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なぜか大事に使いたくなる!サステイナブルな文化が根付くベルリンの街で拾ったもの

2022.03.06

【異国の道端で】ベルリンの道にはいろんな物が落ちている

私が日本からベルリンに引っ越したのは、2019年の春の終わり頃。

勤め先から月々決まったお給料をもらう生活からフリーランスに切り替えて、なんとか生計を立てようともがいていた時期でもありました。

新しい環境で貯金を切り崩しながら、いかに日々の生活費を抑えるかに躍起になって、一日3食含めて5ユーロ以下で生活していたのですが、それができてしまうのがベルリンの素敵なところ(家賃は決して安くないけれど)。

その頃は電車もできるだけ乗りたくなかったので、そのあと自転車を手に入れるまでは、フリーマーケットからアジアンスーパーへ、本屋さんからケバブ屋さんへ、薬局からホームセンターへ、何時間も街を歩き倒しては疲れ切って眠る毎日。

コロナ禍が続く今となっては懐かしく感じます。

そんな中ふと気がついたことがありました。

ベルリンの道にはなんだかやたらと物が落ちている。アパートの入り口や軒下、植え込みの前なんかのふとしたスペースに、ぽっかりと場違いな物が唐突に置いてあるのをよく見るのです。

それは衣服だったり食器だったり家具だったりするのですが、ダンボールや紙袋に入れられていることもあれば、石畳に直に放り出されていることもあります。

時には貼り紙がしてあって、だいたい「自由に持っていってね」とか「まだ使えます」といったことが書いてあります。 

これはヨーロッパにはよく見られる光景らしく、使わなくなった物を道に置いて、欲しい人に持っていってもらおうというリユースの文化なんですね。

行きすぎると景観を悪くするし、雨が降ってそこに屋根がなければ、路上の不要品は正真正銘のゴミになってしまうので、嫌がっている人も少なくないそうですが、お金を使いたくないのに生活必需品を揃えなければならなかった当時の私は、本当にいろんな物を見つけられる道を前に「なんて優しくて素敵な街なんだ!」と嬉しくなりました。

奔放な自由さがあるように見えながら、オルタナティブ資本主義的と言えそうな、独特の価値基準が体臭のように匂い立つ、ここは本当におもしろい街。

グラフティだらけの壁、使い勝手の悪いあらゆる自動販売機、自転車で走ると脳震盪を起こしそうな石組の道、その道をゆく人々の装いからもその匂いは立ち上ります。

歴史と地理に弱い私がいい加減なことは言えないけれど、ブランデンブルク門を境に155キロにもおよぶ壁で、資本主義と社会主義体制に分割統治された街の過去が関係しているのかもしれません。

接地点が最小になるようにひっくり返されてユーティリティボックスの上に置いてあった固そうなパン。この街の空気は私にこのパンに込められた優しいメッセージを想像させました。

異国の道端で日用品を拾う

さて、街に慣れ始めた私は色めき立って欲しい物を路上に探しました。

 2週間も経つとなんとなくどんな場所にどういうものが置いてあるのかが掴めてきて、必要な物を狙って見つけられるようにさえなって、

「こっちのザルは色がいいけど小さいな、葉っぱ野菜の水切りに使うのを考えたらちょっと年季が入っててもあっちの方が使いやすいかも」

「この物干し台は竿が一本折れてるけど、さっきのよりがっしりしてて折り畳めるし、修理すればたくさん洗濯物が干せるだろう」

路上で物を比べてどっちを持ち帰るか悩んでみるほど、この風習に大変お世話になったのです。

スーパーでも雑貨屋でも、なぜか見つけられなかった水切りザル。かっこいい柿渋色の大きなティーポット。部屋干しが一般的なドイツの必需品、洗濯物干し台。シンプルで重宝している黒いポロシャツ。プラスチックのスツール2脚 。

こんな品々を拾ってきては洗ったり拭いたり、必要があれば修繕して、前の持ち主のことをあれこれと想像しながら使いました。

新しいのはかっこいいことなのか

生活するためには確かに多くの物が必要なので、それらを買い揃えるためのお金を稼ぐことが難しかった私は、道で色々と拾い集めてやっと身のまわりを繕うことができました。

それを私の手の届く場所に置いておいてくれたベルリンの人たちには心底感謝です。

会ったことも話したこともない人に、愛用した物をタダで受け取ってもらうために公道を使っているんだから、愉快な街だよ。

拾う時には「こんな道端にしゃがみ込んで物を拾おうなんて浅ましく見られるんじゃなかろうか」なんてびくつく必要はまったくありません。

見つけたら真っ直ぐに突進して「これはもう私のもの!」と抱え込んでください。悩む時には堂々と腕組みして、目利きさながら思う存分ためつすがめつ。

行きすがら見つけた掘り出し物を帰り道まで置いておいたら、その品物とは二度と再び出会えないでしょう。

これは大物のマットレス。不思議と景色に馴染んでいる。

こうして暮らせる街ベルリン、場合によっては利便性より古さを選ぶような人たちが暮らしているから、こんなにおもしろい道の姿になるんだろう。

『ファイト・クラブ』のタイラー・ダーデンが、”The things you own end up owning you(あなたが所有する物が最後にはあなたを所有する)”なんて言っていましたが、出会ってそして別れるのだと考えて物と付き合ってみれば、少し変わってくるのかも。

「ありがとう、さよなら、ではね」で次の人へ。

物の寿命はその素材によっては人間のそれよりも長いわけだし、少なくともお気に入りは新品でなく古い方が、もっと良いと思います。

文/山根那津子

ジャーナリズム誌やカルチャー誌の編集をしていた何者でもないただのフェミニスト。自身のミソジニーに気がついて一時ベルリンに移住。書くこと、描くことが好き。

編集/inox.

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