
【連載】もしもAIがいてくれたら
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第1回:私、元いじめられっ子の大学副学長です
第46回:作詞などの創作活動を支援するAIで人々の〝産みの苦しみ〟は解消する!?
「飛行機より車が危ない」はよく知られているけど……。
4人の民間人のみが搭乗する宇宙船が打ち上げられ、日本時間4月9日夜、ISS(国際宇宙ステーション)に到着したと報道がありました。すべて民間人の宇宙船がISSに到達するのは宇宙開発史上初だということです。
ロケット打ち上げに伴う費用と、19日に地球に帰還するまでのISS滞在のための費用として、1人およそ68億円を支払ったということです。値段は全然身近ではないですが、民間人だけでも宇宙まで旅行できるとは、宇宙が信じられないほど身近になってきました。
そこであらためて、宇宙に行ってみたいか、考えてみたいと思い、周囲の人と話してみました。その際、どのくらいの値段だったら行きたいかは、個人によって大きく異なると思うため、価格という要素は、脇に置いておくことにしました。
結論から言うと、宇宙を体験してみたいという気持ちの強さと、宇宙旅行に感じる大変さや恐怖のどちらが大きいか、ということに依存するようです。
恐怖心の大きさの違いは、どれくらいテクノロジーを信じることができるか、ということに依存するかもしれません。完全自動運転である宇宙船のソフト面とハード面での安全性を信じて、命を任せることができれば怖くないのかもしれません。
宇宙船は道路を走る自動車とは比べ物にならないほど実績が少ないため、事故の確率を単純には比較できませんが、飛行機や船や電車などの乗り物と比較しても、自動車は圧倒的に事故の確率が高いといわれています。
しかし、飛行機は怖いから乗りたくない、という人は少なからずいます。話を聞いてみると、「落ちたらほぼ確実に死んでしまうから」「いざとなったら自分ではどうにもできないから」といった理由のようです。自動車なら自分で制御できる可能性がある、ということでしょうか。
車より障害物が少ない「宇宙船」なら?
自動運転の自動車ならどうでしょうか。完全自動運転車の方が、人間が運転する場合よりも事故率が低いと予想されていても、完全自動運転の自動車に乗ることに恐怖心を感じないでしょうか?
自動運転に前向きな、テスラに乗っている友人と話してみましたが、ハンドルやブレーキなどがついていなかったら怖いかもしれない、と言っていました。やはり、いざとなったら自分でなんとかできる可能性があること、は重要な要素なのかもしれません。ちなみに、テスラは、赤信号などで止まろうとしてアクセルから足を離すと、ブレーキペダルを踏まなくても、自動的に動くのが見えて面白いです。
一方、世界一安全な乗り物とされる新幹線では、乗客が運転をする可能性はないわけですが、恐怖心を感じる人はほとんどいないと思われます。飛行機も新幹線も(おそらく宇宙船も)、自動車と比べて障害物が少ないため、自動運転を導入しやすいという点で共通していますが、飛行機や宇宙船に対しての方が恐怖心を感じやすいです。地面の上を走っているか、空を飛んでいるか、の違いなのかもしれません。人間は、地面の上なら、自律的に動けますが、空や宇宙では不可能です。生き物としての本能のようなものが働いているのかもしれません。
冒頭、宇宙船が身近になってきたと言いましたが、飛行機や宇宙船は、自動車や電車と比べたら身近な乗り物とは言えません。SF映画のように、空飛ぶ乗り物が日常的な移動手段となったり、宇宙旅行が身近になれば、恐怖心は薄れていくのかもしれません。
坂本真樹(さかもと・まき)/国立大学法人電気通信大学副学長、同大学情報理工学研究科/人工知能先端研究センター教授。人工知能学会元理事。感性AI株式会社COO。NHKラジオ第一放送『子ども科学電話相談』のAI・ロボット担当として、人工知能などの最新研究とビジネス動向について解説している。オノマトペや五感や感性・感情といった人の言語・心理などについての文系的な現象を、理工系的観点から分析し、人工知能に搭載することが得意。著書に「坂本真樹先生が教える人工知能がほぼほぼわかる本」(オーム社)など。