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ビールを科学する!?熊本発の産学連携チームでビールサイエンスを追求するダイヤモンドブルーイングの挑戦

2022.04.03

2016年、熊本市に創業したダイヤモンドブルーイング。現在、ビールの製造、卸、販売、3軒の飲食店(熊本市内)の経営を手がける。創業当初から代表の鍛島勇作氏は「熊本からビール文化を創り、世界に発信していきたい」と語っていた。来年度(2023年度)には国内のクラフトビール会社として屈指の規模となるビール工場を完成させる予定だ。かなり大胆な計画だが、その戦略は?

ダイヤモンドブルーイングの“ビールラボ”醸造設備。

クラフトビールに特化した酵母ライブラリーを!

ダイヤモンドブルーイングは3月、東京の「銀座熊本館」で記者会見を開き、2024年3月をめどに、国内のクラフトビール業界で屈指の規模になるビール工場の操業を発表した。年間約500万本(350ml缶)の生産能力を有し、その規模は、エチゴビール(新潟)や常陸野ネストビール(茨城)、ベアレン(岩手)などに並ぶ。かなり大がかりだ。しかもダイヤモンドブルーイングはまだ全国規模の知名度を有しているわけではない。いったいどんな計画を?

「ビールは農業だ」というのがダイヤモンドブルーイングの理念。熊本の阿蘇山の伏流水、農産物、さらにその廃棄される部分(たとえば、ごぼうの先っぽ)を副原料に活かすなどして、これまで80種以上のビールをつくってきた。飲食店KAENに併設した小規模のブルワリーはビールラボと位置づけ、さまざまなビール研究を手がける。

そんなダイヤモンドブルーイングが力を入れているのがBEERTEC(ビアテック)。その目玉に挙げられるのが「酵母ライブラリー」の創設だ。ご存知のようにビールの原料は大麦麦芽(モルト)、ホップ、水だが、これらを発酵させ、おいしいアルコールにしてくれるのは酵母の働きだ。どこのどんな酵母を、どの状態で使うかによってビールの味は決まり、品質は変わる。

「日本のクラフトビール人気が高まり、たくさんのおいしいビールが飲めるようになりました。しかし既成の酵母を使っている限りビールのオリジナリティには限界があります。もはやただおいしいだけでは不十分で、その製造に至るまでの背景にオリジナルで、強いストーリーのあるビールこそが求められていると思います」鍛島代表は話す。

そこで、オリジナルの酵母開発へのチャレンジだ。熊本県内から採取した酵母を集め、ビールに適するかどうかを試験し、適合した酵母を培養し、ビールを試作し、オリジナルビールの醸造につなげたい考えだ。

ダイヤモンドブルーイングの代表・鍛島(かしま)勇作さん(右)と、同社の酵母研究者の髙橋酵太郎さん。髙橋さんは大学院で乳酸菌の研究をし、新卒でダイヤモンドブルーイングに来た。

さらに熊本県にこだわることなく、全国のクラフトビールブルワリーの協力を得て、各ブルワリーのビール酵母を集積し、モニタリングし、さまざまなビールを試作する。そんな酵母ライブラリーの創設をめざしている。

「全国のブルワリーは、いわば酵母の実験室のようなもの。各ブルワリーのブルワーさんたちが行っている酵母の選定、管理、研究を、酵母ライブラリーという形で集結させれば、日本のビール開発にとっても大きな資産になります」(酵母研究担当の髙橋酵太郎さん)。

しかし、他社ブルワリーが、そんな企業秘密のような酵母を提供してくれるのだろうか? 

「ビール酵母に特化したスクリーニング技術の開発、モニタリング、培養などを含め、酵母の採取からビール醸造まで少なくとも1年はかかります。また設備投資を含めたコストを考えると、ライブラリーに提供していただくメリットはあるのでは」と見ている。

焼鳥屋の秘伝のタレではないが、ビールにとってはまさに母なる酵母、企業秘密そのものを共有し、活用しようという試み。大手ではあり得ない、クラフトビール業界ならではの発想かもしれない。

実際、ダイヤモンドブルーイングが公表したBEERTECの中期計画を見ると、なかなか時間のかかることがわかる。

今年度に酵母採取ツアーを実施、2023度中にオリジナルビール酵母の分離と試験醸造を開始。オリジナル酵母を使ったビールの完成を果たしてから、全国のクラフトビール会社に協力参加を呼びかけ、酵母ライブラリー設立に向けて始動。最終的に、熊本産酵母を使ったクラフトビールを安定して販売できるのは3〜4年後の2025年度としている。

もちろん、酵母メーカーは日本にすでに複数ある。ブルワリーの多くは、メーカーから酵母を仕入れている。しかし、多種多様なクラフトビールに合った酵母が、メーカーにそろっているわけではない。日本のクラフトビールの特性に、柚子、甘夏などの柑橘類やベリー類などの副原料の使用が多いことが挙げられる。多品種に及ぶ副原料、それぞれに相性のいいビール酵母を提供できるメーカーは今のところない。ダイヤモンドブルーイングは、自らクラフトビールに特化した酵母メーカーになることも視野に入れている。

産学連携チームでビールサイエンスを追求する

ダイヤモンドブルーイングはBEERTEC事業のために、産学連携型プロジェクトチームを立ち上げている。その中に、大阪大学の分析科学の研究室からスピンアウトしたベンチャー、カワノラボ(大阪府)が参加している。酵母の発酵力、安全性、ビール適性などの分析をサポートするという。

「酵母はデリケートな生物で、環境によって変化します。研究過程でビールでなく、日本酒やワインに合う酵母が見つかることもあるでしょう」(カワノラボ代表・河野誠博士)

酵母はビールやワインなどアルコール飲料だけに活用されるものではない。パンや漬け物、その他に何に生きるかわからない。酵母ライブラリーから大発見が生まれる可能性だってある。

銀座熊本館の記者会見場で。BEERTECのプロジェクトチーム(一部)。左からダイヤモンドブルーイングの髙橋酵太郎さん、鍛島勇作代表。ビールの味の数値化を行うアイニューム(東京)の藤田美菜代表、酵母研究をサポートするカワノラボの河野誠代表。

さらに、最近注目されている「D-アミノ酸」を利用したサワービールの開発にも着手している。D-アミノ酸は、皮膚の老化抑制や脳の神経伝達をスムーズするなどのはたらきが知られている。これを増やすはたらきをする乳酸菌を使ったビールだという。一般的に、ビールに乳酸菌は禁物。腐敗の原因になるからだ。そんな相性の悪い乳酸菌を利用して、近年人気上昇中のサワービールを醸造しようという試み。サワービールもダイヤモンドブルーイングのオリジナルなビールになりそうだ。

このほか、石川県立大学の生物資源環境学部・生物資源工学研究所の馬場保徳講師の協力を得て、麦芽カスの再活用もBEERTEC計画に入っている。麦芽カスからセルロースナノファイバーを製造する廃棄物利用も、その候補のひとつだ。セルロースナノファイバーとは、植物バイオマスから取り出す天然の繊維。実現すれば、ビール醸造のゼロエミッション化に大きく貢献するだろう。

「熊本からビール文化を創り、世界へ発信する」を企業理念とするダイヤモンドブルーイング。熊本のビール文化とは何か? めざましく進歩する技術をビールづくりのサイクルに取り入れ、持続可能なビールづくりを追求する。熊本オリジナルなビール、オリジナルなストーリー。大手メーカーとは異なるアプローチに注目したい。

ダイヤモンドブルーイングの新作は「YAMAYODARE #1」。熊本県水俣の甘夏を使用、柑橘の香る爽やかな一本。阿蘇の山々からの水、よだれが出るほどおいしそうなYAMAYODAREブランドは、海外展開も予定している。

取材・文/佐藤恵菜

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