今、オフィスのDXはどこまで進んでいるのか? フレキシブルオフィスを全国に展開するWeWork JapanとJR東日本情報システムが共同で、AI機能を持つ移動型ロボット「temi」の実証実験を行っている。どんなロボが何をしているのか? WeWorkに見に行ってきた。
WeWork発のオープンイノベーション型プロジェクト
AIアシスタント機能を持った移動型パーソナルロボット「temi」(テミ)の実証実験が行われているのは、東京新宿駅近くのWeWorkリンクスクエア新宿拠点。
temiはRobotemi社(米)が開発したAIアシスタント機能付きのロボットで、自律的に移動することができる。もちろん遠隔操作が可能だ。
検証を行っているのは、JR東日本情報システム(以下JEIS)だ。JEISのテクノロジー応用研究センターでは、IoT、AI等を活用した応用研究をJR東日本グループに幅広く適用することを目指して取り組んでおり、約1年前からtemiを使った オフィス DXの可能性を研究している。担当の山田康弘さん(JEIS)は、「将来的には駅や駅ビルをはじめとした施設での利用など、新しいビジネスにつなげたい」としてオフィス内の検証を進めてきた。
WeWorkを実証実験の場に選んだのは、JEIS自身がWeWorkリンクスクエア新宿拠点にサテライトオフィスを置くメンバーであることに由来する。「さまざまな事業、職種の人が行き来するオフィスは多様性に満ちており、実験のフィールドとして最適」(山田さん)と判断した。
さらに、同じくWeWorkのメンバーであるソフト開発スタートアップ2社が、temiのソフト開発を担当している。加えてWeWork Japanの各拠点の運営を行うコミュニティチームも企画段階から参画。WeWork リンクスクエア新宿拠点を実証実験のフィールドとして提供した。つまり、これはWeWorkリンクスクエア新宿拠点発のプロジェクトといえる。
実証実験を率いるJR東日本情報システム・テクノロジー応用研究センター次長の山田康弘さん。
コミュニティチームの一員としてのロボット
実証実験の内容は主に次の3つ。
(1)WeWorkコミュニティチームのサポートをする案内ロボット機能。
(2)快適なワークスペースを提供するための環境可視化機能。
(3)電話ブースエリアの利用状況の可視化。
●案内ロボット機能
オフィスのフロアマップ、設備案内、メンバーのコミュニティイベント情報など。メンバーたちの過去の事業事例も画面上で見られる。メンバー自身はもちろん、フロアや設備内容に不慣れなゲストに特に有効だ。
WeWorkはメンバーたちが快適に仕事するためのサポートを行う専任のコミュニティチームを置いていることが大きな特徴だが、「スタッフが口頭でご案内していたことをtemiが代わって案内できるかどうか」を実験中だ。スタッフの仕事の効率化の側面が強いが、コロナ禍以降、対面で話さなくてもいい機能が求められるという背景もある。
「temiを連れて行く」という指示もできる。その場合は下の画像のようになる。
temiと歩く山田さん。temiは人型ではないが、人の動きに反応して動く姿は愛らしい)
上部にアタッチメントをつければ飲み物やお菓子が運べる仕様。もっとも、デリバリー機能を実験しているわけではない。
●オフィス内のCO2や温度湿度を測定
WeWorkには数多くのブースが配置されている。自律的に移動できるtemiが、オフィス内をパトロールし、各地点のCO2、温度湿度の測定を行う。通常これらの測定はビルの管理会社の業務テリトリーに入るだろうが、その場合、各フロアの数値はわかっても各ブースの測定は行われない。特にCO2濃度の可視化は、換気が必要なこの時代、とても役に立つ。
●電話ブースの利用状況可視化
WeWorkには複数の電話ブースが設置されているが、満室のこともある。そこでtemiがブース前を巡回して、ブースの利用状況を読み取って来る。このデータが可視化され、メンバーがリアルタイムでわかるようになれば、オフィスはより使いやすくなるだろう。
オフィス実験の場としてフレキシブルオフィスの可能性
WeWork Japanにとって、今回の実証実験はどんなメリットがあるのか。といえば、まさに入居しているメンバー企業がマッチングしたプロジェクトの好事例となる。
「我々にとって、入居メンバーの事業成長を支援することは重要なミッションだ。オープンイノベーションを期待して入居するメンバーが多く、コミュニティ内でのメンバー企業のマッチングはもっとも重要視していることのひとつ」(WeWork Japan広報)と話す。
しかも上述した実証実験の内容にはWeWork Japan自身が関わっている。フレキシブルオフィス企業だからわかるオフィスDXのニーズの提案、課題の洗い出しなどに、その意見は大いに奏功したことだろう。
日本のオフィスのDXは「まだまだの段階」とJEISの山田さんは言う。仕事の効率化はもちろんだが、働く人が働きやすい環境づくりにDXは欠かせない。オフィスのDXの可能性を探り、いち早く導入していくことも、常にアップーデートが求められるオフィス事業には必要なことだろう。多様な職種、業種が集まるフレキシブルオフィスでのアシスタントロボ実験。ここで得られたデータが、日本の駅ナカにどのように活用されるのか、楽しみだ。
実証実験はWeWorkリンクスクエア新宿拠点で3月末まで行われる。
取材・文/佐藤恵菜