ソフトバンクと筑波大学は、「学校スポーツ改革に関する連携協定」を締結し、現在の学校スポーツ教育にある、「スポーツの経験がない教員が部活の顧問になる」「少子化が進み、スポーツチームが少ない地方では満足に活動できない」といった問題を解決すべく、「AIスマートコーチ」アプリをiPhone・iPad向けにリリースしました。
AIスマートコーチは基本無料で利用できるアプリとなっており、執筆時点(2022年4月初旬)では、サッカー、野球、バスケットボール、ダンスの4種目が収録されており、種目数は順次拡充予定とのこと。
では、AIスマートコーチとは具体的にどのようなアプリで、どのようにスポーツ教育を改革していくのでしょうか。発表会やデモンストレーションの様子を紹介していきましょう。
「お手本動画」と自分の動画を簡単比較!
AIスマートコーチの基本的な機能は、筑波大学の学生などが行う「お手本」の動画から、基本動作を学ぶというもの。ここまでは、YouTubeといった動画サイトを見るのと変わりませんが、AIスマートコーチの特徴は、お手本の動画と自分の動画を合わせて確認できることです。
お手本動画と自分の動画を上下に表示して見比べられるだけでなく、AIで骨格を解析し、身体の軸の動きを目視できるようにしたり、お手本動画と自分の動画を重ねて表示し、ズレを視認することができます。
また、動画内にマーカーを引いたり、角度を測る機能も付いているので、お手本の動画と自分の動きがどれくらいズレているのか、しっかりと目で見て、理解することができます。
冒頭でも触れた通り、部活の顧問は必ずしもその競技の経験者というわけではなく、スポーツを始めたばかりの初心者にとっては、基礎を学ぶ機会がない状況も考えられます。
また、小学校では1人の教員が全教科の指導を担当しているケースが多く、体育の専門指導者が適切な指導を行えず、スポーツに苦手意識を持つ児童を生み出す原因の1つになっているとのこと。本アプリでは、初心者が基礎を学ぶ機会を作ることで、スポーツ人口の増加や、地方格差の低減に繋がるかもしれません。
現在は4種目のみの対応ですが、2022年夏までには、15種目までの拡充を目標としており、撮影した動画を保存しておくクラウドサービス(有料)も開始予定。また、現時点では個人向けのコンテンツのみとなっていますが、チームでも活用できるようにコンテンツを増やしていく予定です。
なお、現在はiPhone、iPad向けアプリのみとなっており、AndroidスマートフォンやAndroidタブレットでは利用できません。ソフトバンク担当者に確認したところ、「現在はAndroid OS向けのリリース予定はなく、まずはiPhone、iPad向けのアプリで動作を安定させながら、競技レパートリーを増やすなど、サービスの拡充を目指す。」としています。
なぜ「ソフトバンク」と「筑波大学」がスポーツ改革に取り組むのか
ソフトバンクはこれまで、バスケットボールリーグにて観客が顔認証で入場できる仕組みの実証実験を行うなど、積極的にスポーツ事業に取り組んでいます。
【参照】ソフトバンク B.LEAGUE初の顔認証ソリューションを活用した新たなスポーツ観戦体験の実証実験を開幕戦で実施
一方、筑波大学には多数の運動部や「TSAトレーナーチーム(スポーツ活動を支える学生トレーナーを中心としたチーム)」があるのに加え、柔道や陸上、体操といった地域向けのクラブ・教室も開催。実は筑波大学の前身「東京高等師範学校」の校長を務めた嘉納治五郎氏は、日本で初めて「体育科」を設置した人物でもあります。
積極的にスポーツ社会の活性化に努めてきた両者は、学校スポーツにおける課題解決と発展に向け、情報通信技術(ICT)を活用した学校スポーツのサポートや、学校スポーツを通した地域発展、情報発信の強化などで連携し、日本の学校スポーツ改革に向けて取り組む意思を表明しています。
今回のAIスマートコーチも、情報通信技術(ICT)を活用し、学校スポーツのサポートや、スポーツを通しての地域発展、情報発信の強化に繋がるとしています。
オンラインで専門コーチからの指導が受けられる「スマートコーチ」との統合も視野に
ソフトバンクとしては、元スポーツ選手やアスリートといった専門コーチからプライベートレッスンやグループレッスンが受けられる「スマートコーチ」をすでに提供中。
【参照】ソフトバンク スマートコーチ
スマートコーチは、実際に競技のスペシャリストから指導を受けられるサービスなのに対して、今回登場したAIスマートコーチは、テクノロジーを基盤とし、AIでコーチングを行うといった違いがあります。
なお、今後スマートコーチとAIスマートコーチの2サービスを統合し、より使いやすいサービスにしていくことも検討中とのことです。
AIが地域格差解消の救世主になる?
2020年に実施された国勢調査によると、全国の約3割の人口は東京、神奈川、埼玉、千葉の1都3県が占めており、人口数上位8都道府県で、全国の5割以上を占めています。また、2015年から2020年に人口が増加したのはわずか8都県となっており、今後さらに都市部への人口集中や、地方格差が広がると考えられます。
AIスマートコーチのように、実際に指導者がいなくても、ある程度の水準を満たした教育が受けられる技術が確立していけば、地方・地域格差の解消に一役を買う可能性は十分あるでしょう。
また、AIとは少し違いますが、テレワークの普及によりZOOMやGoogle Meetといったビデオ通話アプリも、ここ数年で使いやすく、高性能に進化。これに準じて、パソコンやタブレット、スマートフォンに搭載されるマイクやスピーカー、カメラ性能も年々向上しています。
最近よく耳にする「メタバース」も含め、“誰がどの場所にいるのか”は重要視されない時代に差し掛かっているともいえるでしょう。これらが定着していくことが、地方・地域格差の解消に繋がるかもしれません。
取材・文/佐藤文彦