「ひとつのことにひとりで集中する──
それは瞑想に近い行為なのです」
臨済宗建長寺派林香寺住職
精神科・心療内科医
川野泰周さん
1980年、横浜市生まれ。慶應義塾大学医学部医学科卒。講演や執筆、様々なメディア出演を通して、マインドフルネスの普及活動にも取り組んでいる。
禅僧と精神科医のふたつの顔を持つ川野泰周さんは、イン&アウトで様々な趣味に没頭するソロ活のスペシャリストでもある。自らの経験をもとに、ソロ活には、ただその瞬間を楽しむだけではなく、多くの現代人が抱える心の疲れを癒す「マインドフルネス」な効果があると語った。
ソロ活は脳疲労を和らげるマインドフルネスである
ギター演奏、水泳、キャンプなど、様々なソロ活を満喫しているという川野泰周さん。臨済宗建長寺派林香寺の19代目住職として寺務を行なう一方、メンタルヘルス向上の著書を多数上梓し、精神科医として、クリニックでは、脳(=心)が疲弊した人々の診療にも当たっている。
そんな川野さんが、心の疲れを和らげるひとつの方法として、普及を進めているのが「マインドフルネス」という心理療法だ。
「マインドフルネスとは〝ひとつのことに注意を向ける状態〟のことで、呼吸に集中する『呼吸瞑想』や『坐禅を組む』といったいろいろな実践法があり、1日5~10分続けることにより、脳を休め、リフレッシュさせる効果があります。日常で疲れた心をケアし、ストレスを軽減する〝脳の休息法〟といってもいいかもしれません」
自身で多彩な趣味を楽しむ中、ソロ活にも、マインドフルネスと同じように、心を浄化する作用があることを確信したと川野さんは語る。
「脳の疲れにはいくつかの原因があります。現代社会で増えているのが、情報があふれるマルチタスクな生活によって、人が身の回りで起こったことに注意を払う時に用いる脳内の『注意資源』を使い切り、脳疲労を引き起こすケースです」
純粋なシングルタスクであるソロ活に取り組むことで、マルチタスクで疲労した脳がいったんリセットされ、元の状態へ回復できるという。
「物事に集中している時の人間の脳が、疲労しにくいことが医学的に示唆されるようになりました。脳の疲れを抑えるには、マルチタスクをしないことです。ポジティブに熱中できるシングルタスクに打ち込めれば、マインドフルネスに近い瞑想効果が期待できるでしょう。私は常日頃から〝人生に句読点を入れる〟という言葉を大事にしています。ソロ活は、仕事やプライベートで、忙しい生活環境に置かれている人がひと呼吸を入れる、句読点だと思いますね」
家庭人でも会社人でもない、ひとりの人間に立ち返れるため、周囲への気遣いを意識せず、あらゆるしがらみから自由になれることも、脳への負担軽減につながる。
「注意すべきが、評価や価値判断が加わると、マインドフルネスではなくなってしまうことです。例えばもの作りを趣味としている人が、純粋に作る過程だけを楽しめればいいのですが、完成品に良し悪しの判定をしたり、他人の作品と比べたりして、出来栄えを評価してしまうと脳は休まらず、瞑想ではなくなってしまうでしょう。SNSがいい例で、楽しみとして使うならプラスになりますが、承認欲求を満たす手段として使ってしまうと、否定的な反応にイライラしてみたり、炎上して落ち込んだりして逆効果です」
趣味に人生の句読点を求めるのであれば、ジャッジや評価はせず、行為だけに集中することが原則だ。
ひとつの物事に没頭できればソロ活はすべて瞑想になる
ソロ活のメリットは脳疲労のリセットだけにとどまらない。没頭できるソロ活があることで暮らしのモチベーションが高まり、脳がリフレッシュされ仕事効率がアップすることが期待される。ただ、どんなことから始めればいいか、テーマ探しでつまずく人も多いだろう。
「人に自慢するために趣味を探そうとはしないことです。どうしても世の中で流行っているものや価値が置かれたものに流されてしまい、本当に没頭できることを選べなくなってしまう可能性があります。むしろもっと自由に、一般的に趣味と認識されていないものでもいいですね。おいしいものをしっかり味わって食べること、香りをかぎながら大事にお茶を飲むこと、睡眠の質を高めるための健康法に注力することも立派な趣味といえるでしょう」
その行為だけに没頭できるのであれば、すべてが瞑想になるというのが川野さんの持論だ。
「江戸時代、臨済宗の白隠禅師が残した『動中の工夫は、静中に勝ること百千億倍す』という有名な禅語があります。これは、坐禅をやっているだけが禅の修行ではなくお経も、托鉢も、畑を耕すことも修行であり、瞑想であるという意味です。この言葉どおり、今、その瞬間に意識を向けることができれば、それは瞑想であり、修行にもなるということなのです」
誰でも簡単に始められるソロ活として川野さんが挙げたのが、マインドフルネス散歩である。
「意識しなければ何でもない風景も、自らの注意を向けることで彩りをもって見えてきます。一度、散歩をしながら、自然の景色に目をとどめ、足裏が地を踏むことに意識を向けて歩いてみてください。スマホをオフにし、周囲の音にも耳を澄ましますと晴れでも雨でも、それぞれに違ったよさを感じられるはずです。禅語に『日々是好日』(にちにちこれこうじつ)という言葉があります。これは毎日が良い日でありますようにという願いではなく、日々を丁寧に生きていると、結果的に毎日すべてが良い日になるという禅の教えです。散歩はまさに『歩く瞑想』。ソロ活のきっかけになると思います」
さらに脳疲労の軽減につながる方法として〝独り言〟も勧める。
「独り言は、内なる自己と対峙するための良い手法になります。口には出さず、心の中でナレーションするだけでもよいでしょう。相手に気働きをすることもなく、心の中で出てきた言葉を発することで、心が浄化され、疲労がスーっと和らいでいきます。相手が話を聞いてくれただけで気が楽になることってありますよね。考えをアウトプットすることはとても大事なことですが、心の中で述べるだけでも、アウトプットしたことになるんです」
川野さんのクリニックには、自分の意思ではなく、会社、上司、親に言われるがまま歩んできた人生に満足感が得られず自己肯定できないことに悩む40代、50代の患者さんが急増。独り言で心と向き合うことで、自分をコントロールできるようになり、自己肯定感も上がるという。
「これからの時代、ソロ活はマインドフルネスな時間を過ごすことといわれ、重要なセルフメンテナンスになると考えます」
「動中の工夫は、静中に勝ること百千億倍す」
川野さんは19代住職となった1416年創建の林香寺で生まれ育った。足裏の感覚に集中する「歩く瞑想」を実践。立ち振る舞いが美しい。
趣味のギターを弾く川野さん。昨年、同じ僧侶の友人たちとバンドを結成し歌と作詞作曲を担当。YouTubeで発表している。
川野泰周さんが考えるソロ活の教え
●評価や価値判断をせず純粋に楽しむことだけに注力する。
●ひとつの物事に集中できれば色々なことが瞑想になる。
●独り言にはアウトプット効果があり脳疲労を和らげる。
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取材・文/安藤政弘