メタバースの空間では、アバターを利用してのコミュニケーションが広がる。その世界はリアルと何が違うのか? メタバースについて積極的に発言をするIT批評家・尾原和啓氏が解説する。
IT批評家 尾原和啓さん
IT批評家。マッキンゼーやGoogleなどを経て現在13職目。著書は中国、韓国、台湾でも翻訳される。3月に國光宏尚氏とのメタバースに関する共著を出版予定。
『仮想空間シフト』(MdN新書)。山口周氏と仮想空間≒メタバースのアバターで築く関係を個人から社会まで、幅広く語り尽くした好著。
メタバースとWeb3はSNSとスマホの関係に近い
メタバースについて考えるには、まずメタバースは複合概念だということを理解する必要があります。VRやXR、そしてコロナ禍を機に身近になったリモートワーク、さらには『Fortnite』などのゲーム、最後にSNSが2次元からメタバースへ移っている。この4つの変化を意識することがポイントです。
またメタバースとセットで語られるWeb3に関しても知っておく必要があります。Web3は一言で言うと、メタバースを裏側から支えるインフラ的なもの。これはSNSとスマホの関係に似ています。
スマホの登場で誰もが手軽に情報発信することが可能になったのが、いわゆるWeb2.0の世界です。ただし、みんなが発信する情報はGAFAMなどの企業が独占し、莫大な利益を独占してしまった。やはり、自分の情報は自分で管理できないと変だし、勝手に使われるのはおかしい。よってブロックチェーン技術をNFTに応用し、分散型の仕組みにしていく。これがWeb3.0の流れです。
メタバースもこの流れの中で生まれています。
水道や電気を使う時、その仕組みをユーザーが気にしないように、メタバースを楽しむ際はNFTの仕組みまで知る必要はありません。ただし、そこでビジネスをするなら、その基本的な知識は必要です。
まずはアバターが生み出す新しい価値を体験すべき
『仮想空間シフト』(山口周氏との共著)では、仮想空間つまりメタバースでのアバターで、複合的なアイデンティティーを持つことなどについて触れています。人間のアイデンティティーは、名前、性別、年齢、人種などで何となく作られていましたが、メタバースでは、生まれや条件などの制約がなく、自由に変えられる。そうなると他者としての体験が可能になります。例えば、男性が女性、女性が男性の立場で物事が見られると、それまで気づかなかった視点や気づきが得られるようになるはずです。つまり、メタバースの世界を体験することで、多様性が損なわれず、寛容される社会に近づいていくように思います。
また、名刺に書いてある会社の肩書や学歴、年齢などからも自由になります。それにとらわれず、安心して発言ができるようになる。変化の激しい社会では、心理的安全性が保たれている組織のほうが生産性が高いとされます。これを言っても大丈夫かなと否定的にならず安心して発言ができると、変化に早く気づくことができるからです。こうしたこともアバターによるコミュニケーションのメリットといえるでしょう。
信頼関係の築き方もメタバースでは変わってきます。取引されるアイテムや情報にNFTが利用されていれば、システムが信用を担保してくれる。これによって安心して取引が可能になるのです。この時、メタバース上で何を「保有」したくなるのかを考えると消費の変化も予想できると思います。「保有」したくなるのは「意味」のあるもの、つまりそこからコミュニケーションや、つながりが生まれるものです。そうでないものは「利用」されるだけ。消費が「意味」のマーケットへシフトしていくことを理解しておくことが重要だと思います。
この辺の感覚を理解するには理屈抜きにして、まずはメタバースを体験することです。『Quest 2』は4万円あれば買えますし。これと「VRChat」の組み合わせは、気軽に始められるメタバース体験としておすすめです。もし、お子さんがいるなら『Fortnite』などのゲームを会話付きで世界中の人とともにプレーしてみるのも良いかもしれません。メタバース上での新しい出会いや、ひとりでも友達ができると、メタバースへの印象が変わると思います。
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