■連載/阿部純子のトレンド探検隊
今年は酒税改正を見据えた中期経営計画のはじまりの年
キリンビールが「ビール事業戦略発表会」を開催し、堀口英樹代表取締役社長、山形光晴常務執行役員マーケティング部長が登壇し、2022年のビールカテゴリーの取組みについて語った。
「ビール市場全体においてはここ17年間、継続して減少している状況で、長い目で見ると今後も縮小していくと予測せざるを得ません。市場の環境の変化に対応して、ビール類がこれからも愛されていくように、ビール類の魅力化、市場の活性化にキリンビールは本気で取り組んでいきたいと考えています。
2026年の酒税改正は大変大きな転換期になると認識しており、ビールカテゴリーにおいては缶商品を中心として、再成長の機会になるのではないかと感じております。今年は酒税改正を見据えた中期経営計画の初年度であり、我々にとって非常に重要な年になります。
ビールカテゴリーについては全体戦略に基づいた、強固なブランド体系の構築、新たな成長エンジン育成の2本柱で注力していきます。強固なブランド体系はフラッグシップブランド『一番搾り』への注力の継続で、本流ビールのおいしさを追求します。新たな成長エンジンの育成についてはクラフトビールの『SPRING VALLEY 豊潤<496>』を中心としたクラフトビール戦略を強化し、ビールの新しいおいしさという価値を高めていきます。
ビールを再び魅力のあるものに変えていき、ビール類市場全体の活性化にもつなげていきたいと考える中で、今のタイミングはビールの未来に向けた大きな転換点を迎えているのではないかと感じています。キリンビールはビールの魅力を本気で伝えていく『第二の創業期』を宣言したいと思います」(堀口社長)
第二創業期に向けてキーとなる「SPRING VALLEY 豊潤<496>」がリニューアル
2022年の販売計画は、「一番搾り」缶が目標前年比+9.8%、「一番搾り 糖質ゼロ」が目標前年比+20.5%、「SPRING VALLEY 豊潤<496>」が目標前年比+52.9%。
販売計画でも倍増と強気の目標を立てているのが、クラフトビールの「「SPRING VALLEY 豊潤<496>」(以下、豊潤496)。豊潤496はキリンビールの新たな成長エンジンとして、第二創業期に向けてキーとなるブランドに位置づけている。
「ビールを魅力化し、ビール市場を活性化させることを目指してスプリングバレーブランドは昨年に缶を発売。ブルワリーとして国内外のビアコンペティションで計69個のメダルを獲得し、世界中の皆様から非常に高い評価をいただきました。
コロナ禍で在宅時間が長くなったことから家庭内飲料が増え、ビールのニーズに変化が起きています。家飲みを充実させたいと、約3人に1人がビールに“おいしさ”“質”を求める傾向が顕著になってきました。こうしたビールへのニーズの変化に対し、『ビールって、こんなにおいしいものなんだ』という感動体験の創出が重要になっており、さらなるおいしさを追求するため、豊潤496は今春リニューアルいたします」(山形氏)
豊潤496のおいしさの秘密と、リニューアル後の新商品について、マスターブリュワーの田山智広氏が解説。田山氏は2016年からキリンビールのビール類、RTDなど中味の総責任者であるマスターブリュワーの任に就いている。
豊潤496のおいしさには3つの特長がある。
〇麦芽はキリンラガービールの1.5倍を使用し、リニューアルでは新たに日本産ホップ「IBUKI」を加えた5種類のホップを贅沢に使っている。
〇ホップからおいしい部分だけを引き出す「ディップホップ製法」を採用。発酵中にホップを投入して7日間じっくりと漬け込む製法で、豊潤な香りと後味のスムーズさを両立する。
〇開発までに構想10年をかけ、製法開発の試験醸造250回を経て、手加減無しで手間と時間をかけて造っている。
リニューアルで大きなポイントとなっているのが、従来の4種類のホップのほか、貴重な日本産ホップ「IBUKI」を加えたこと。従来から使用している4種類は外国産のホップで、キリンビールが長年伝統的に使っているチェコ産のファインアロマホップを始め、ドイツ産、アメリカ産の厳選したホップをブレンドしている。
日本産のホップは上品で穏やかな柑橘系の香り、苦味の質も上品といった特長がある。IBUKIを一部に配合することで、味わいの強さはそのままに上品でおだやかに仕上がった。
さらに工程条件を一部工夫することで酸味を調整。角が取れて今まで以上にバランスの取れた味になっている。
「国際的なコンペティションで数々の賞を受賞し、ビールのプロフェッショナルがジャッジする国際的なコンペで金賞をいただいたほどの良い中味をなぜ変えるのか?と疑問に思われるかもしれません。一番搾りもそうですが、おいしさにはゴールがなく、よりおいしい中味を進化させ、味に磨きをかけていくことが我々の使命だと思っています。
目指した方向は、満足感がありながら、さらにバランスよく飲み飽きない味わい。124人を対象にした香味評価でも全体的にポジティブな評価を得て、香りが良い、後味がすっきりでまた飲みたくなるという評価をいただきました」(田山氏)
リニューアルの中味を担当した、キリンビール 商品開発研究所 東橋鴻介氏は味覚設計のポイントをこう話す。
「開発がスタートしたのは 2021年3月の発売直後。現行の香味がお客様から非常に高く評価いただいており、ブランドとしての立ち上がりも好調な状態で担当を引き継いで、プレッシャーをすごく感じていたというのが当時の正直な心境です。
一方で商品名となっている 496には永遠に完成しないという意味が込められており、現状が完成形だとは思っていなかったので、自分の手でより高みを目指すチャレンジができるという楽しみな気持ちも大きかったです。
今回のリニューアルでは、新たに日本産 ホップ『IBUKI』を採用し、合わせて全体のホップ配合を見直しました。『IBUKI』の特長である上品な柑橘の香りを最大限引き出しながら、もう一杯飲みたくなるようなバランスの良い香りに仕上げました。さらに仕込み条件を見直して酸味を穏やかにする工夫を施すことで、飲み始めはふくよかな味の広がりによる豊潤さがありながら後味は締まり良く、ほのかに柑橘の余韻を感じさせて飲み飽きない味わいを実現させました。 ビール好きの方はもちろん、普段ビールを飲まない方まで、万人におすすめできる自信作です」
【AJの読み】香りが良く、すっきりとして飲みやすいが
家庭でもできるおいしい飲み方をマスターブリュワーの田山さんが紹介してくれた。最初に高いところから注いで3~4㎝ほどの「泡のふた」を作る。次にグラスを斜めに傾けて泡のふたを押し上げるように、グラスの壁面に沿わせながらそっと注ぐ。液が満たされてきたらグラスを直立させて最後は泡をのせるように注ぐ。泡のふたは泡の味わいを楽しみ、炭酸ガスを逃さないようにする役割があるとのことで、簡単にできてよりおいしさを味わえるのでぜひお試しを。
代官山、横浜、京都とスプリングバレーブルワリー(SVB)の店舗はかなり利用しているが、最初の1杯として必ず注文するのが「オリジナル496」。同じ496を冠した缶商品の豊潤496が昨年発売されて、店舗や瓶製品でしか味わえなかったSVBの味が手軽に購入できると嬉しくなったことを思い出す。
豊潤496のリニューアル品を試飲してみた。IBUKIが新たに加えられたことで香りはとても良い。ホップ感もあり、酸味、苦味が抑えられ最初から最後まですっと飲めて、後味も確かにすっきりとしている。クラフトビールを初めて飲む人や、ビールが苦手な人でも飲みやすい、バランスの良い味わいであることは事実。
あくまで筆者個人の主観だが、オリジナル496はコクとキレがあり、甘み、苦味をしっかりと感じつつ程よく酸味もあり、まさに絶妙なバランスのクラフトビールだと思っている。豊潤496とオリジナル496は異なるものであり、個々の好みにも寄るのでどちらがベストとは言えないが、クラフトビールに求めているのはリッチ感という筆者にとっては、リニューアル後の豊潤496はあまりにすっきりとしていて、少々肩透かしを食らったような気分になった。
ただ、ちょっと時間を置いて若干温度が上がってきたときに飲むと、冷たいときにはあまり感じなかった甘みが出てきた。温度帯によってもビールの味は変化するので、好みに合ったベストな温度を見つけるのも面白いかもしれない。
文/阿部純子