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多く売ることより後世に文化をつなぐために作られた「京都 六波羅蜜寺 空也上人写真集」製作秘話

2022.04.02

写真:小平尚典『京都 六波羅蜜寺 空也上人写真集』より

 六対の小さな仏が口から飛び出している様子が強烈なインパクトを与える「空也上人立像」は、鎌倉時代に作られた重要文化財。京都東山の六波羅密寺に安置されているこの像が、半世紀振りに東京で公開され、話題になっている。東京国立博物館で開催中の特別展「空也上人と六波羅蜜寺」(5月8日まで)で、地蔵菩薩坐像など、六波羅蜜寺に伝わる数々の名宝とともに展示されているのだ。

 そんな中、注目したいのが、本展覧会特設ミュージアムショップで図録やグッズなどと並んで販売されている『京都 六波羅蜜寺 空也上人写真集』。撮影はスティーブ・ジョブスを最も近くで撮影した日本人カメラマン、小平尚典氏。発行・印刷は、1948年創業の東洋美術印刷。両者がタックを組んだ同写真集は、デジタル画像で美術品や写真集が鑑賞できる時代だからこそ、あえて紙の存在価値にこだわって作られた一冊だ。

写真:小平尚典『京都 六波羅蜜寺 空也上人写真集』より

今と重なる時代を生きた空也上人の生き様とは

 今年2022年は、空也上人の没後1050年に当たる。空也については史料が乏しく、生没年も諸説ある中、903年生まれ972年没とするのが有力。第60代醍醐天皇の皇子とも言われている。

 若くして日本各地を巡って修行を重ね、尾張国分寺で出家。自ら空也と名乗って再び諸国を遍歴。仏道修練の苦行を積む中で様々な状況にある大衆と出会い、苦しむ人々と手を取り合いながら信仰を究めていく練行の道を歩んだ。太鼓や鉦で拍子をとり、人々が輪になって踊りながら声高らかに念仏を唱える“踊り念仏”は空也が始まりだとされている。

 そんな空也が生きた平安中期は、各地を天変地異が襲い、飢餓が人々を脅かし、疫病が流行。政治も混乱し、先行きに不安を感じる人々が国中にあふれていた。そんな市中を空也は歩き、ただ南無阿弥陀仏を称え、今日ある事を喜び、念仏を唱えた。倒れている人には手を貸し、野に捨てられている遺骸を見つけては念仏とともに手厚く葬った。どこまでも市井の人として生きた空也上人を、人々は親しみを込めて「市の聖」と呼び慣わした。

 空也上人により天歴五年(951年)に開創された六波羅蜜寺に現存最古となる空也像として守り伝えられている空也上人立像は、著名な仏師である運慶の四男、康勝が若い頃に作った。膝も露にした僧衣をまとい、素足に粗末な草鞋。胸に打ち鉦(かね)を下げ、左手に鹿の角が付いた杖。半ば開けた空也上人の口からは六対の小さな仏が連なって飛び出している。これは、「空也上人が南無阿弥陀仏と唱えると一音一音が阿弥陀仏になって現れた」という伝承をそのまま表した写実彫刻だ。

写真:小平尚典『京都 六波羅蜜寺 空也上人写真集』より

写真:小平尚典『京都 六波羅蜜寺 空也上人写真集』より
小平氏が、嵐山や鴨川、六波羅蜜寺の近辺を歩いて撮影した京都の景色も掲載している。

スティーブ・ジョブスによってつながれた“縁”

 小平氏がこの空也上人立像を撮影するという極めて貴重な機会を得たのは、2021年の9月、京都でスティーブ・ジョブズの写真展「THE THINKERS STEVE JOBS」を開催しているとき。同寺65世山主、川崎純性住職が自ら、「ジョブスのような偉人を撮影してきた写真家なら」と快諾したという。

 小平氏に許可された撮影時間はわずか1時間。その限られた時間の中で、“空也上人の生き様と精神”を、空也が生きた時代と似通った状況にある現在を生きる多くの人たちに伝いたい、という思いで撮影に臨んだという。

 像のディテールに迫るため、カメラは約1億200万画素のFUJIFILM GFX100Sを使用。ライティングには、市中を行脚する姿をイメージして演色性の高い紫色LEDライトを使用。それも。色温度5000Kと3000Kを使い分けた2つのスポットライトで、昼間の影と夕暮れの影を作り出し、昼夜を分かたず人々に寄り添った空也の姿を視覚的に表現した。

 一方の東洋美術印刷は、小平氏の撮影意図を理解した上で写真集の制作に取り組んだ。印刷にはスクリーン線数という単位があり、175線が通常と言われているが、高精細かつ重厚感のある表現を求め、350線という極めて高い線数でスクリーニングを行った。表紙は厚手の芯材に和紙の趣のあるバフン紙を合わせ、文字に箔を施し、空也像の頭部と口から飛び出した六体の小仏を空押しした。活版印刷が主流だった昭和初期に創業し、“美術印刷”の名に拘って印刷品質の向上を追求してきた同社の威信をかけた印刷ともいえる。

優れた文化財の価値を伝えるという社会的な意義がある

 表紙の題字の「空也上人」の文字は、六波羅蜜寺65世山主の川崎純性氏の揮毫による。序文と章解説は、小平氏と親交の深い作家の片山恭一氏が執筆。解説文は全て日本語と英語を併記。海外展開もできる形になっている。

 さらに読み手にとって嬉しいのが、ページをめくったときにノド(見開きの中央)の部分がフラットに開くコデックス装といわれる製本になっていること。見開き写真の迫力を損なうことなく鑑賞できるのだ。

 巻末に「山主の語り」として川崎氏が寄稿。その文末を締めくくる、「各々に空也上人の御心をお感じ頂ければと思います」という一節には、川崎氏のみならず、小平氏や東洋美術印刷のスタッフをはじめとする制作に携わった人たち全員の思いが込められている。

 六波羅蜜寺公認のアートブックという位置付けで、書店流通はしておらず独自のルートでの販売となっている。

 A4判・本文48頁・ブックケース収納という仕様で11,000円(送料・税込)。美術書や写真集としても高価な部類だが、小平氏も東洋美術印刷も、「多く売ることは考えていない。大切にしてくれる人の手に届き、後世に残る書籍になることを目指している」という。手にして、扉を開いてみる価値のある、貴重な一冊といえよう。

写真:小平尚典『京都 六波羅蜜寺 空也上人写真集』より

『京都 六波羅蜜寺 空也上人写真集』2022年3 月1日発売

撮影:小平尚典
定価:11,000 円(送料・税込) A4 判/本48頁/コデックス装/ブックケース収納
発行:東洋美術印刷株式会社
https://www.toyobijutsu-prt.co.jp/wp-content/uploads/2022/03/kuya_FLYER.pdf

写真:小平尚典『京都 六波羅蜜寺 空也上人写真集』より

取材・文/堀けいこ

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