「格安スマホは通話がメインの人には不向き」という、これまでの常識が変わりつつある。HISのグループ会社でMVNO事業を展開するHISモバイルが、月額290円~で音声通話料が30秒9円という、業界最安クラスの新料金プランを5月から提供開始予定だ。
格安プランの弱点である「通話」に着目
一般的にMVNOのプランでは、データ通信料金が安価な一方で、通話料金は30秒22円と割引きされないケースが多い。IP電話や中継電話と呼ばれるしくみを使って通話料を抑えているところもあるが、専用のアプリを使う必要があったり、電話番号の前にプレフィックス番号と呼ばれる番号をつけて発信する必要があったりと、ひと手間かかる。また、「着信に折り返したら(プレフィックス番号がつかずに)通話料金が高くなった」といったトラブルや、「音声品質がいまひとつ」といった声も耳にする。
HISモバイルの新料金プランは、データ通信量が100MB未満なら月額料金が290円、100MB~1GBなら550円と格安なのに加えて、通話料金も30秒9円に抑えられている。さらに5分かけ放題で月額500円、完全かけ放題で1480円というオプションも用意される。
H.I.S.Mobile株式会社 代表取締役社長の猪腰英知氏。
HISモバイルのMVNO事業をサポートする日本通信は、2020年に総務省裁定により、ドコモから提供される音声通話の卸価格の値下げを勝ち取っている。30秒9円の通話料金はこの恩恵を受けたもの。通話のしくみはIP電話や中継電話ではなく、基本的にはドコモと変わらないという。にもかかわらず、30秒22円の通話料金が9円にになるだけでなく、かけ放題のオプションもドコモの5分かけ放題で770円、完全かけ放題で1870円のオプション料金と比べ、割安な設定となっている。
1GB290円~のほか、3GB、7GBのプランも新設。7GBに通話かけ放題のオプションをつけても、月額料金は2470円に収まる。
3月末にauが3G回線を終了したが、3G回線のユーザーはまだまだ多く、総務省の調査によればその数は2000万人以上とも言われる。「そうしたお客様の受け皿となれる新プランを考えた」と、HISモバイルの猪腰英知社長。データ通信はあまり使わず、通話がメインという層がターゲットだ。一方でそうしたユーザー層はこれまで、オンラインの手続きやサポートが中心となるMVNOには馴染まないともされてきた。そこでHISモバイルでは新プランの導入とともに、リアル店舗の全国展開にも乗り出す。
スマートフォンの販売、修理を手がける「J-PICモバイルステーション」を展開する、日本物産情報通信と手を組み、取扱店を拡大するとともに、HISモバイルの専売店「HISモバイルステーション」をフランチャイズ展開する。4月16日には太田藪塚店、18日には広島西店がオープン予定だ。
リアル店舗の活用は?
HISでは旅行商品を扱う店舗を全国に展開しているが、同じグループの店舗を活用するのではなく、敢えて独自のフランチャイズ展開に踏み切った背景について、猪腰社長は筆者の質問に答え、「コロナの影響でHISの店舗自体も減少傾向にありますし、旅行商品の販売と携帯電話を説明するという作業は相容れない。ビジネスとしてきちんとサービスが提供できる、パートナーと一緒にやっていった方がいい」と説明。現状、Androidスマートフォンの修理を手がける店舗は少なく、そうしたニーズに応えられるサービスと一緒に展開することで、全国拡大も可能と考えているという。
一方で将来的には、「グループでのシナジーについても構想している」と猪腰社長。
「HISグループの各種営業マン達が抱えている課題の中に、通信やデバイスに関するものなど、我々が提供できるリソースがあれば提供するし、我々だけでできないものがあればパートナーとの窓口となってサポートしていきたい」と話していた。
音声通話とリアル店舗という、これまでMVNOのウィークポイントとも言われていたサービスの強化を打ち出したHISモバイル。格安スマホの常識を打ち破るサービスが、狙い通り3Gユーザーの受け皿となれるのか注目したい。
取材・文/太田百合子