
人工衛星がとらえる地球の観測データは、軍事目的だけでなく天気予報や災害対策などに活用され、私たちの暮らしになくてはならないものとなっている。こうした観測衛星の多くはカメラ(光学センサー)で地表の映像を撮影する、いわゆる「光学衛星」が主流だった。しかし近年は、カメラの代わりにマイクロ波レーダーを使った『SAR衛星』と呼ばれる新しい人工衛星が登場し、その活用が進みつつある。
そんな『SAR衛星』についてこのほど、三井住友DSアセットマネジメントが「『SAR衛星』で進化する次世代の観測衛星ビジネス」と題したマーケットレポートを公開したので紹介したい。
そもそも『SAR衛星』とは何か?
『SAR(合成開口レーダー、Synthetic Aperture Radar)衛星』は、電磁波(マイクロ波)を地表に向けて照射し、はね返ってきた電磁波を受信・解析することで、地表の状態を映像化する。
一般的な人工衛星と違いカメラで映像を撮影するわけではないので、地表に太陽の光があたっていない夜間や悪天候下でも、24時間観測が可能になる。さらに観測対象の材質(人工物か、自然物か、水か)が識別可能で、常に同じ条件で太陽光の影響を受けずに定点観測を続けることが可能なため、対象物の細かな変化をとらえることができる、とされている。
小型化、AI化で進化する『SAR衛星』
良いことずくめの『SAR衛星』だが、かつてはシステムが複雑なためサイズが大きく費用も高額だった。加えて『SAR衛星』がとらえる映像はノイズが多かったこともあり、普及のボトルネックとなっていた。
しかし近年、技術革新や汎用部品の活用により『SAR衛星』の小型化・低価格化が進み、人工知能(AI)の活用などによる画像解析技術の向上もあって、『SAR衛星』の実用性が急速に高まっている。加えて、衛星の小型化により打ち上げコストが大幅に下がったこともあり、『SAR衛星』を活用した新たなデータビジネスへの取り組みが活発化してきている。
【今後の展開】ウクライナ政府も注目、『SAR衛星』コンステレーションで劇的に進化する衛星データ
『SAR衛星』の小型化・低価格化とならび注目されているのが、複数の『SAR衛星』をたばねて一つのシステムとして統合的に運用する「衛星コンステレーション(Constellation、英語で星座のこと)」と呼ばれる観測方法だ。
例えば、小型の『SAR衛星』を精細な映像が撮影できる低軌道(高度約300~2,000km)に36基打ち上げ「衛星コンステレーション」を構築すると、地球全体の詳細な映像を約10分間隔で撮影し続けることが可能になる、といわれている。
こうした地球全体の詳細な映像データが準リアルタイムで観測できるようになると、その用途は安全保障や金融などのビジネスにとどまらず、防災、環境保全、交通渋滞の緩和、農業支援、水資源の保全など、SDGsの観点から重要な分野での問題解決にも寄与するものと期待されている。
これまで日本は官民共同で『SAR衛星』の高度化に取り組んできた。例えば、NECや三菱電機などは宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同で、『SAR衛星』の小型化、高性能化、低価格化を図ってきた。また、スカパーJSATや建設コンサル大手の日本工営はベンチャー企業と共同で、『SAR衛星』コンステレーションを活用した、新しいデータサービスの事業化を目指している。
※個別銘柄に言及しているが、当該銘柄を推奨するものではない。
構成/こじへい
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