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【深層心理の謎】コロナ禍で記憶の手がかりがなくなっている人が増えている理由

2022.04.20

 そういえばあの帆船のオブジェが撤去されたというニュースをだいぶ前に聞いたことを思い出す。あれがなければあの広いスペースはかなりガランとしてしまいそうではあるが――。

十条のアーケード商店街を歩き大分旅行を思い出す

 気づくことができてよかった。このシーズンに提出する税務関係の書類なのだが、最後のチェックをしてみたところで提出の年を令和3年にしていたことに土壇場で気づくことができた。その時まで今年が令和3年であると何の疑問もなく思い込んでいたのだ。しかし最後に昨年の書類の写しと見比べてみたところ、今年が令和4年であることに気づかされ、ギリギリのところで修正することができた。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 某所からの帰路に乗ったJR埼京線を十条駅で降りた。時刻は夜7時半になろうとしている。コロナ禍でなかなか「ちょっと一杯」できなかった十条にようやく立ち寄ることができた。せっかくなのでどこかで少しばかり晩酌を楽しんでみたい。駅の北改札を出て商店街へと向かう。辺りは人出も多くに賑やかだ。買出しやテイクアウトをする人も多い。

 今回のコロナ禍からは予期せぬさまざまな影響を受けることになったが、その中でも無視できないのはこの1、2年の時間の流れの感覚ではないだろうか。実際に東京オリンピックが「2020」のまま2021年に開催されたように、“失われた1年”(あるいは“失われた2年”)を多くの人が感じたように思う。自分もついこの前まで今が令和4年であるという認識はまるでなかったのだ。

「十条銀座」の入り口に来た。屋根のあるアーケード商店街だ。都内でも指折りの人気商店街で飲食店も多い。すでにここにあるいくつかの店が思い浮かんでいるのだが、ともあれアーケードの中に入り通りを進んでみることにする。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 アーケード商店街のほうも賑やかである。こうしたアーケード商店街といえば個人的にはほかにも板橋区・大山の「ハッピーロード大山」なども好きだが、印象強く記憶に残っているのは意外にも旅で訪れた地方都市のアーケード商店街であったりもする。地方都市のアーケード商店街は広々としたところが多くその景観はなかなか壮大であったりもするのだ。

 特に大分県・大分市にあるアーケード商店街(ガレリア竹町)はその広さから強く記憶に残っている。自分が訪れた時には施設内にポルトガル帆船の大型模型のオブジェが展示されていた場所があったのだが、ずいぶん前にその帆船が撤去されたというニュースを聞いたことを思い出す。あの場所から帆船がなくなったとすればかなりガランとした空間になってしまっているのではないかという“余計なお世話”も頭をよぎる。

※「ガレリア竹町」(2004年、筆者撮影)

 アーケード商店街がきっかけでかつての大分旅行のことを思い出したのだが、そういえばその時は大分空港から市内へホバークラフトに乗って移動したことを思い出した。ホバークラフトに乗ったのは後にも先にもこの時が初めてのことである。残念ながらこのホバークラフトでの乗客輸送もだいぶ前に廃止されたことは知っている。それにしても「アーケード商店街」を“手がかり”にしていろんな記憶が呼び起されてくるものである。

コロナ禍で記憶の“手がかり”がなくなった

 商店街を進む。飲食店の営業時間の制限がなくなったとはいえ、コロナ前に比べれば繁華街の夜は早い。自主的に閉店時間を早めているお店も少なくない。早く入る店を決めて「ちょっと一杯」してみたい。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 十条にいるというのに、かつての大分旅行の記憶がよみがえってきたのだが、それというのもアーケード商店街という“手がかり”が自分の前に提示されたからでもある。そして現在の我々の少なくない者がコロナ禍において失われた1年、あるいは2年を感じているというのも、この期間中に印象的な“手がかり”がなさ過ぎることが原因であることが最新の論考で指摘されていて興味深い。


「毎日の行動が少なければ、記憶力が低下するのは直感に反するように思えるかもしれません。それが少なければ、覚えやすいのではないでしょうか?」

 ジョンズ・ホプキンス大学クリーガー芸術科学部の心理学および脳科学の助教授であり、エピソード記憶の専門家であるジャニス・チェンは言います。

「しかし同じ部屋にいる、同じルーティーンを保っている、同じ人と話しているなど、毎日重複する要素がたくさんある場合、これらのイベントや日の記憶は互いに干渉し、記憶を悪化させます。ある特定の日やあなたがしたことの記憶を誘発する手がかりとなるユニークなものは少なくなります」

※「Johns Hopkins University」より引用


 ジョンズ・ホプキンス大学のニュースネットワークである「The Hub」に編集主任のグレッグ・リエンツィ氏が2022年4月に発表した論考は、今回のコロナ禍が我々の時間と記憶の認識に及ぼした影響について解説している。コロナ禍によって我々の時間と記憶はこれまでになく曖昧になっていることが各種の科学的研究からも指摘されているのだ。

 たとえば2021年9月のナポリ大学の研究によると、イタリアの大学の150人の1年生の心理学の女子学生には、前年度中に作業記憶(working memory、WM)と前方視的記憶(prospective memory、PM)の両方に有意な減少が見られたことが報告されている。

 またトロント大学の認知神経科学者であるドナローズ・アディス氏が主導する進行中の研究では、世界中の735人を調査し、パンデミックが人々の過去の記憶と将来の構想にどのような影響を及ぼしたかを分析している。

 参加者は1年前に体験したイベントを思い出すように求められ、75%の人がこのイベントの一般的な記憶を思い出したのが、しかしそのイベントの特定の場所や、一緒にいた人物、その日の天気などの詳細を覚えていたのは約半数だけであった。

 回答者の約70%はコロナ禍における日々の生活が毎日とても似通ったものであると感じており、未来はより制約されたものであるという考えを抱く傾向が強く、日々の生活が単調であるほど将来についての彼らの考えはより否定的で詳細ではなくなったということだ。

 哲学と心理学の接点を探求しているイアン・フィリップス氏は、「前」と「後」の感覚を生み出す海外旅行などのイベントなど、顕著な“手がかり”がないことも、過去の記憶を思い出すのをより難しくしていると指摘している。過去を振り返った時に、その前のことなのか後のことなのかを分かつ“手がかり”あるいは“目印”のような強く印象に残っている記憶がこのコロナ禍で減ったことも、ここ数年の記憶をあいまいにしている原因であるということだ。しかしもちろん、コロナ禍にあっても人生上の重大な出来事を経験した人も当然いるため、そうした人々においてはその限りではない。

 冒頭のエピソードとして筆者のリエンツィ氏はつい最近、同僚が自分の正確な年齢をすぐに答えられなかった話を紹介している。その同僚はコロナ禍の中で自分が年を取ったことが実感できていなかったのだ。言い訳するわけではないが、自分が書類の日付を令和3年にしてしまったことも今の状況では仕方がないともいえそうだ。

立ち飲み居酒屋でホッピーともつ煮を楽しむ

 さらに商店街を進む。早仕舞いをしている店が少なくないながらも、店を開けている立ち飲み居酒屋がある。以前にも何度か来たことのある店だ。何の迷いもない。入らせていただこう。

 感染対策のビニールシート類が吊り下がっているものの、店内は以前と変わっていない。

 お店の人に紙おしぼりを渡されたタイミングでホッピーセットをお願いする。いわゆる“キャッシュ・オン・デリバリー”のシステムで、その都度料金を支払うことになる。ホッピーの瓶と焼酎と氷が入ったジョッキが運ばれ、予めカウンターに置いた2枚の千円札の1枚をお店の人が取ってお釣りの小銭が置かれた。

 久しぶりなのでこの店の酒の肴のメニューがすぐに思いつかず、いったんメニューを一通り眺めることにする。

 コロナ前からこの店には何度か来ているのだが、最後に来たのが去年のことにように感じられてはいる。しかしよく考えてみるとやはり一昨年前のことだ。まさに“失われた1年”である。

 いろいろ食べてみたいものはあったがとりあえず「もつ煮」と「昆布だし湯豆腐」を注文する。この後もあともう2品くらいは頼むつもりだ。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 先にもつ煮がやってくる。やはりどこの店でも煮込みは“スピードメニュー”だ。七味唐辛子を少しばかりふりかけてからさっそくもつ煮をひと口食べる。丁寧に作られた料理であることがすぐにわかる味だ。美味しい。

 ともあれ前回この店に来た日時においても、書類の日付を令和3年と書いてしまったことも、自分にとっても昨年は“失われた1年”であったことになる。そしてこの“失われた1年”の間の変化に乏しい生活はあまり記憶に残らないことが前出の論考でも指摘されているのだ。

 個人的にもこの2年は旅らしい旅はしていないし、取材なども極端に減っている。したがってやはり日々は単調になりがちであり、新鮮で印象強い体験にも乏しいと言わざるを得ない。

 もちろん無理をすることはないが、動ける範囲で初めての場所を訪れたり、興味を惹かれたお店に入ったりするなどして日々の生活が単調にならないように心がけるべきなのだろう。そしてもちろん、読書などの内面に新風を呼び込む体験も重要になってくるはずだ。少なくとも自分の現在の年齢が咄嗟に出てこなくなるような事態は避けたいものである。

文/仲田しんじ

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