができるようになったと思います。その後、スタイルの転送における計算コストが大きいという問題を解決する学習方法など、さまざまなAI技術が提案されてきました。
アーティストとそうではない人の違いはよくわからないのですが、資格があるようなものではないとすると、こういった技術が誰もが使えるアプリになっていることで、誰もが「アーティストのような」作品が作れるようになったと言えます。
作詞を支援するAIについての記事でも書きましたが、AIが人間のアーティストに置き換わる、ということではないと思います。何か創作してみたいと思っても踏み出しにくい人が、AIによる支援により何かを創作する、という可能性は生まれるでしょう。すでにプロのアーティストにとっても、産みの苦しみはあると思いますので、驚くほど短時間に何かを創作するAIからインスピレーションを得られるかもしれません。しかし、AIが創作したものを目にすることで、その人自身から生れ出る何かを邪魔してしまうということがないとは言えないかもしれません。
今後、AIだけで創作されたアート、人間とAIのコラボで生まれたアート、人間だけの力で生まれたアート、様々なアートが溢れると思います。私たち人間が、それらをどのように評価するか、どのように感じるのか、そもそも区別できるのか、何に感動するのか、注目していきたいと思います。
坂本真樹(さかもと・まき)/国立大学法人電気通信大学副学長、同大学情報理工学研究科/人工知能先端研究センター教授。人工知能学会元理事。感性AI株式会社COO。NHKラジオ第一放送『子ども科学電話相談』のAI・ロボット担当として、人工知能などの最新研究とビジネス動向について解説している。オノマトペや五感や感性・感情といった人の言語・心理などについての文系的な現象を、理工系的観点から分析し、人工知能に搭載することが得意。著書に「坂本真樹先生が教える人工知能がほぼほぼわかる本」(オーム社)など。
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