思い出の味からたどった東京神田の〝藪そば〟
「砂場」「藪」「更科」という文字を暖簾に掲げたお蕎麦屋さんを目にした覚えはないだろうか。
実はコレ、江戸時代に人気を分けたお蕎麦屋さんの屋号のこと。「砂場」を王道とすれば、「藪」は辛味と甘味が際立ったパンチのあるつゆ、「更科」は更科粉のえぐみを包む濃厚な甘口のつゆを使った看板メニューがあり、東京のお蕎麦の礎を築いたことから〝江戸三大蕎麦〟などと呼ばれている。僕は15年ほど前から、ほぼ365日お蕎麦を食べる生活を続けているのだが、どういうわけか藪そばを食べる機会を逃していた。ところが、つい、先日その時がやってきた。
人生初の藪そばとして、僕が選んだお店は「かんだ やぶそば」。1880年(明治13年)から続く東京屈指の老舗で、いつ通りかかっても行列ができているイメージがある。この日も気の短い江戸っ子ならギョッとするくらい、お客さんが長蛇の列をなしていたけれど、道産子の僕には問題なし。
話は変わるが、数年前、仕事の兼ね合いで北海道・釧路市へ頻繁に足を運んでいた。そのたびに「竹老園 東家総本店」というご当地のお蕎麦屋さんに通い詰めていた。「竹老園 東家総本店」のお蕎麦は、新蕎麦よりもはるかに濃い緑色したもので、つなぎにクロレラを使っていた。気になってこの緑の蕎麦について調べると、何と「かんだ やぶそば」に行き当たる。本家のようなものなのだろうか? そんなことを考えながら入店までの時間を楽しんだ。
注文したのは『せいろうそば』と、名物の『天たね』をのせた『天ぷらそば』。いつものとおり、冷たいお蕎麦と温かいお蕎麦の2品だ。
キリッとした濃いめのつゆでいただくお蕎麦は、味を語るのが野暮に感じられるくらい、うまい! うまい!! の応酬で、しっかりと蕎麦湯まで味わった。大満足の気分に浸りながら趣のある店内を見渡すと、お蕎麦と一緒に日本酒をたしなむお客さんの姿が目に映った。これこそが日本酒が苦手な僕が憧れている〝粋〟な光景だ。すばらしいお蕎麦、そして時間を堪能させていただいた。
これでようやく蕎麦界のビッグスリーを制覇! 目標にしている蕎麦食べ歩き47都道府県制覇まで、あと5県を残すのみ。2022年も存分にお蕎麦を楽しみたい!
『せいろうそば』825円 『天ぷらそば』1925円
かんだ やぶそば
[住]東京都千代田区神田淡路町2-10 [電]03・3251・0287
[休]水曜(祝祭日の場合は変更あり) http://www.yabusoba.net/
文/池森秀一
いけもり しゅういち
DEENのヴォーカリスト。1993年に『このまま君だけを奪い去りたい』でデビュー。乾麺蕎麦商品をプロデュースするほか、2020年9月に蕎麦専門YouTubeチャンネル『信州戸隠 池森そば 赤坂店』を開設。芸能界きっての蕎麦好きとして有名。
※「池森秀一の蕎麦ログ」は、雑誌「DIME」で好評連載中。なお、本記事はDIME4月号に掲載されたものです。
※本記事内に記載されている商品やサービスの価格は2021年1月31日時点のもので変更になる場合があります。ご了承ください。