近年、経済産業省がDX推進をしていることもあり、多くの企業でDXに向けた取り組みが行われています。DX推進の中で、よく聞かれるキーワードとして「2025年の崖」があげられます。
2025年の崖は、多くの企業で立ち向かわなければならない課題の一つとなるでしょう。しかし、2025年の崖について詳しく理解していないという方もいるのではないでしょうか。そこで今回は、2025年の崖が引き起こされる原因や対策について解説していきます。
「2025年の崖」が引き起こされる原因や対策
2025年の崖とは、企業で古くから運用されているレガシーシステムが残り続けることにより、システムの保守運用コストが最大で12兆円に達すると言われている問題です。
レガシーシステムには、長年運用され続けていることによって独自の仕組みが組み込まれていき、使用する部署ごとに違ったシステムを利用しているケースが多く見られます。その結果、システムのブラックボックス化が進んでいき、内部の細かい仕様まで理解している人物以外が保守運用をできなくなってしまうのです。さらに、システムを深く理解している人物が不在時には業務が回らないケースも考えられるため、経済的損失につながることも考えられます。
2025年の崖は、DX推進の中でも特に重要な問題として取り上げられており、多くの企業で改善していかなければならない課題の一つです。
「2025年の崖」が起こる3つの原因
2025年の崖は、発生する原因として下記の3つがあげられます。
- レガシーシステムの残存
- IT人材の不足
- 保守的な運用
原因1:レガシーシステムの残存
前述したとおり、レガシーシステムの残存は2025年の崖が引き起こされる大きな原因の一つです。
レガシーシステムは、その当時最新と言われている技術で構成されていたとしても、数年後には古い技術になっているケースが多く見られます。その結果、OS等のアップデートにシステムが追従できなくなってしまい、古いシステムのまま運用され続けて保守運用が困難になってしまいます。アップデートを実施していない場合、システムの脆弱性を抱えたまま利用し続けることになるので、サイバー攻撃の対象になってしまう危険性が考えられるでしょう。
原因2:IT人材の不足
現在、多くの企業でIT人材が不足しているため、新たなシステム開発に取り組めないというのも原因の一つです。
クラウドサービスの普及により、多くの企業ではさまざまなITリソースを活用できる人材が求められています。しかし、現状はIT人材の需要が高まる一方で、供給が追いついていません。レガシーシステムを撤廃するためには、新たなシステム開発を先導できる人材が必要不可欠とされているため、外部からの採用や自社内での育成に取り組んでいく必要があるでしょう。
原因3:保守的な運用
企業によっては、たとえ不便な仕組みだったとしても、今までと違う方法になることを嫌っている人がいます。変化を嫌う人が多くなることで、新しいシステムへの導入が先送りになってしまい、古いシステムが長い間使われ続けることになってしまうのです。
「2025年の崖」を防ぐために企業で実践したい3つの対策
2025年の崖を乗り越えるためには、以下に記載した3つの対策を実践すると良いでしょう。
- 現状の把握
- クラウドサービスの活用
- 従業員へのIT教育
対策1:現状の把握
まずは、社内に存在している全てのサービスを洗い出しましょう。現状のシステムを把握することで、企業内に存在しているレガシーシステムの数が分かるだけではなく、それぞれの課題も明確にできます。
洗い出したシステムに対しては、現時点で何か課題がないのかを明らかにしていき、システムの刷新とともに解決していくのが大切です。
対策2:クラウドサービスの活用
クラウドとは、インターネットを経由して利用できるサービス形態のことです。
具体的には、無料で利用できる「Gmail」や「Googleドライブ」などがクラウドを利用したサービスです。クラウドには、「SaaS(Software as a Service)」「PaaS(Platform as a Service)」「IaaS(Infrastructure as a Service)」の3種類があります。この中でも、SaaSはサービスの利用だけに集中できるサービスで、システムのアップデート等も全て提供企業側で実践してくれるのです。したがって、SaaSを活用することによりレガシーシステムの残存で懸念されるOSやソフトウェアのアップデートが不要になるため、運用管理のコストを大きく削減できます。
対策3:従業員へのIT教育
2025年の崖を解決するためには、システムを利用する従業員のITリテラシーを向上させる必要があります。
レガシーシステムを刷新するときには、今後を考えるとクラウドサービスの活用がおすすめです。その中でも、SaaSのシステムであればメンテナンスが不要なため、多くの企業にとってプラスになるでしょう。しかし、今までExcelやAccessだけで仕事をしてきた方にとっては、Webを活用したサービスに対応できない状況があります。そこで、少しずつ従業員のITリテラシーを向上させるためにも、定期的に教育する場を設けたり、社内で自発的に勉強できる制度を構築したりするのが効果的です。
「2025年の崖」の解決に必要な3つのポイント
2025年の崖を解決するためには、さまざまな取り組みを進める必要があります。そのときに、下記3点を意識するのが重要です。
- 社内全体へ浸透させる
- 部署ごとの役割を明確にする
- 計画を立てる
ポイント1:社内全体へ浸透させる
2025年の崖は、現場などで古くから利用されているシステムの刷新を進めていくため、社内全体の協力を得るのが大切です。もし、特定の部署だけで刷新の計画を進めてしまった場合、システムの入れ替え後に各部署から不満が出てしまい、使われないシステムとなってしまいます。
そこで、まずは現状の把握から今後に向けた方針を社内全体へ浸透させ、それぞれが理解したうえで推進していく必要があるでしょう。
ポイント2:部署ごとの役割を明確にする
システム刷新を行うときには、それぞれの部署における役割を意識するのが大切です。
例えば、システム全体の構成を考えるのを社内の情報システム部とし、業務フローの構築をそれぞれ担当の部署にするなど、各部署がどのような役割を持つのかを早い段階で決めておく必要があります。
役割が明確になることで、プロジェクト全体における作業の抜け漏れを防ぐことにもつながっていくでしょう。
ポイント3:計画を立てる
2025年の崖を解決するためには、作業に関する計画を事前に立てておくのが重要です。
計画の中では、レガシーシステム刷新の必要性、ITシステム構築における作業の流れ、最終的なゴールイメージを明確にする必要があります。経済産業省は、企業に向けてDX推進におけるガイドラインを提供しているため、計画策定時の参考材料にすると良いでしょう。
まとめ
2025年の崖は、企業で古くから運用され続けているレガシーシステムの残存によって発生しうる課題です。2025年の崖を乗り越えるためには、レガシーシステムの刷新と同時に従業員の意識も変えていかなければなりません。企業内にレガシーシステムが数多く運用されている場合は、上記の様なことを意識しながら2025年の崖を対策していきましょう。
文/長谷川貴之
編集/inox.