運動は抗うつ薬?
運動が身体的な健康に良いことは、今では大半の人が知っている。さらに、新たに報告された研究から、運動は身体的健康だけでなく、うつ病のリスクも低下させる可能性のあることが明らかになった。
英ケンブリッジ大学のSøren Brage氏、James Woodcock氏らが行なったシステマティックレビューとメタ解析の結果であり、詳細は「JAMA Psychiatry」に2022年4月13日掲載された。
人々が身体活動の推奨量を満たす運動をすることによって、うつ病の発症を約12%抑制可能と推計されるという。
この研究のシステマティックレビューは、PubMed、SCOPUS、Web of Scienceなどの文献データベースに2020年12月11日までに公開された論文を対象に行なわれた。
適格条件は、研究対象が18歳以上の成人3,000人以上で追跡期間が3年以上であり、身体活動量を3段階以上に層別化してうつ病リスクとの関連を検討した前向きコホート研究。論文の言語は制限しなかった。
日本で行なわれた研究1件を含む15件の研究報告が抽出され、研究参加者数は合計19万1,130人で、211万588人年の追跡が行なわれ、うつ病の新規発症は2万8,806件だった。
身体活動量は、1週間当たりの安静時代謝量を上回る代謝当量(mMET時/週)で評価。
全対象の大半(95%)は35mMET時/週未満であり、さらに78%は17.5mMET時/週未満だった。
メタ解析の結果、身体活動を行なっていない人に比べて、推奨量の半分(4.4mMET時/週)の身体活動を行なっている人のうつリスクは18%低かった〔相対リスク(RR)0.82(95%信頼区間0.77~0.87)〕。
さらに、身体活動の推奨量(8.8mMET時/週)を満たしている人のうつリスクは25%低かった〔RR0.75(同0.68~0.82)〕。
ただし、身体活動量がそれ以上多くても、うつリスクはあまり低下していなかった〔17.5mMET時/週でもRR0.72(同0.64~0.81)〕。
この結果に基づき身体活動量の低い人が全員、推奨される身体活動量を満たしたと仮定すると、うつ病の11.5%(同7.7~15.4)を予防可能という推計結果が得られた。
なお、うつ病予防のためにどの程度の身体活動を行えばよいかという点について、著者らは「その推奨量を設定するのは困難と考えられる」と述べている。
一方、本研究には関与していないマクマスター大学(カナダ)のJennifer Heisz氏は、「あらゆる身体活動が重要だ。身体的健康のために推奨される量をこなす必要はない。その半分でさえ効果がある。今回報告された研究も、そのことを裏付けている」と語っている。
世界のうつ病患者数は約2億8000万人とされており、自殺やその他の健康障害に伴う早期死亡リスクを押し上げている。
Heisz氏は、「うつ病患者の多くは診断・治療を受けていない。また、診断されていたとしても、うつ病患者にとって、高強度の運動を続けるというモチベーションの維持は困難なことが多い。そうであっても、あらゆる身体活動が有益であるという情報は、うつ病患者が運動を開始するための動機付けになるのではないか」と述べている。
米ジョージ・ワシントン大学のAntonia Baum氏は、「うつ病には、薬物治療や心理療法など、身体活動以外にもさまざまな治療法がある。今回報告された研究は、それらの影響が考慮されていない」と指摘しつつ、「運動がメンタルヘルスに有用と考えられる理由はいくつも挙げられる」と語る。
例えば、脳の血液循環を改善し、炎症と体の免疫応答を変化させ、うつリスクが抑制される可能性があるという。
また、「運動によって身体的パワーがつくことで自己評価が高まったり、幸福感を感じる機会も増えるのではないか」とのことだ。
ただし懸念材料として、Baum氏自身の研究で、激しいトレーニングを継続したアスリートでは、摂食障害や燃え尽き症候群のリスクが上昇することが確認されたことを指摘。
「激しすぎる運動は、かえってうつリスクを高めるとも考えられる。もっとも、メリットがデメリットに切り替わるポイントを定量化して示すことは難しい」という。
とは言え、「うつ病の患者に対しては、運動をさらに推奨すべきだ」とBaum氏は言う。同氏自身は、患者に運動を勧めるだけでなく、患者とともにウォーキングをすることもあるとのことだ。(HealthDay News 2022年4月13日)
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(参考情報)
Abstract/Full Text
https://jamanetwork.com/journals/jamapsychiatry/fullarticle/2790780
構成/DIME編集部
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