
連載/ボディビル世界チャンピオン山岸秀匡の「筋!言」
金言とは処世へのいましめや教えとして手本とすべき言葉という意味だが、山岸秀匡氏の場合は「筋」言である。
筋肉ひとつで世界を渡り歩き、日本人で唯一、ボディビルの世界大会アーノルドクラシック212で王者を獲得した。
日本のレジェンドとして惜しまれつつ引退したが、山岸氏の思想は、ボディビルダーだけでなく、ビジネスマンの生き方、仕事術にも役に立つものばかりだ。
合理的思考と筋トレの深い関係性
筋トレはやれば確実に成果が得られるので、負けがない。強いて言えば自信の精神との闘いのみということで、プログラミングに通ずるような合理的な思考とマッチする。
ジェフ・ベゾス、マーク・ザッカーバーグ、イーロン・マスクといった世界を代表する一流経営者も筋トレを習慣的に生活に取り入れている。実際、体を鍛えることに余念がない30-40代男性は総じて「仕事がデキる人」と見られることが多い。
今回は新刊書「筋トレは人生を変える哲学だ」((KADOKAWA発刊、定価1540円)から、山岸氏の筋言を紹介する。
まずは「王者の経験談より自分の感覚を信じろ」である。
“ボディビルディングとは、筋肉を大きくして体脂肪を極限にまで落とすことを指します。
目指すところは同じでも、目標にたどり着くまでの道のりは十人十色。トレーニングにしろダイエットにしろ、原理原則はあるんだけれども方法論を探し始めたらいくらでも出てくるからキリがありません。
人間の身体は、標本のイメージからみんな同じと思われがちですが、人それぞれ全く違うものと考えるべきです。
アウトラインに限った話ではなくて、何が合うのか、どのような反応がどれぐらいの速度で起こるのか、といった体質も本当に人それぞれ”(「筋トレは人生を変える哲学だ」より引用)
2011オリンピア山岸秀匡氏撮影
他人と自分は別者と考える
“どの世界も同じかもしれませんが、ボディビルも「憧れ」が動機づけになることが多いです。
「あのトップビルダーがこれをやっているから」「ものすごい身体の持ち主がこう言っているから」と、憧れの存在と同じことをすれば自分もそうなれると、まるでそれが夢への近道であるかのように感じてしまうのだけれど、その人の身体と自分の身体は別のものであるということを忘れてはなりません。
…中略…アドバイスを基に自分はどうしていくかを考えること。これが大事なのです”(引用、同)
山岸氏がボディビルを始めた約30年前は、ボディビルに関する情報は少なく、ネット環境もない時代。映画、ロッキーのように「生卵を飲む」といった極端な方法ばかり注目されていた頃だった。
山岸氏も「バターを飲む」とか「ササミと生卵をミキサーで拡販して飲む」と聞いて、興味をもったが、「自分の胃が拒絶反応を起こすような極端な方法はとらなかった」と書いている。普通にたくさん食べて、たくさんトレーニングする方法を選択した。
2018年アーノルドクラシック撮影
良いと感じる感覚を研ぎ澄ませておく
自分の感覚を信じ、自分がベストと感じる方法を信じて進む。これが成功への近道であると山岸氏は言う。そして、自分が良いと感じる感覚を研ぎ澄ませておくことが大切だとも訴えている。
王者と自分は違う人間である。他人基軸でなく、自分を基本に考えること。ボディビル世界チャンピオンが苦労の末に掴んだ成功への金(筋)言である。
著者 山岸秀匡(ヤマギシヒデタダ)
1973年6月30日生まれ。北海道帯広市出身。早稲田大学で本格的にボディビルを始め、2002年にプロボディビルダーとなる。2007年からミスター・オリンピアに出場し、2015年には3位入賞。2016年、アーノルド・クラシック212で日本人初優勝を成し遂げた。
書籍紹介
定価: 1,540円(本体1,400円+税)
取材・文/柿川鮎子
編集/inox.