
タイムリミットまで、あと7年と98日。なんのタイムリミットかわかるだろうか。これは、気候変動の後戻りができなくなってしまうポイントといわれている1.5度の気温上昇を防ぐために残された時間だ。
その時間を多くの人に知ってもらおうと2020年9月にニューヨークで最初に設置され、グラスゴーやソウルなどでも大規模なものが設置されている。それが、「Climate Clock(クライメートクロック)」だ。日本で、その初号機が2022年4月15日に渋谷駅ハチ公前広場観光案内所「SHIBU HACHI BOX」に設置された。Z世代のアクティビスト集団×渋谷の環境プロジェクトが発足し、1年以内に100台の設置を目指している。
Climate Clockプロジェクトとは
初号機の第一弾として設置されたClimate Clock。
Climate Clockは、気候変動解決のために「いつまでに何をするべきなのか」を示すことで、私たち人間に課せられた使命を明確に示す地球規模の気候変動解決キャンペーンだ。産業革命以前と比べ、地球の平均気温上昇を「1.5度以下」に抑えるため、全世界でゼロエミッションを実現するまでのタイムリミットが提示されている。
今回、渋谷に設置されたClimate Clockは、世界各地に設置されている物とは異なり、小型機や中型機を数多く制作し、街の至る所に設置する計画だ。このプロジェクトは、4人の若者を中心に結成された気候変動アクティビスト集団a(n)actionとSEAMES社が中心となり、渋谷でのClimate Clock設置を目的に昨年12月にクラウドファンディングをスタートさせ、約1か月間で1353万6千円の支援を集めている。
また、昨年11月に実施された「SOCIAL INNOVATION WEEK SHIBUYA2021」で発表した『NOVUS FUTURE DESIGN AWARD』で、U19賞を受賞している。この受賞を経て、渋谷未来デザインと渋谷区観光協会と連携しながら、渋谷での設置がスタートした。その第一弾が、渋谷で多くの人が待ち合わせにも利用するハチ公前広場に設置された。
活動としては、タイムリミットを示したClimate Clockの日本版を設置した上で、市民を主体に政府、企業、学校、メディアなどの各分野へのアクションの訴求と仕組みの構築の提案も行っていく。日常の中で、気候変動の深刻さについて多くの人に気づいてもらえるよう設置場所を増やしていく予定だ。
7年後はそう遠くない多くの人に知ってもらいたい
プロジェクトについて話すa(n)actionのメンバー。(前列左)黒部睦さん。(前列右)ナイハード海音さん。(後列左)山下莉奈さん。(後列右)三島のどかさん。
Climate Clockプロジェクトを主導するa(n)actionのメンバーは、18歳から20歳というZ世代の若者たち。産業革命前から1.5度上昇することで、サンゴ礁の70~90%が死滅するといわれ、そうなると漁業への影響だけでなく、沿岸部などは住む場所がなくなってしまう地域も出てくる。しかも、すでに1.2度上昇しているといわれているのだ。
国連IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change)によると、5年間で炭素排出量を抑えるべきと発表されている。すでに深刻な事態のはずだが、日本国内では、地球温暖化の危機感を理解している人が少なく、未来のことと捉えている人が多いと感じるそうだ。
「SDGsの目標達成は、2030年。タイムリミットの7年後は、それより早くやってきます。7年後、私たちは、まだ30歳にもなっていません。みなさんにとっても7年後は、遠い未来ではないですよね」と、a(n)actionのナイハード海音さん。
地球が限界を超えてしまえば、自然災害は増え、多くの人々が安心して暮らせなくなくなる。2021年夏の2か月間だけで、集中豪雨や大型台風など、多くの自然災害が起こったことなどを例にあげ、危機感をもって対策しないと時間がないことを訴えかけた。
ただ、時間がないよと伝えるだけでなく、情報を得る機会が少ないことを感じ、まずは、人が集まるところで、知ってもらうことから始めようと、今回のプロジェクトとして、若者カルチャー発信の中心地である渋谷という地を選んだそうだ。
デザインに込められた思いと仕掛け
カウントダウンの数字とQRコードの横に基盤がむき出しになったデザイン。
小型ではあるが、街のさまざまな場所で見かけたら、「なにこれ?」と、気づいてもらえるようカウントダウンの数字とQRコードの表示、さらに横には、基盤がむき出しになっているようなユニークなデザインになっている。
このQRコードを読み込むことで、Climate Clockの情報がわかり、政府に対して気候変動について対策してほしいという1票を投じることもできる。署名運動をするとなると、行動に移すのがむずかしいと思う人も、これなら手軽に1票を投じられる。1万回ごとに、環境省へ報告することになっている。
また、今後サステナブル企業の広告動画を見ることで、100円の寄付ができ、これらのアクションを支えるファンドに寄付する仕組みになっている。企業CMが決まっていない場合は、プロジェクトの説明動画などが流れ、こちらは寄付にはならないそうだが、メンバーたちの楽しそうな動画に、自分もワンアクションを起こしたくなった。
第一弾のClimate Clockが渋谷駅ハチ公前広場観光案内所「SHIBU HACHI BOX」に設置された。
設置される場所が増えることで、アクセスしてくれる人が増えることを期待しているが、カウントダウンの数字とQRコード、さらに説明表記がすべて英語のみというのは、苦手な人もいるのではないかという疑問もある。
実は、それも計算のうち。孫と一緒に出かけて、QRコードの使い方でコミュニケーションになったり、英語がわからないからとりあえずQRコードで内容を見てみたりと、一目でわからないからこそアクションしてもらえるデザインでもある。
しかも、与えられる情報ではなく、自分からアクションを起こして得た情報の方が、その人の中にすんなりと入りやすいことも考えてのデザインになっている。確かに、聞いただけより、自ら得ようとしたものの方が、記憶に残っている気がする。
IPCCでは、「NOW or NEVER」と強い表現も使っている。これは、Z世代のことではなく、自分事としてとらえられるリマインダーになればいいと、a(n)actionメンバーたちは考えている。
「時間がないことに気づいていないのだと思います。気づけば動いてくれると信じたいです」(a(n)action酒井功雄さん)
酒井功雄さんはオンラインで発表会に参加。
今回のプロジェクトは、渋谷区での展開でスタートしているが、すでに違う地域からの問い合わせもあるそうだ。ほかの地域でも広がって欲しいとの思いから、ノウハウはオープンにしている。また、企業での設置や商業施設や商店での設置も視野に入れ、設置する人のリテラシーも向上させていきたいとのこと。7年後は、あなたにとって遠い未来?それとも…。個人ができることもたくさんあり、まずはできることを明日ではなく、今から行動に移したいと改めて感じさせられた。
Climate Clock Japan
https://www.climateclockjapan.com/
取材・文/林ゆり