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オーナーじゃなくても楽しめる「ポルシェ・エクスペリンエンスセンター東京」の遊び方

2022.03.13

■連載/金子浩久のEクルマ、Aクルマ

 昨年10月に千葉県木更津市にオープンした、ポルシェ・エクスペリエンスセンター東京(以下、PEC東京)をご存知だろうか。名前の通り、さまざまな体験(エクスペリエンス)を目的としたドライビング施設で、サーキットではないというところがミソだ。

 先日、行ってきたので、どんな体験ができるのか、順に説明していこう。ひと山丸ごと使って建設されたこのPEC東京は、43haの広さを持ち、アップダウンのある1周2.1kmの周回コースと5つのドライビングモジュールを有している。 

 モジュールというのは、通過するクルマを滑らせるキックプレート、スプリンクラーが撒く水によって滑りやすくしたドリフトサークル、全開加速とフルブレーキングを試せるダイナミックエリア、磨かれたコンクリート路面で滑りやすくなっているローフリクション・ハンドリングコース、渓谷、倒壊した材木、40度の傾斜などを「カイエン」や「マカン」で試乗できるオフロードコースなどだ。

 公道や日常の運転では遭遇しないシチュエーションを作り出し、そこを走るとポルシェがどう反応し、自らの運転でどう対処するべきかを同乗のインストラクターのアドバイスを受けながら体験することができる。ただし、走ることができるのは、PEC東京に用意された最新のポルシェだけで、ポルシェのオーナーであっても自分のクルマを持ち込んでコースを走ることはできない。

 1周2.1kmの周回コースは、有名なドイツ・ニュルブルクリンクのカルーセルやアメリカ・ラグナセカのコークスクリューなどのコーナーのイメージを模したものが含まれている。しかし、ここはサーキットではないので前車を追い越すことは禁止されているし、コース幅も広くないので仮に禁止されていなかったとしても難しいだろう。では、PEC東京がサーキットでないとしたら、どういう目的で作られたのか?

「ここはスポーツドライビングとポルシェの体験施設です。我々としては、プロダクト体験、ブランド体験、感動体験の3つを体験していただきたいという思いで作りました」(オペレーションマネージャー・関本清人氏)

 Webサイトから予約すれば、誰でも走ることができる。ちなみに料金は、ひとコマ90分間で4万9500円(「718ケイマン」や「カイエン」など)~10万4500円(「911ターボ」や「911GT3」など)と、走らせるクルマによって変わる。

 一見するとこの料金は高いと思えるが、タイヤやブレーキ摩耗の心配もすることなく、新しいポルシェを思う存分、フル加速とフルブレーキングで操作することができて、インストラクターからアドバイスも受けられると考えれば、妥当な金額ではないだろうか。

 しかし、事前のプレゼンテーションで「サーキットではない」「コースが狭い」「追い越し禁止」などと聞かされていたので、走るまでは正直なところ「退屈かもしれない」と訝っていた。

 ところが、いざ走ってみると、その先入観はすべて払拭されることになる。

「スムーズなコーナリングとライン取りを意識して走ってみましょう」

 その日のインストラクターは、全日本F3選手権やスーパーGT選手権に参戦している石澤浩紀さんが担当だった。1周目に、石澤さんが各コーナーでの操舵タイミングや量、加減速タイミングなどの見本を示してくれ、それを憶えて2周目からは自分で走ってみる。

 これが簡単ではない。切り過ぎたら切り戻す量が増える。同じように、踏み過ぎても、戻す量が増える……スムーズな運転と言葉にするのは簡単だけど、改めて実践するのは簡単ではない。

「タイムを削って1周だけ最速ラップを出すといった走り方は、ここではおすすめしません。あくまでも一般公道でのドライビングを前提としていますので」

 筆者が試乗したのは「911カレラ4S」。385馬力の最高出力を4輪で駆動する。神経を集中して運転するのに、ガシッと剛性感の高いボディー、滑らかなステアリングと足回り、そして猛烈なエンジンパワーなど「911」が本来的に有している特徴的な長所がビビッドに反応してくることを体感することができる。一般道を漫然と流していては意識しにくい「カレラ4S」の真髄に触れながら走れた。

 難しかったけど面白かったのが、ドリフトサークル。スプリンクラーで濡らした路面でアンダーステアとオーバーステア両方を試せるのだが、「カレラ4S」は後輪が滑り出すと前輪が前へ引っ張り出そうとして車体を安定させようと働く。

「後輪駆動のカレラだと、リアが滑り続けますから、それをコントロールする練習がしやすいです」

「911」を購入する際に、後輪駆動の「カレラ」と4輪駆動の「カレラ4」のどちらを選ぶべきか迷う人は、PEC東京で乗り較べたら一発で答えが見つかるだろう。そうしたリクエストにも、柔軟に応じてくれるという。

 そこまで専門的でなくても、ポルシェを運転したことがない人が初めて運転してみるために利用してもいいし、ディーラーのショールームでは在庫していないボディカラーや装備を実車で確認したい人にも気軽に利用できる。見るだけで走らなければ予約は不要で、料金も掛からない。実際、埼玉県のあるポルシェ・センターではPEC東京開設の好影響が出ているという。

「今までうちでは、あらかじめ日時を定めて高速道路での試乗イベントを行なっていましたが、その必要がなくなりました。高速道路は公道なので、あくまでも感触を得てもらうぐらいしかできませんが、PEC東京はさまざまなことができますし、ボディーカラーや装備などを実車で確認したいお客様がすでに出掛けられています。自分で日程も選べます。先日も『パナメーラ』のオーナーさんがPEC東京で『カレラ4』に乗られてきて、増車のご契約をいただきました」

 PEC東京は、ポルシェの販売促進を第1の目的とした施設ではないが、このように結果的に販売をサポートすることに成功している。十分に試乗した上で仕様を決め、納得して注文できるのだから顧客にも販売店にもメリットが大きい。そうした成功例を聞くと、もっと早くに開設されていても良かったとしか思えなくなってくる。

 また、それはポルシェだけに限った話ではなくて、すべての自動車メーカーがこうした体験型のドライビング施設を運営していてもおかしくはない。というか、最近のクルマの購買行動では、情報収集はインターネットで徹底して行い、ショールームに来るのは最後の最後といったパターンが多くなってきている。だから、実車に触れて、クルマそのものやブランドの姿勢と方向性などを理解することの重要性は高まっているのだ。

 ちなみに、すでに利用のための会員登録が7000名を超えたという。また、BtoCでの利用だけでなく、BtoBの利用も可能で、アウディが「e-tronGT」のローンチイベントを2回も行っている。シミュレーターラボも備える他、専門業者によるレストランや会議室、オフィシャルグッズショップなども用意され、ドライビングレッスンだけでなく各種の団体でのミーティングや研修などの利用にも対応している。

 同じ施設がすでにヨーロッパ、アメリカ、中国各地で運営され、日本での開設は9番目だ。カナダのトロントに10番目の開設準備が進んでいる。ポルシェ・ジャパンは土地を取得し、施設を建設するのに50億円余りを投じたと伝えられている。地域貢献や社会貢献のための取り組みもすでに始まっている。

「クルマの販売促進のためだけの施設だったとしたら、持続できないでしょう。施設の運営と活動だけで収支が取れる経営が前提となっています」(前出・関本氏)

 自動車メーカーがクルマを製造し、販売するだけで経営が完結する時代が終わりを迎えつつあるのだろうか? 本連載でもたびたび指摘しているCASE技術の進化によってクルマが大変革を迎えているのと歩調を合わせるかのように、メーカーの経営姿勢にも、また大きな変化が起きているようだ。

◼︎関連情報
https://porsche-experiencecenter-tokyo.jp/

文/金子浩久(モータージャーナリスト)

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