Officeには「描画ツール」というものがある。
が、これをフル活用している人は決して多くないのでは? と筆者は考えている。
Microsoft Surfaceユーザーならその限りではないと思うが、タッチパネル非搭載のPCでは描画ツールなど使う機会はあまりないはずだ。
筆者自身、PowerPointでの画像作成は頻繁に行うものの、描画ツールを使うことはまずない。
これ、よく考えたらもったいない! それを前置きした上で、タッチ画面搭載のビジネスノートPC『Summit E14 Flip Evo A12』という製品をレビューしていきたい。
ゲーミングPCメーカーの「ビジネスノートPC」
『Summit E14 Flip Evo A12』の開発メーカーはMSIである。
MSI? ゲーミングPCのメーカーじゃないか。そう感じる人もいるだろう。
確かに筆者自身、『Summit E14 Flip Evo A12』が発表された時はちょっとした違和感を覚えた。
360度回転可能の14インチフリップディスプレイを持つ薄型ノートPCは、敢えて語弊のある言い方をすれば「MSIらしくない」。
どうしてもこのメーカーには「バリバリのゲーミングPC」という先入観があるのだが……。
期待と若干の不安を胸に抱きつつ、MSIにサンプルの提供を依頼。
ところが、4月6日に発売されたこの製品はかなり売れ行きが良いらしく、メディアに回せるだけの製品がないという。
代わりに開発版サンプル即ちプロトタイプを提供していただける運びとなった。
従ってキーボードは英語配列で、MSI独自開発のアクティブスタイラス『MSI Pen』もついていない。
しかし結論を言えば、そのあたりの不備は殆ど問題にならなかった。それだけ『Summit E14 Flip Evo A12』は機能性に優れる製品だったのだ。
映画監督と映像編集班
「360度で生活を変える」という触れ込みの『Summit E14 Flip Evo A12』。この製品のCPUはIntel Core i7-1280P、GPUはIris Xe Graphicsだ。
ここはGPUに注目していただきたい。これはCPU内蔵である。
繊細かつデータ量の大きい画像を再現するためには、「映画監督」であるCPUとは別の「映像編集班」即ちGPUの手助けが欠かせない。
しかしあまりに手のかかる映像の場合、監督お抱えの映像編集班では作業が追いつかない。
故に、外部から優秀かつ人手の豊富なチームをアウトソーシングする。それがゲーミングPCにおけるグラフィックボードだ。
Iris Xe Graphicsとは、今までよりも遥かに優秀な「監督お抱え映像編集班」である。
さすがに外部の専門職には敵わないものの、ガチガチのゲーマーでないユーザーの要望になら十分対応できる能力を持っている。
PCでちょっとした動画を作成したり、イラストを描いたり、仮想空間で動かすアバターを編集するというのであれば、GPUは優秀であることに越したことはない。
が、グラフィックボード搭載の製品はどうしても重く厚くなってしまう。
携帯性を考慮するなら、Iris Xe Graphics(と、それを内蔵したCPU)搭載の製品はちょうどいい丈の長さなのだ。
描画ツールを駆使する!
今回はそんな『Summit E14 Flip Evo A12』を使って、Officeの描画ツールを使ってみる。なお、タッチペンは上述の通り『MSI Pen』が用意できなかったため、筆者の私物を用いる。
キーボードで入力した文字と自分の手書きの文字を、同じ1枚に書き込むことができる。
筆者の字が汚いから下手に手書きなどするべきではないかもしれないが、中には「手書きのほうが見やすい画像を作れる」という人もいる。
キーボードで打ち込んだ字は、どうしても機械的で冷たい印象になってしまう。
しかし手書きの文字は、より直感的に読むことができる。そのような理由で、普段のメモ書きは絶対に手書きでなければという人も少なくない。
それはプレゼンの際に用いるPowerPointも同様ではないか。
筆者は公営施設でIT講座を受け持っている。
キャッシュレス決済やネット通販などを、スマホが不得意な中高年の受講者に教えるという内容だ。
講座で意識するのは、まず「分かりやすさ」。
中には機械的な文字で埋め尽くされた画像を作ってくる講師もいるが、そんなものは誰も読まないし、読めない。
1枚の画像の中に入れる文字は、基本的に「大きく少なく」。
その上で手書きの訳注などがあれば、まさに「直感的に理解できる解説画像」が完成する。
『Summit E14 Flip Evo A12』なら、そうした書き込みも自由自在。いや、これはマジで使えるぞ!
マーカーペンがすっげぇ便利!
『Summit E14 Flip Evo A12』を使ってみて初めて分かったのが、「マーカーペンの便利さ」だ。
描画ツールの中のマーカーペンを選択して、文字の上に線を描く。何しろマーカーだから、下の文字が完全に隠れてしまうことはない。
というわけで、以下の画像のようなものも作れるのだ。
作った自分が言うのも何だが、結構かっこいい画像資料だ!
あ、でもやっぱ字がガッタガタだよなぁ……。このあたりはかつての師匠の悪癖を引き継いでしまっていて、師匠曰く「物書きは大抵悪筆」。
それを筆者は真に受けてしまった、というわけだ。
それはともかく、描画ツールを使えるだけでPowerPointはここまで見違える……ということを強調しておきたい。
その上で『Summit E14 Flip Evo A12』の重量を加味して考えてみよう。広々として14インチディスプレイを持つにもかかわらず、重量は僅か1.6kg。
下手にグラフィックボードを積んでいると2kg超えはやむを得ないだろうが、そうなると携帯性が損なわれてしまう。
そのような意味でも、この製品は「ビジネスノートPC」なのだ。
「手書きでなくちゃダメだ!」という人へ
振り返ってみれば、最近の筆者は「手書きするガジェット」のレビュー記事を書く機会が増えた。
4月8日配信の『Hannsnote』の記事を執筆していた時も、筆者は「どうしても手書きでなければダメだ!」という人が一定数存在することを再認識した。
キーボードとマウスだけでは不十分、ペンを使った書き込みにも対応できるPCでなくては! という人たちである。
テクノロジーがどのように進化しようと、人類は「手書き」を手放せないようだ。
【参考】
Summit E14 Flip Evo A12-MSI
取材・文/澤田真一