「SDGs」への関心が高まってはいるものの、日頃の買い物の中で、サステナブルや環境配慮の観点を中心にしてモノ選びをするという習慣は、まだまだ根付いていない。
何を買い、使い、廃棄するかという、ひとりひとりの買い物への意識が少し変わるだけでも、地球環境にとって良い変化が生まれるはずだ。
ここでは、日頃の生活者の買い物の実態を見るとともに、SDGs専門家に話を聞き「買い物にSDGsの視点を取り入れるポイント」を教えてもらった。
「SDGs視点の買い物を意識している」人はわずか6.7%
Paidyが、2022年2月に全国の男女18~69歳500人に対して「買い物の多様性に関する調査」を実施したところ、
「SDGs視点の買い物をしている」と回答したのは6.7%のみ。残りの9割以上が、ほぼ意識できていないという実態が分かった。意識の高い年代は10~20代で、それでも10.1%だった。
●SDGs視点で買い物を意識している人はわずか
SDGs視点を意識している人が行っていることを聞いてみると「エコバッグを持ち歩くようになった(56.0%)」や「見た目よりも長く使えるかどうかを意識している(50.0%)」などが上位となっている。
●SDGs視点で購入しているモノは?
実際にSDGs視点で購入しているものはどのようなものだろうか。
HTLが2022年2月、20~60代の有職者男女500人に対して実施した「SDGs時代のモノ選び」に関する意識・実態調査で、「SDGsに関連する商品を購入したことがありますか?」という質問に対しては、7割近くの人が「ある」と回答しており、実際に「購入したことがある商品」としては、
・「使い捨てをなくすように作られた商品」(75%)
・「廃棄物を減らすように作られた商品」(72%)
・「リサイクル素材で作られた商品」(45%)
・「他の人が不要になった中古品・リサイクル品」(37%)
などが多い結果となった。
またSDGsに関連した商品を購入したことが「ある」人に「購入した商品のジャンル」を聞いたところ、「日用品」(78%)が最も多く、「食品・飲料」(59%)、「ファッション」(27%)と続いた。「デジタル機器」と答えた人は、わずか7%にとどまった。
●電子ごみの問題は大きいがSDGsの視点が入りにくい「デジタル機器」
そこで「デジタル機器は購入時にSDGsの視点が入りにくい/抜け落ちがちだと思いますか?」という質問をユーザーにしたところ、70%が「そう思う」と回答した。
その理由として挙がったコメントには次のものがある。
・「いざ買うときには価格や使い勝手などに目がいきがちで、SDGsにまで考えが至らない」(38歳・男性)
・「どのようなデジタル機器を選べばSDGsへの配慮につながるのかが想像できない」(47歳・女性)
・「SDGsをアピールしているデジタル機器が少なく、目が行かない」(29歳・女性)
・「SDGsのデジタル機器は、見た目がかっこよくなさそう」(50代・男性)
SDGs視点の買い物はまだまだ「リサイクル」などの従来からある視点に留まり、デジタル機器では特にSDGs視点を持つまでに到達していない実態があることがわかった。ちなみにHTLは電子ゴミの削減につながる、SDGsに配慮した次世代型デバイス「WitH」を展開している会社だ。
SDGs視点の買い物が進まない背景
ユーザーはまだまだSDGs視点で買い物をすることに慣れていないようだ。そこで、SDGsに関する有識者2名に、SDGs視点で賢く買い物をするためのヒントや意識の仕方について教えていただいた。
SDGsコンサルタントの玉木巧氏は次のように述べる。
【取材協力】
玉木巧氏
株式会社Drop/SDGsコンサルタント
数多くの企業でサステナビリティ推進を支援。企業・青年会議所・教育機関などでSDGs経営をテーマにしたSDGs研修実施し、計40万人以上のビジネスパーソンが参加。YouTuber・音声メディア配信者として「SDGs media」でSDGsの基本知識から取り組み方法について発信中。
SDGsの情報サイトSDGs media:https://sdgs.media/
「SDGsの視点で買い物をすることは、環境面において、まだまだむずかしい現状があります。例えば服を選ぶ際に、SDGs視点で買い物しようと思っても、売り場や商品タグから生産工場での人権侵害・保護の状況、生産から販売までのカーボンフットプリント(※)などはわかりません。適切な判断をするための情報開示が企業からあまり行われておらず、スマホで調べて分かる情報も限られています。そのため、もっと売り手側の工夫で、消費者への情報提供・教育を促していく動きが必要ではないかと考えます。
また、消費者視点でも、FSC認証やMSC認証のマークに見覚えがあっても、意味していることや背景にある問題、認証が誕生した経緯までわかっている方はごく少数でしょう。まずは知ろうとして調べなければ、SDGs視点の買い物にはなりにくいように感じます」(玉木氏)
※カーボンフットプリント:商品やサービスの原材料調達から廃棄・リサイクルに至るまでのライフサイクル全体を通して排出される温室効果ガスの排出量をCO2に換算して、商品やサービスに分かりやすく表示する仕組み。(出典:経済産業省資料)
さらにSDGsコミュニケーターの難波裕扶子氏は、次のように述べる。
【取材協力】
難波 裕扶子氏
SDGsコミュニケーターの九州における草分け的存在。宮崎県内でのSDGs啓発の第一人者(2016年12月啓発スタート)。1995年4月に食品メーカーに入社。商品開発や品質保証業務に従事後、企業ブランディング・CSR・広報部門において地域社会や次世代へ向けた食育、環境教育、キャリア教育に尽力。その後2021年3月に退職し、2021年5月10日に起業。
前職ではプログラム開発からスタートした食育・環境教育・キャリア教育活動は、子どもから大人まで幅広い世代を対象とし、主に宮崎県内を中心に全国で年間70回以上、2020年度までにのべ25,000人以上の方が参加。
持続可能な社会の創り手育成に寄与する取り組みは、国から高く評価されている。宮崎県環境保全アドバイザー、宮崎県総合計画審議会委員など、環境保全や地方創生などの委員を歴任。
https://www.too17.com/
「コロナ禍により、『エシカル(倫理的)消費』という概念が国内でも広まってきており、『SDGs視点で買い物をする』という選択肢があることを知っている方々は確実に増えてきていますが、他国ほど実際の行動には移せていないのが現状ではないでしょうか。エシカル消費が進まない理由として、エシカルは手に入りづらい、価格が高い、デザインがイマイチ、どれがエシカルか分からない…などさまざまですが、その商品の向こう側の物語である『誰が、どこで、どのようにして作っているのか』を知らない、想像できないのが大きな理由ではないかと思っています。
しかし、SDGsの認知度の向上と共に、SDGs達成に取り組みたいという人や企業もかなり増えてきています。買い物は投票のようなものです。『バイコット(買って応援、共感して購入すること)』で取り組んでいる企業を応援でき、それを受けた企業はさらにエシカルなモノをより買いたくなるモノづくりに注力すれば、先ほどのエシカル消費が進まない理由の解決へとつながります。『つかう』が『つくる』を変えることができると考えています」(難波氏)
SDGsの視点で買い物をするヒントとは
SDGs視点を買い物に取り入れるには、具体的にどのような所を見る必要があるのだろうか。玉木氏と難波氏に具体的に挙げてもらった。
●玉木氏
・石油資源をなるべく使っていない製品を選ぶ。
・「そもそもこれを買う必要はあるのか?レンタルでまかなえるのではないか?」と一度考えてみる。
・製品ラベルについている認証マークを探してみる。
・すぐ食べるものなら、賞味期限が近いものをなるべく選ぶ。
・不要なものは捨てるだけでなく、フリマアプリや買取店で売るという発想も持つ。
・環境や社会に悪影響を与えている企業の商品は買わない。
●難波氏
・買うときに、この商品は「誰かが泣いていないかな」とか、「地球環境に大きな負荷をかけていないかな」など、ちょっと立ち止まって、見えない向こう側に思いを馳せる癖をつける。「今だけ」を「未来・長期」という視点に、「ここだけ」を「地域・世界」という視点に、「自分だけ」を「包摂型社会」という視点に変えていくだけでも違う。
・大切なことは自分にとっても“居心地がよい”こと。「デザインが好き」や「美味しい」から始まり、その商品の物語(ストーリー)を調べ、そこに驚きと感動を覚え、さらにファンになり、リピーターとなる。
・人、社会に優しい消費
例)フェアトレード商品(開発途上国の生産省・労働者支援)、オーガニック製品(生産者の健康支援)、障がいのある人がつくった製品(障がい者の自立支援)、コロナ渦などで打撃を受けている事業者・生産者の商品(事業・生産活動支援)、寄付付き商品(対象者・活動への支援)、ESG投資(環境・社会・法令遵守の観点からの投資)、フードバンク(生活困窮者支援)
・地域に優しい消費
例)地元の産品を購入する(地産地消)、地元で買い物する(地域活性化)、被災地産品を購入する(被災地支援)、伝統工芸品を購入する(伝統技術・技法の継承)、エコ商品、リサイクル製品を購入する(環境負荷の軽減)、マイバッグ、マイボトルを持ち歩く(環境負荷の軽減)
・環境や動物に優しい消費
例)オーガニック製品(水質・土壌・大気保全)、国産材の利用(森林の適正管理・保全)、自然エネルギーの利用・省エネや節電につながる行動の実践(資源保全)、森や海の資源を守る商品(持続可能な資源調達)、必要な食品を必要なときに必要な量だけ購入する、食べ残しを減らす(食品ロスの削減)、フードバンク(食品ロスの削減)、アニマル・ウェルフェア製品(動物福祉の実現)
デジタル機器の電子ごみ問題へのアクション
先の調査結果では、デジタル機器の電子ごみの問題は、あまり一般消費者には認知されておらず、盲点になりがちであることがわかった。電子ごみに関して、日頃からどのようなアクションをとることができるだろうか。2人にアドバイスをもらった。
「なるべく長く使えるようなものを購入・使用する。製品回収・リサイクルに積極的な企業(アップル社など)や環境に配慮した素材を用いたデジタル機器を購入するようにする。面倒くさがらずにデジタル機器のリサイクルや廃棄のルールを調べて実行するなどのアクションが考えられます」(玉木氏)
「デジタル機器の電子ごみを削減するうえでは、商品選びが大きなポイントになります。例えば、1台で様々な使い方が出来る製品を選ぶと、多くのデジタル機器を所有しなくて済むようになるため、廃棄量の減少が期待できます。また、消費電力が少ない製品を選ぶことも環境負荷の軽減につながります。日頃から社会に目を向けて、目を養うことが大切なのではないでしょうか」(難波氏)
SDGsの視点と一言にいっても、実に多様な考え方がある。今回の有識者の視点を参考に、自分なりにできることから取り入れてみてほしい。
取材・文/石原亜香利