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共感?恐怖? 実際に起こったセクハラ事件を再構成した映画「ある職場」の見どころ

2022.03.06

あるセクシャル・ハラスメント事件をもとに、その後日談をフィクションとして再構成し、俳優たちがほぼ即興で演じたという異色の映画『ある職場』。そこに浮かび上がるものとは?

(作品データ)
『ある職場』(配給:タイムフライズ)
●監督・脚本・撮影・録音・編集/舩橋淳 ●出演/平井早紀 ほか ●3/5~ポレポレ東中野にて公開
© 2020  TIMEFLIES Inc.

あるホテルに勤める社員たちのストーリー

湘南・江ノ島にある保養所にやってきた「HOTELアストンヴィラ」の社員たち。家族や恋人の同伴もOKで、ゲイの拓は恋人の修と、独身中年の野田は恋人未満な女性と、友人に誘われたフリーライターの小津はビデオカメラ持参で参加していた。誰もが旅行を楽しむなか、フロント係の大庭早紀(平井早紀)はスマホでSNSをチェックし続ける。早紀は上司の熊中からセクシャル・ハラスメントを受け、そのことがニュースや週刊誌で取り上げられており、SNS上で誹謗中傷を浴びて炎上していた。この旅行は、セクハラ事件で暗くなった職場の空気を払拭しようと企画されたものだったのだ。やがて早紀の実名や隠し撮りされた写真をSNS上にさらした人物が、この参加者のなかにいる可能性が浮かぶ…。

実話をもとに、会話内容を再構成

「これは実在した事件がベースの映画である。
名前や場所は架空であり、演じるのは俳優であるが、
映画の中で起きる出来事と会話の内容は
すべて実際に起きたある事件に基づき再構成されたものである。」

 映画はそんな言葉に始まり、そのあと出演者全員が共同脚本家としてもクレジットされていく。この映画にシナリオはなく、俳優には役柄ごとに設定が与えられ、ほぼ即興でシーンを構築していったらしい。

 モノクロの映像、テレビドラマや映画ではあまり見かけない俳優たちによる、演技をしているようなしてないような佇まい。ごくふつうの劇映画を観ようという心構えでいると、慣れない要素がいくつもあるようで、物語へ入るまでに少しだけハードルがあるかもしれない。

 でも映画を観ていると、そのハードルは思いのほかあっさりと越えられることに気づく。舩橋監督は当初、ドキュメンタリー映画としてリサーチしていたものをフィクションとして再構成したらしいのだが、そうしたこの映画独自の構造が、ちょっと信じられないくらいにうまく機能している。リアルなキャラクターによる生々しい言葉のやりとりと、構築されたフィクションとしての緻密さに何度もうならされることになる。

超リアルなキャラの吸引力

 ホテルの社員たちは江ノ島を散策し、海を楽しみ、保養所の一室に集まる。終始浮かない顔をしているのがフロント係の大庭早紀。テーブルを囲んで座り、はじめましての人もいるなかでなんとなく例のセクハラ事件の話になり、その流れで早紀は自ら「自分が当事者なんです」と明かす。

 そこからの流れは舞台劇のようで、まるでキッチリと構築されたミステリー。早紀の個人情報や盗撮した写真を書きこんでいる人間が、その発信履歴から参加者のなかにいるのではないかと疑い始める。荒らしの張本人は誰か? それぞれが疑心暗鬼になり、さらにイヤ~な空気になっていく。

「そんなドラマみたいな」「私たち仲間でしょ!?」――いやいやいや、でもこういう場面で妙につくりもののようなことを言う人っているよな~。そんなふうに引き込まれるのは、セリフが台本に書かれたものではなく、俳優の肉体から出た言葉だからというだけではない。

 まずは軸となる、早紀のキャラクターがとてもリアルだ。手が届かないほどの美人ではないけれど、キレイと言われるタイプの若い女性で、真面目に一生懸命に仕事に取り組んでいて、だからこそ言いたいことはわりと臆せず言っちゃう気の強さもある。それで無意識に、あくまで自分で意識はしていないし、そう言うと本人は腹を立てるかもしれないが、いつでもわりと話題の中心でありたいと思っている。いるわ~、みたいな。この早紀のやや迷惑なキャラが、物語を終始引っ張っていく。

 映画を観ながら、「なんか早紀、面倒くせ~な」と思い始めたころ、もちろん映画の中の早紀を取り巻く人間もそれに気づいていて指摘する。「悲劇のヒロイン面すんじゃね~よ」みたいな。

 ミステリーのような展開はこの映画のごく一部で、本当の見どころは登場人物たちが容赦なく繰り出す言葉のやりとり。そしてそこから浮かぶそれぞれの関係性と、それを引いた目で見たときに、意外なカタチで日本の社会と日本の会社が抱える、どうしようもない現実が浮かんできてハッとさせられる。

セクハラ事件はただの入口

 早紀を取り巻くキャラもまたかなりヤバい。脚本家が純粋に頭の中だけで構築したらこうはいかないよな…という、人としての辻褄が合わないような、文字通りにヤバいやつと、こんな人よく知ってますよ! と膝を叩きたくなるようなごくフツーの人と。そのバランスがまるで物語のために最初から決められたように配置されていて、絶妙。

 早紀をなにかと気遣う女の先輩でバツイチの木下、フロント部門を統括する女性上司の牛原、いいトシした独身男でなんかチャラくてあちこちの女に手を出していそうな野田。それぞれがそれぞれの立場から発する言葉のやりとりは、今現在会社勤めをしていなくても、奇妙な既視感を覚えるはず。そこで交わされた会話をかつて自分もしたことがあるわけではないのに、それを聞いて抱く違和感、居心地の悪さ、納得がいかない! と思ってしまう感覚をかつて自分も経験したことがあるという確信が、心のどこかにあるように思えてくる。

 この映画は一言でいうなら「あるセクハラ事件の後日談」なのだが、その話だけにはとどまらない。パワハラ、LGBT、ジェンダー不平等、同調圧力…。そう書くと、ああなんか最近よく見かける流行りの社会問題? みたいな気になるが、そのどれもが切実な自分の問題となって観る者に降り注いでくる。

 それでいて「ちょっと告白の練習するわ」という少女漫画みたいなシーンがあったり、「早紀、面倒くせ~な」と思った直後に、でもやっぱりかわいそう! と思わせるシーンが挟まれたり。舩橋監督の思うまま、その計算通りに、こちらの感情は激しく揺さぶられていく。

 嘘のような本当と、本当のように構築された嘘と。これほどうまくバランスが取れた映画はなかなかない。

 それにしても。こんなえげつない言葉を交わした後で日常に戻ったら? その職場、恐ろし過ぎるだろう! 

文/浅見祥子(映画ライター)

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