「よなよなエール」で知られるヤッホーブルーイングが、10年ぶりにレギュラー製品を発売した。その名は「裏通りのドンダバダ」。クラフトビール界を引っ張るヤッホーブルーイングがこの時期に新製品を投入したワケは?
ヤッホーブルーイングの新製品「裏通りのドンダバダ」。22日から缶を発売。
ターゲットペルソナは20代中〜後半の男性
女性にも人気の高いベルジャンホワイト「水曜日のネコ」が発売されたのが2012年。全国展開のレギュラー製品としてはそれ以来、10年ぶりの新発売となる。毎度、独特のネーミングで楽しませてくれるヤッホーブルーイングだが、「裏通りのドンダバダ」とは何ものか。
ビールのコンセプトは「自分の好きに夢中で生きる」。ヤッホーブルーイング社長・井手直行氏は、“裏通り”は「好きに動かされた夢中でこだわりのある大人が集まる場所」であり、“ドンダバダ”は「ジャズのスキット“ダバダダバダ”のような意味はないが響きが良い言葉から着想」されたと説明する。ちなみに、パッケージの赤を背景にした珍妙な覆面男は、メキシコのプロレス「ルチャリブレ」がモチーフになっている。プロレス好きならおわかりかもしれないが、「自身の決め技で勝つことにこだわる」のがルチャリブレ。たとえば、ムーンサルトプレスでフォールに持ち込むことにこだわるので勝率は決して高くない……そんな傾向があるらしい。
ヤッホーブルーイング代表取締役の井手直行氏は、手づくりのルチャリブレのコスチュームで記者会見場に登場。
「自分の好きに夢中で生きる」価値観をもつターゲットペルソナとして、「嗜好性の高いものを好む20代中〜後半の男性」としている。20代をユーザーに据えるビール、しかもクラフトビールは久しく見ない。井手社長は、「若い人がなぜビールを飲まないのか、どういう嗜好性があるのかを確認して、将来的なビール市場も念頭に20代半ばを意識して市場調査していったところ、“自分の好きに夢中で生きる”というマインドにピッタリ」だったと語る。「家でちょっといいビールを飲みたいという需要が全体的に高まっているなか、20代のクラフトビールへの関心も高まっていると認識しています」と、若年層のクラフトビールファン獲得にも意識的だ。
味わいはフルーティでドライだ。ビールスタイルは「フリースタイルベルジャンゴールデンエール」と、やや長い。ベルジャンゴールデンエールとはホップ香は強くないがコクがあり、その名のとおり金色に淡く輝くビール。これをもとに独自のレシピを加えた「裏通りのドンダバダ」は、ワインのシャルドネを思わせる爽やかな香りとドライな飲み心地が特徴だ。ベルジャン酵母を「水曜日のネコ」の3倍量使い、バナナやリンゴのような華やかでドライな風味を醸し出す。さらに、麦芽量を減らし、ブドウ糖を加えることで麦芽由来のボディを軽くし、ドライな味わいを実現している。
今年こそクラフトビール市場拡大の大チャンス!?
主要75社のクラフトビールの2021年1〜8月の出荷量は、前年比で7.7%増(東京商工リサーチ「地ビールメーカー動向」調査より)。ビール大手4社の2021年1〜6月前年比が6%減であるのと対照的だ。コロナ禍による家飲み需要の大幅増の影響が大きい。
ヤッホーブルーイングがコロナ禍中3度目の春に、10年ぶりとなる全国展開のレギュラー製品を投入したわけは、今年こそ「クラフトビール市場が広がっていく絶好のタイミング」だと見ているからだ。
「クラフトビール人気が高まっていますが、とはいっても、全体から見ればまだまだ認知度は低い。クラフトビール界のリーダーとして、われわれが新製品をひとつ投入することで市場の底上げのきっかけになると思います。上昇中のクラフトビール人気をさらに盛り上げていきたい」と、井手社長は力を入れる。
500社を超えた国内のクラフトビールメーカーだが、全国展開のチェーン店に納品できるだけの安定した出荷量と品質を保てるクラフトビールメーカーは、ほんの一握りにすぎない。税込み200円代で収まる価格設定も重要だ。スーパーやコンビニのクラフトビール棚を広げるには、知名度の高いブランドの新製品がきっかけになる可能性はある。裏通りからムーンサルトプレスを繰り出して、クラフトビール市場を広げるトリガーになれるか、ドンダバダ?
表参道、渋谷、下北沢の街のどこかに現れる架空の「BARドンダバダ」の扉からたどり着ける特設サイトの合い言葉を、ヤッホーブルーイング公式ビアレストラン「YONA YONA BEER WORKS」で伝えると、その場で「裏通りのドンダバダ」1本プレゼント。先着1000名。4月12日(火)まで。
取材・文/佐藤恵菜