
【短期集中連載】世界の超富裕層を知る投資マイスターが解き明かすお金の話
【第8回】投資や資産運用の意外な落とし穴
スイスの伝統的プライベートバンクの運用哲学や世界の超富裕層の投資哲学にも詳しい、独立系アドバイザリー・ファーム「アリスタゴラ・アドバイザーズ」代表・篠田丈氏が、経済ニュースの読み解きから具体的な投資アドバイスまで縦横無尽に語っていく短期新連載です。
今回は、投資家が注意すべき落とし穴について、解説します。
人間の心理的なクセが投資の大損を招く
投資においては、常に投資家個人の判断が必要です。しかし、冷静に頭脳だけで判断することは困難。そこには必ず、人間が持つ心理的なクセが影響します。
「認知バイアス」という言葉をご存じでしょうか。これは、先入観や思い込みのことです。人の知力には限界があり、情報の収集、分析、判断、行動においてどうしても偏りや誤りが生まれます。認知心理学などで取り上げられる認知バイアスは、100種類以上あるともいわれます。代表的なものをいくつか挙げてみましょう。
【アンカリング】
アンカーとは船の「錨」のことです。目にとまった情報や自分の先入観などがアンカーとなり、その後の判断がひきずられてしまうことを指します。
アンカーとしては、繰り返し目にする報道や有名人、著名人のコメント、過去の成功体験の記憶など様々なものがあります。
【確証バイアス】
投資や資産運用において特定の判断をした後、自分に都合のよい情報だけを集め、それによって自分の判断を正当化しようとすることです。例えば、「この株は上がるに違いない」「相場はこう動くだろう」などと考えてポジションを取ったら、無意識のうちにそれを補強する情報を集め、反対の情報については過小評価してしまうことは、投資家なら誰しも経験があるでしょう。インターネットの普及もあり、膨大な情報に接することが可能になればなるほど、確証バイアスのリスクは高まります。
【恒常性バイアス】
予想していなかったような相場の異変が生じたとき、「自分は大丈夫」「今回は大丈夫」などと過小評価し、無視しようとすることです。特に、過去の成功体験が大きく、自信を持っているような人ほど、失敗したくないという心理が働き、対応が遅れがちになります。含み損が膨らんでいるのになかなか損切りできず、むしろナンピン(値下がりした銘柄をさらに増すこと)してしまうことにつながったりします。
他にもいろいろな認知バイアスのパターンが知られていますが、 恐ろしいのはそうした認知バイアスの結果、実際にはうまくいくこともある点です。後になってみないとプラスの影響だったのかマイナスの影響だったのかは分かりません。
「ヒューリスティクス」も恐ろしい
認知バイアスと似た考え方に、「ヒューリスティクス」があります。これは「発見的手法」などと訳され、ある程度、正解に近い答えを見つけ出すための経験則や発見方法のことです。
私たちは困難な問題に直面したり、一定の時間内に判断をくださなければならないようなとき、過去の経験やどこかで聞いた話などを参考にして意思決定を行っています。
このやり方は、判断までにかかる時間は短いですが、必ずしも正しいわけではなく、当然、一定の偏り(バイアス)を含んでいることが考えられます。投資や資産運用においても、「認知バイアス」と「ヒューリスティクス」から逃れることは難しいと思います。問題はどう付き合うかということです。理論に基づいていくら精密な手法を行使しても、市場の動きを完璧に予測することはできません。
「認知バイアス」と「ヒューリスティクス」をマネジメントするには、複雑な問題を短時間で判断しようとしたりせず、判断が必要な課題に対してはできるだけシンプルに、時間をかけて対応するようにすればいいのです。これが実は、詐欺話を避けるためにも有効なはずです。また、ヨーロッパの富裕層が資産運用の基本としている、「長期・分散・ほったらかし」という戦略にも合致するのです。
取材・構成/フォーウェイ(https://forway.co.jp/)仲山洋平、古井一匡
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文/篠田 丈(シノダ・タケシ)
アリスタゴラ・アドバイザーズ代表取締役会長。日興証券ニューヨーク現地法人の財務担当役員、ドレスナー・クラインオート・ベンソン証券及びINGベアリング証券でエクイティ・ファイナンスの日本及びアジア・オセアニア地区最高責任者などを歴任。その後、BNPパリバ証券で株式・派生商品本部長として日本のエクイティ関連ビジネスの責任者を務めるなど、資本市場での経験は30年以上。現在、アリスタゴラ・グループCEOとして、日本、シンガポール、イスラエルの拠点から、伝統的プライベートバンクと共に富裕層向け運用サービスを展開、また様々なファンドを設定・運用、さらにコーポレートファイナンス業務等を展開している。https://aristagora.com/
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