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【深層心理の謎】人に言ってあげたほうがいいことを意外と伝えられないのはなぜ?

2022.04.15

 鮮やかな桜が描かれたステッカーはなかなか趣があるが、それをスーツの背中に貼って歩く人はいないだろう。知らないうちに貼りついてしまったに違いない。もう少し近くにいたのならば、直接指摘してあげることもできたのだが……。

スーツの背中に貼られた桜のステッカーが気になる

 まったく気づいていないがゆえの落とし物だ。まだ寒かった時期に、某所の街中で後ろから声をかけられたことがあった。

 振り向くと「落としましたよ」と、女性がマフラーを手渡してくれたのだった。自分でも少し驚いたのだが、感謝の言葉を述べて、ありがたくマフラーを受け取った。首に軽く巻いていたマフラーがほどけて落ちていたことに、まったく気がついていなかったのである。その親切な人がいなかったら、おそらくこのマフラーとはそこで永遠の別れとなっていただろう。

 練馬区某所からの帰路、西武池袋線を東長崎駅で降りた。夜7時半を過ぎたところだ。乗ってきた上りの電車は混んではいなかったが、下りの電車の乗客も降りてきたためか、駅構内はけっこうな混雑ぶりだ。東長崎は久しく来ていなかったので、途中下車して少し辺りを歩いてみたかった。もう今日はしなければならない作業もないので、どこかで「ちょっと一杯」やってみてもよい。

 ラッシュアワーの人波に流されながら駅の出口へ向かう下り階段を降りる。眼下に見えるのは先に階段を降りる人々の背中と後頭部ばかりだ。

 5メートルほど先で階段を降りているスーツ姿の若い男性の背中に、鮮やかなピンク色の桜が描かれたステッカーのようなものが貼りついていた。驚くほどのことではないが奇異な光景だ。

 季節感を醸し出す装飾に使うようなステッカーなのだが、まさか意図的にこのステッカーを背中に貼りつけて歩いているわけではないだろう。少し考えてみると、例えば売り場の飾りつけなどでこのステッカーを貼る作業をしていて、気づかないうちに背中に貼りついてしまったのかもしれない。そしてその後仕事を終えてそのまま帰路に就いたというようなことも考えらえる。

 だとすればその作業の現場で気づいて指摘してくれる人はいなかったのだろうか。周囲も忙しくて誰も気づかなかったのかもしれない。あるいは出先での一人での作業だったとも考えられる。

 もし自分がこの若者のすぐ後ろを歩いて階段を降りていたのであれば、若者に声をかけ場合によっては背中のステッカーをはがして「着いてましたよ」と差し出したりするだろう。その際の前提となるのは、この若者は自分で好んでステッカーを貼ったわけではなく、背中に貼りついていることにまったく気づいていないということだ。

 何らかの理由で自主的にこのステッカーを貼っている可能性もゼロではないかもしれないが、このケースではそれは除外してよさそうだ。万が一そうだとしたら謝ればよいだけの話である。

 そうはいってもだいぶ先を進んでいるその若者はもう階段を降り切り、背中に桜のステッカーを着けたまま足早に駅の外へと出て行く。駅を出た夜道の中であればあのステッカーもそれほど悪目立ちはしないのだろう。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 ややわだかまりは残るものの、自分もまた階段を降りて駅の南口を出る。駅前の広場に面したT字路があり、真ん中に「長崎銀座」の商店街が延びている。この商店街を進んでみることにしたい。

「言ってあげたほうがいいこと」を言わないのはなぜか?

 商店街を進む。夕食や「ちょっと一杯」にはちょうどいい時間だ。それなりに人出も多い。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 カレー店や喫茶店、中華料理店の前を過ぎるが、もう少し先へ行ってみたい。左手には信用金庫の建物もあり、あくまでもここが地元の人々のための商店街であることがわかる。

 背中にステッカーを貼ったままの若者がどこにいったのか、もはや姿はどこにも見えない。あの様子だとおそらく部屋に戻ってスーツを脱いだ時か、あるいは次にそのスーツを着る時に気づいて少しばかり気恥ずかしい思いをしそうである。

 願わくば職場で誰かが気づいていればよかったのだが、若者としては帰宅中の駅構内や電車内で見知らぬ誰かが指摘してくれてもよかったように思える。その時は恥ずかしい思いをしても、ずっと着けたままであるよりはいくぶんか心も軽くなるというものだろう。まぁそれも自分がその若者だったらという仮定での話であり、感じ方は人それぞれではある。

 いわば「言ってくれたらよかったのに」というケースになるわけだが、最新の研究では我々は「言ってあげたほうがいいこと」を案外その当人に伝えていないことが示されていて興味深い。我々は他者の「言ってくれたらよかったのに」という願望を過小評価しているというのである。


「全体として、私たちの調査によると、人々は指摘(フィードバック)に対する他の人の願望を常に過小評価しており、指摘の潜在的な受け手に損失を及ぼす結果をもたらす可能性があります」

 研究者によると、建設的な指摘は学習とパフォーマンスを支援するのに役立ち、研究によると人々は一般的にこのタイプの指摘を望んでいると報告しています。

 しかし建設的な指摘を自分で望んでいるにもかかわらず、人々はそれを他の人に与えることを避けることがよくあります。

 研究者が実施したパイロット調査では、調査中に参加者のわずか2.6%しかテスターの顔にある汚れ(チョコレート、口紅、赤いマーカーなど)を知らせませんでした。

※「American Psychological Association」より引用


 ハーバード・ビジネス・スクールの研究チームが2022年3月に「Journal of Personality and Social Psychology」で発表した研究では、人々は建設的な指摘が欲しいという他者の願望を常に過小評価しているため、その指摘が他者のパフォーマンスを向上させることができたとしても、案外指摘をしていないことを、実験を通じて明らかにしている。当人は「言ってくれたらよかったのに」と望んでいることでも、周囲はその願望を過小評価してあまり指摘することはないというのである。

 たとえばこれからプレゼンを行うという人物のシャツがカレーやケチャップのシミで汚れていて、当人がそれに気づいていない場合、指摘してあげればいいものだが、案外周囲の者はそれを指摘しないのだ。

 1984人が参加した5つの実験では、さまざまなシチュエーションのもとで人々がその人物のためになる建設的な指摘をどの程度行うのかが検証された。

 収集した実験データを分析した結果、5つの実験すべてにおいて指摘を提供できる立場にある人々は、受け手の指摘をして欲しいという欲求を一貫して過小評価していることが明らかになった。

 なぜ「言ってあげたほうがいいこと」を伝えないのか? そこには当人を驚かせたくなかったり、気を散らせたくないという配慮があるということだ。多くの場合、決して意地悪をして伝えないわけではないのである。

 我々は受け手の立場では「言ってくれたらよかったのに」と思っているのに、指摘できる側に回った途端にあまり指摘しなくなるということになる。それ故にステッカーの若者は誰にも指摘されることなく帰宅することになったのだ。したがって指摘できる立場にある者は、少々おせかっいに感じられても、気後れすることなく指摘してあげるのがおおむね正しいということになりそうだ。若者の姿を見失った後ではそれも叶わないことではあるのだが……。

焼き鳥居酒屋で「ちょっと一杯」を楽しむ

 商店街をさらに進む。やきとん居酒屋や焼き鳥の店の前も通りかかる。なかなか良さそうだがもう少し歩いてみよう。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 路上にニットの赤い手袋が片一方だけ落ちていた。女性用か子供用のような小さい手袋だ。桜が散りはじめている時節だがそれでも朝晩は冷え込むこともあるので、まだ手袋が手放せないという人もいるのだろう。

 それにしても手袋が片手だけ落ちているのを見るのは残念で仕方がない。もう一方は落としていなかったとしても、もはやその手袋は使い物にならない。片手だけの作業などに使うということもできそうだが、そんな機会も少なそうだ。

 かつて落としたマフラーを拾って手渡してもらったように、この手袋を落とす現場を目の前で目撃したとすれば、素早く拾って持ち主へ届けたかったものだ。前出の研究にもあったように、そういう時はおせっかいくらいでちょうどよいのである。

 十字路に差しかかる。居酒屋や焼肉店と共に店名に「やきとり」と記された店がある。店構えの様子から最近できた店のように見える。この機会に入ってみてもよいのだろう。ガラス戸のサッシを開けた。

 お店の人にとりあえずハイボールをお願いしてメニューを一通り眺めてみる。少し検討してから、串ものを六本と、野菜サラダにマグロぶつを注文した。

 明らかに近所に住む常連という佇まいの女性の一人客が入って、テーブルに座るか座らないうちに生ビールとやきとりを注文した。すぐにビールを持ってきた店員の人とさり気なく雑談をしたりして、その屈託のない“コミュ力”には感服させられる。

 料理がやってきた。さっそくいただこう。まずは鶏レバーを一本食べる。美味しい。サラダやマグロぶつも味わうことにしよう。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 新鮮なマグロぶつの鮮やかなピンク色はさっきのステッカーの桜の色に似ている。ともあれ、あのステッカーは無事にスーツの上着からはがされたのだろうか。ステッカーの桜の絵柄はなかなか素敵なものだった。残念ながら東京では桜の季節も終ってしまっただけに、しばらくは“桜色”が恋しくなるのかもしれない。

文/仲田しんじ

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