インターネット上の広告などで「国が認める借金救済制度」、あるいはそれに類似するキャッチフレーズを目にしたことのある方は多いでしょう。
弁護士や司法書士の一部が、宣伝文句として用いている「国が認める借金救済制度」ですが、無条件で借金が減る…というのは虫が良すぎる話です。
今回は、いわゆる「国が認める借金救済制度」(=債務整理)の負の側面に焦点を当てて、利用する際の注意点をまとめました。
1. 「国が認める借金救済制度」とは何なのか?
弁護士や司法書士の一部が「国が認める借金救済制度」と宣伝しているのは、法律実務の用語では「債務整理」と呼ばれる手続きです。
債務整理では、債権者との交渉または法的手続きを通じて、債務(借金など)の減額・免除や、支払いスケジュールの調整・変更を行います。債務整理が成功すれば、当初の約定よりも債務の負担が合法的に軽減される点を捉えて、「国が認める借金救済制度」という表現をしているのでしょう。
「国」というのが何を指しているのか(国会?裁判所?)よくわからないので、筆者としては違和感を禁じ得ない表現ではありますが、広告宣伝上のわかりやすさを重視したものと考えられます。
2. 債務整理は誰でも利用できるのか?
借金を背負った方にとっては、債務整理によって借金が減額・免除されるというのは魅力的に思われるでしょう。しかし、債務整理は誰でも利用できる手続きというわけではありません。
債務整理には、主に「任意整理」「個人再生」「自己破産」という3つの手続きがあります。
このうち任意整理は、債権者との交渉によって債務負担を軽減する手続きです。
任意整理が成立するかどうかは債権者の意向次第のため、厳密な利用要件はありません。しかし、債権者の同意を得るためには、債務者側で返済計画などをきちんと立てる必要があり、現実的に任意整理を利用できる方は絞られます。
個人再生と自己破産は、裁判所で行われる法的手続きです。個人再生については「民事再生法」、自己破産については「破産法」という法律で、それぞれ厳格に利用要件が定められています。
<個人再生の主な利用要件>
・支払不能に陥るおそれがあること
・将来にわたり、継続的に収入を得る見込みがあること
・債務総額が5,000万円以下であること
・裁判所の定める予納金を納付すること
<自己破産の主な利用要件>
・支払不能に陥っていること
・裁判所の定める予納金を納付すること
このように、いずれの債務整理手続きについても、利用の際には一定の要件を満たす必要があり、誰でも利用できるわけではない点に注意が必要です。
3. 債務整理にデメリットはないのか?
債務整理が成功すれば、借金の減額または免除を得ることができます。しかしその反面、債務整理手続きの種類に応じて、以下のデメリットが発生することをご認識ください。
3-1. 自己破産では財産の処分と資格制限に要注意
債務整理手続きの中でも、唯一債務の全額免除が認められる強力な手続きが「自己破産」です。しかし自己破産をすると、債務の免除と引き換えに「財産の処分」と「資格制限」というデメリットが発生します。
3-1-1. 自己破産による財産の処分
自己破産手続きでは、以下の自由財産を除いて、債務者の所有する財産がすべて処分されます。
<自由財産>
①破産手続開始決定後に取得した財産(破産法34条1項)
②99万円以下の現金(同条3項1号)
③差押禁止財産(同項2号)
・生活必需品の衣服、寝具、家具、台所用具、畳、建具
・1か月間の生活に必要な食料、燃料
・事業を営むために不可欠な財産
・未公表の発明、著作
・年金等の債権
など
④裁判所によって特に認められた財産(同条4項)
・総額20万円以下の預貯金
・見込み総額20万円以下の生命保険解約返戻金
・処分見込み額が20万円以下の自動車
・居住用家屋の敷金債権
・電話加入権
・退職金債権の8分の7相当額(退職金額が160万円以下の場合は、全額)
・家財道具
など(東京地裁の場合)
高額な財産を持っていない方にとっては、自己破産による財産処分のデメリットはほとんどありません。これに対して、財産を持っていながら自己破産をして、債務だけを免除してもらおうというのは認められないので注意しましょう。
3-1-2. 自己破産による資格制限
破産手続開始決定がなされてから、破産免責が確定するまでの間、一定の職業に就けなくなる「資格制限」が発生します。
資格制限が発生するのは、各種士業・公的な委員会の委員・金融機関の役員・警備員などです。これらの職業に就いている方は、本当に自己破産すべきかどうか注意深く検討する必要があります。
3-2. ブラックリスト入りしてローン・クレジットカードが利用できなくなる
すべての債務整理手続きに共通して、個人信用情報機関に事故情報が登録されることがデメリットとなります。俗に「ブラックリスト入り」とも呼ばれています。
ブラックリスト入りすると、金融機関やカード会社などが与信審査を行うため、信用情報を確認した際に、債務整理の履歴を確認されてしまいます。そのため原則として、債務整理後数年間は、新規ローンの借入れや、クレジットカードの利用ができなくなる点に注意が必要です。
4. まとめ
債務整理は、債務の減額・免除というメリットばかりでなく、デメリットも考慮したうえで検討することが大切です。
「国が認めた借金救済制度」などの宣伝文句に惑わされず、相談先の弁護士や司法書士とよく話し合って、本当に債務整理をすべきかどうか慎重にご検討ください。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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