コロナ禍の状況は大きく変わっていないものの、音楽やスポーツのイベントは再開されつつあります。コロナ以前に近い形で開催されているイベントも多いですが、「声出し禁止」のルールについては、ほとんどのイベントに共通して設けられているようです。
「声出し禁止」など、イベントの参加ルールに違反した参加者を発見した場合、主催者はどのように対応すべきなのでしょうか。対応の仕方によっては法的なトラブルに巻き込まれる可能性もあるので、事前に十分な検討を行ったうえでマニュアル等を整備しておきましょう。
今回は、声出し禁止イベントを開催する主催者が、ルール違反の参加者に対応する際の注意点についてまとめました。
1. イベントの参加ルールを決める際の注意点
イベントを開催する場合、参加者に対して遵守を求めるルールを決めることになります。その際、参加者との間でルールに関するトラブルを防ぐため、主催者は以下のポイントに注意する必要があります。
1-1. 原則として自由にルールを決めてよい|ただし公序良俗違反に注意
イベントの参加ルールは、原則として主催者が自由に決めて構いません。
イベント会場は主催者が管理しており、誰に対して会場に居ることを許可するかは、基本的に主催者が自由に決められます。したがって、
「ルールを守らない方はイベントに参加できません。ルール違反を発見した場合は退場してもらいます」
という形で、主催者が決めたルールを守ることを参加者に求めることは、法的にも原則として問題ありません。
ただし、参加者を不当に差別するようなルールを設けた場合、そのルールは公序良俗違反(民法90条)によって無効となる可能性があります。例えば、日本人以外は声出し禁止、男性は声出し禁止などのルールは、特に合理的な事情のない限り、公序良俗違反として無効になると考えられます。
主催者がイベントの参加ルールを設ける際には、念のため不当な差別・公序良俗違反に当たるようなものがないかをチェックしましょう。
1-2. 参加ルールはできる限り、具体的に事前告知すべき
参加者に対して遵守を求めるルールは、できる限り具体的に定めたうえで事前告知することが望ましいです。
イベント参加ルールの中には、「主催者が不適切と認める行為を禁止する」など、抽象的な禁止行為の規定が設けられることがあります。
こうした抽象的な規定を設けること自体は問題ありませんが、よくある不適切行為については、別途具体的に明記しておく方がよいでしょう。
特に声出し禁止ルールについては、コロナ禍の状況下ではあるものの、すべてのイベントで「当然に」設けられているルールとは言えません。そのため、声出し禁止ルールを設ける場合には、チケットを販売する段階からわかりやすくアナウンスしておきましょう。
2. 声出し禁止違反の参加者を退場させる際の注意点
事前告知済みの声出し禁止ルールに違反した参加者に対しては、主催者は退場を求めることができます。ただし、参加者に退場を求める際には、主催者は以下のポイントに注意すべきです。
2-1. 基本的には口頭で任意の退場を促すべき|実力行使は危険
参加者に退場を求める際には、参加者側から暴力を振るわれた場合などを除いて、主催者側から暴力・取り押さえなどの実力行使をすることは控えましょう。
主催者はイベント会場の管理者であるものの、警察権限を持っているわけではありません。参加者を暴力的に退場させたとなれば、暴行罪(刑法208条)や傷害罪(刑法204条)などの責任を問われる可能性もあるので要注意です。
そのため、基本的には口頭で任意の退場を促し、穏便な事態の収拾に努めましょう。
2-2. 参加者が居座る場合には警察に連絡|不退去罪の可能性あり
参加者が退場勧告を拒否した場合、警察に連絡すれば退去に協力してくれることがあります。管理者による退去の要請に従わず居座る行為は「不退去罪」(刑法130条後段)に該当する可能性があるからです。
不退去罪が成立するのは、原則として住居・邸宅・建造物・艦船の屋内から退去しなかった場合に限られますが、これらに付随する庭などから退去しなかった場合にも、不退去罪が成立する余地があります。
ルール違反の参加者を発見した場合、主催者自ら実力行使によって追い出すのではなく、必要に応じて警察のサポートを求めましょう。
3. 退場させた参加者にチケット代の返金なし、法的にOK?
ルール違反を理由に退場させた参加者に対しては、チケット代を返金しないのが一般的です。
参加ルールを事前告知している場合には、ルール違反は参加者による「債務不履行」と評価できますので、参加費を返金しなくても法的に問題ありません(公序良俗違反等により、ルールが無効となる場合を除きます)。
これに対して、事前告知されていなかったルールへの違反を理由に参加者を退場させた場合、参加者の債務不履行ではなく、主催者都合の契約解消と評価される可能性があります。この場合、主催者は参加者に対して、チケット代を返金する法的な義務が生じる場合がある点に注意が必要です。
繰り返しになりますが、できる限り具体的に参加ルールを定めたうえで、参加者に対して事前告知することが、ルールに関する参加者とのトラブル防止に繋がります。イベント開催前に十分な検討を行い、抜かりのないように参加ルールを定めましょう。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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