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監督自身の家族内で疑われる殺人を追ったドキュメンタリー映画「North by Current」の見どころ

2022.04.09

■連載/Londonトレンド通信

アカデミー賞は、ウィル・スミスにさらわれてしまった。イギリスでも平手打ち事件が大ニュースで、受賞作、受賞者はむしろ小さい扱いだ。

平手打ちの方は、スミスが既に非を認めているし、ビンタされたクリス・ロックは訴えないらしいので、あとはアカデミー賞から何らかのペナルティがあるか審議を待つばかりだ。

今回の授賞式では、プレゼンターの1人だったロックが、スミスの妻ジェイダ・ピンケット・スミスの剃り上げ頭を茶化す前にも、スミス夫妻はいじられていた。司会者の1人レジーナ・ホールが、夫妻のオープンマリッジ(お互いの婚外交渉を認め合う結婚)をネタにしている。

また、ロックはかつてのアカデミー賞でも夫妻いじりをしていて、さらに今回だった。だが、ロックはジェイダが脱毛症とは知らなかったとも言われる。そのあたりの背景が審議に影響するかはわからないが、いずれにせよ世界中が目撃者となった暴力事件なので、スミスに非があることは動かせない。

そんなこんなで、すっかり興味が薄れているかもしれないが、受賞作/者について、少しふれたい。

アカデミー賞発表授賞式の前に、英アカデミーBAFTA(British Academy of Film and Telavision Arts)の映画部門賞発表授賞式がある。今年は2週間前だった。同じ英語による映画がメインなので、重なることが多い。いつもBAFTA結果と比べながら、アカデミー賞結果を見る。

BAFTAでは作品賞が『パワー・オブ・ザ・ドッグ』(https://dime.jp/genre/1260495/)、監督賞も同作のジェーン・カンピオン監督で、『パワー・オブ・ザ・ドッグ』が勝者というふうだった。対してアカデミー賞では、作品賞が『コーダ あいのうた』(https://dime.jp/genre/1301481/)で、監督賞がカンピオン監督となった。

まるでタイプの違う2本で、どこを評価するかというのはもう好みみたいなものだ。聴こえない家族の中、1人聴こえる娘の成長が歌に乗せて描かれるストレートな感動作の『コーダ あいのうた』と、壊れていく人が描かれ苦い後味を残す西部劇『パワー・オブ・ザ・ドッグ』では、個人的には後者が好みだ。

それでも『コーダ あいのうた』は涙の押し売りではなく、笑いと歌で軽やかに話を進めているのが上手い。実際に聴こえない俳優が家族を演じている中でも、動きと表情だけでワイルドでユーモラス、熱い父親になってみせたトロイ・コッツァーは出色で、BAFTA、アカデミー賞両方で助演男優賞だった。こちらが作品賞でも文句はない。
 
カンピオン監督、コッツァーだけでなく、やはり主演男優賞が『ドリームプラン』(https://dime.jp/genre/1309857/)のウィル・スミスだったりと、けっこう重なった。『ドライブ・マイ・カー』(https://dime.jp/genre/1176296/)も、ちゃんとBAFTAの外国語作品賞、アカデミー賞の国際長編映画賞獲得で、よしよしと思う。

逆に重ならなかったところにこそ、BAFTAらしさがあるとも言える。BAFTA主演女優賞は『アフター・ラヴ』のジョアンナ・スキャンランだった。イギリスはじめフランスなどで公開されたイギリス映画だが、アメリカでは公開されていないのでアカデミー賞ではノミネート対象にもならない。

スキャンランが受賞スピーチで、小さな映画を完成させるチャンスをくれたスポンサーに礼を述べていた通り、小さい地味な映画だが、日本でも東京国際映画祭で上映されているので、ご覧になった方もいらっしゃるかもしれない。

夫亡き後に、愛人がいたことを知り、ひょんなことからその愛人宅に清掃員として入る妻が主人公だ。その中で生まれる憎しみばかりではない微妙な感情を演じたスキャンランは素晴らしかった。アカデミー賞にあがってこなくても、良い作品はいくらでもあるのだ。

今回ご紹介するドキュメンタリー映画『North by Current』もその1本だ。やはりBAFTAとアカデミー賞の両方で長編ドキュメンタリー賞だった『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』(https://dime.jp/genre/1190347/)のような華はない、地味な作品だが、自身の家族の暗部に潜り込んでいく稀なドキュメンタリーになっている。


3月に開催された第36回ロンドンLGBTQIA+映画祭で上映されたこの映画のアンジェロ・マドセン・ミナックス監督は、トランスジェンダーだ。それが家族のトラウマの大きい部分になっていることが、監督を第三者の立場には置かせない。

発端は2歳だった姪カーラが亡くなったことだ。その後の家族を撮るため、アメリカ、ミシガン州北部の故郷に、カメラを抱えて帰るミナックス監督から映画は始まる。湖と川と高速道路に囲まれた人口2千人足らずの町という。

冒頭のナレーションで監督は問う。今ここに居る私たちは、どうやってできたのか、環境からか、それとも自身で選んできたのか。

カーラが亡くなった後、母親である、監督の妹ジェシーとその夫デヴィッドは児童虐待の疑いで取り調べを受けている。監督が撮り始めたのは、疑いが晴れ、カーラは事故死とされた後だが、ジェシーがドラッグの問題を抱える一方、デヴィッドは度々ジェシーに暴力をふるう。

映画には、女の子のナレーションも入る。誰とは明かされない、私が居なくても日常は続いていくと語る女の子の声は、亡くなったカーラを連想させるが、少女だった頃の監督自身と解釈する人もいる。どちらも今はいない女の子という意味では同じだ。酷な言い方だろうか。だが、それを言ったのは他でもない監督の両親だ。

両親はモルモン教徒で、家にはキリストが飾られている。その家で、亡きカーラのホームビデオを観ている時に、それは監督にとって不意打ちのように起こる。私たちには、もう1人亡くした女の子がいると話し出す両親、それはアンジェラだという。アンジェラは監督が生まれた時に授けられた名前だ。

数年に渡って撮影されたドキュメンタリーでは、そんな家族の瞬間と、ホームビデオが連なる。デヴィッドの生い立ち、自身のドラッグ問題の一端は監督にあるとするジェシー、母の若き日の悔いが、断片的に重ねられていく。

カーラの死も、監督の変身に至る状況も、あえて細部を系列立てて説明しないことで、起こった事を安直なストーリーに落とし込むことを避け、痛ましい家族の肖像そのままに撮っている。観終えた後には、監督の冒頭の問いが重く響いてくる。
 

文/山口ゆかり
ロンドン在住フリーランスライター。日本語が読める英在住者のための映画情報サイトを運営。
http://eigauk.com


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