
日替わり定食には「毎日食べられる食事を」という作り手の心遣いがある。一方、いつも出している定食でも、ふらりと訪れる側としては「今日すれ違う、今日だけの定食」だったりする。
そんな定食との一期一会。
これは、食・街・人・との出会いを求め、空腹で街をさまよう男の記録です。
第八回:花山うどん(銀座)の鬼釜(上州麦豚使用)
銀座というのはずっと敷居が高い街という認識だった。しかし、以前たまたま勤務することになった会社が銀座にあり毎日通勤するようになってから「この街は踏み込んでみれば親しみを持つことができる」という当たり前の事実に気が付いたのだった。
当時は「せっかく銀座に通うのだから」という気持ちで、私にしてはかなり背伸びをしてランチの予算を2千円までと決めて、色々なものを食べ歩いた。
ちょっと良いランチを食べると決めたものの生来の貧乏性もあって「食べるだけではもったいない」という気持ちからランチの絵を描くようになり、それがこの連載のきっかけにもなった。今は料理の絵の依頼がときどき舞い込むことがあるが、銀座はそのきっかけであり、私にとってありがたい街である。
銀座に親しみを持つようになったとはいえ、やはり日没後に、高級なお酒を飲むような酒場は私にとっては敷居が高い。しかし、ランチに関していえば2千円の予算を使い切ることは稀で、手頃な値段の店が、探せばいくらでも見つかった。
今回お邪魔した「五代目花山うどん」もそんな店の一つだ。
この辺りで働く知人に教えられたこの店のメニューを見たとき「なぜ今までこれを知らなかったのだ」と、自分を恥じた。そのくらい「鬼ひも川」と言われるこの店の名物うどんはインパクトがある。実際、地方に出かけてこのうどんの話をしたとき、多くの人がその太さの話になると「ああ、あの店ね」とご存知なのである。
群馬県に本店をかまえるこの店は東京都内に二店舗ある。私はまだ銀座店しか伺ったことがないが、コロナ禍にあってもいつも賑わっていて店の前に列ができている。
並んでみると幅広い世代の女性の支持を得ていることは一目瞭然だが、私のように男性も負けじとならんでいる。
それにしてもこの5センチほどあるこのうどんのつるつるとした喉越しの心地よさは、他のもので代替が効かず、クセになること必死である。
加えて天ぷらやミニ天丼のセットも魅力的。しかも値段は手頃なので行くたびにメニューに迷う。今回私が紹介した「鬼釜」はたぬきの形の器のインパクトもあり、いわゆる「映え」も間違いないので、一度は食べたい逸品である。
とてもこだわりの感じられる器や盛り付けから得られる高級感で銀座を味わうことができるのに、この金額。もし道に迷ったらまず歌舞伎座を見つければすぐにたどり着けます。
さらにもうひとつ、「鬼ひも川」の乾麺はお土産としてお店で購入可能なので私はぜひおすすめしたい(ネットでも購入可能です)。幅広く喉越し最高のうどんは「花山うどん」でしか味わえないので、お土産も通販も活用してどんどん深みにハマってみましょう。
(完)
ここでご近所の寄り道スポットをすこしだけご紹介。
五代目花山うどん 銀座
東京都中央区銀座3-14-13(歌舞伎座裏)
●通常営業時間
平日ランチ11:00〜16:00(LO15:30)
平日ディナー17:30〜21:00(LO20:30)
土日祝ランチ11:00〜16:00(LO15:30)
土日祝ディナーはお休み
※時短営業などの予定は公式ブログ、銀座店Instagramでご確認ください。
※新型コロナの影響などで営業時間が変更になる場合があります。
イラストレーション・文/本田しずまる
編集/inox.