
たった3ヶ月の“家族”、けれどずっと一緒の“家族” 【後編】
気になったのは先住犬のキャンディやショコラとの相性だった。しかし、その心配もよそに、互いに匂いを嗅ぎ合ってはすぐにうちとけた様子で、庭に出せば足腰が立たないはずのランディが自由を楽しむかのように走り回ってみせた。一瞬にしてランディの表情が変わる。
「16年間の穴を埋めるために、ランディはいつも家族と一緒で、いろんなドッグランにも行きましたし、温泉にも連れて行きました」(門倉さんご夫妻)
「吠えも咬みもしない、こんなに可愛くて、健気で、もっと愛されるべきコが…と思うと不憫でした…」
そうおっしゃる門倉さんご夫妻はランディを迎えたことを機に、同じようなコたちがたくさんいるのだということを知り、何か手伝いたい、自分たちにできることは何だろう?と考えるようになったそうだ。
最初から家族であったように安心しきってご家族に身を任せるランディ。当初はマダニもおり、首輪にもその実態がわからないほど毛が絡みつき放題で、短いリードにつなぎ飼いされていたようだ。いわゆるネグレクトの状態である/©KADOKURA
「ランディを見ていると、“何かしなきゃ”ってどこか突き動かしてくれるような、そんなコでもあるんですよ」(門倉さん、民江さん)
そうして門倉さんご夫妻は情報収集や勉強を重ねながら、啓発や預かりボランティア、動物保護の手伝いなど、活動へと一歩足を踏み出すことになる。中には、実験犬として使われて犬を預かったことも。
しかし、以前に増して幸せと笑い声に満ちた生活がもう少しは続くだろうと思っていた矢先、ランディが突然体調を崩してしまい、ぐったりして動かない。動物病院で診てもらうと脾臓ガンの末期という診断であった。「いずれは…」と覚悟はしていたものの、ランディを迎えてから2ヶ月半、あまりに早過ぎる。
一緒に暮らしたのはたった3ヶ月。しかし、ランディは門倉さんご家族に大きな足跡を遺していった…。
ランディ最期の日となった2014年大晦日、ご家族が帰宅するまで“二人きり”で過ごしたという民江さんはおっしゃる。
「ランディがずっと私に何かを話しているように感じてなりませんでした…。シリンジで流動食を与えようとすると、ランディが一筋の涙を流したんですよ…」
この話に至ると、民江さんの目にうっすら涙が滲む。門倉さんも、「写真を見ていると涙が出そうになるよ…」と。
年が明けても門倉家にお正月はなく、毎日泣き暮らす民江さんや娘さんの姿にいたたまれなくなったのか、息子さんが切り出した。
「自分もこういうのはきつい。だから、保護活動のようなことはもうやめようよ。他の活動にしない?」と。それを聞いた娘さんはこう言ったそうだ。
「ダメだよ、ランディが喜ばないから。ランディみたいなコを増やさないで」
その後、門倉さんのお宅ではブリーダー崩壊により保護されたS・ハスキー、そして野犬として捕獲されたミックス犬を引き取った。
ブリーダー崩壊により、しばらく放置されていたというオレオ。初めて会った時、オレオは門倉さんの脚の下に座り込み、まるで「自分の家はここ」と自ら選んだかのように動かなったそうだ。
産んだ子犬と一緒に収容されたモカ(ミックス犬、メス、年齢不詳)。1年経つが、門倉さんのご家族以外、まだ人は苦手なようである。
「動愛法の罰則にしても、日本はすべての面でまだ緩いと思います。動物を物としか見てない部分もありますし。8週齢規制もですが、繁殖業を免許制にする、その上で各種数値的規制を図ることが必要だと思います。動物は一つの“命”なのだから、大切に扱っていただきたい、その一言です」(門倉さん)
「ほんとうに問題をなんとかしようと考えるなら、5年に一度の法改正では間隔が長過ぎるのではないかとも思います。ペットショップはなくならないのかもしれませんが、であるなら、管理や登録をしっかりするなど、多方面からアプローチしていかないと現状を変えるのは難しいのではないでしょうか。併せて、安易に動物を飼わない、飼い主としての責任やモラルをもつことも大切だと思います」(民江さん)
「どんなに疲れていてもこのコたちがいると疲れが吹き飛びます。もし、このコたちがいなくなったら、自分の魂がどこかに消えてしまうような気がするくらいですよ」(門倉さん)/「月並みな言い方ですが、このコたちはほんとうに家族です」(民江さん)
ランディの命は、確かにつながっている。ゆったりとして穏やかなオレオは、インタビューの間、終始門倉さんの足元に寄り添っていた。かつて、ランディがそうしたように。
愛犬を心底愛しく想う。それこそが原動力。
この記事を書いている今も、門倉さんご夫妻はどこかで活動をなさっていることだろう。ランディのような理不尽な目に遭うコをこれ以上増やさないために、そして、ランディのように愛されるコがもっと増えるように。
最後に、門倉さんご夫妻のある日のブログにあった一文を引用させていただこう。
『ランディ、誕生日おめでとう
ランディはたくさんのことを教えてくれたね
会いたいよ、ランディ…
我が家に来たのが3年前の今日
いつまでも一緒だよ…』
たった3ヶ月の“家族”、けれど、ずっと一緒の“家族”…。
門倉健さん
埼玉県出身。1996年、ドラフト指名を受け中日ドラゴンズに入団。その後は近鉄バファローズ、横浜ベイスターズ、読売ジャイアンツ、シカゴカブス(アメリカ)、SKワイバーンズ(韓国)、サムスン・ライオンズ(韓国)などで長身を生かしたフォークボールを武器に投手として活躍。現役引退後はサムスン・ライオンズのコーチや野球解説者を経て、現在は中日ドラゴンズのコーチに就任。少年野球の指導にも力を入れている。TOKYO ZEROキャンペーンの呼びかけ人としても活動。
門倉民江さん
“Team K”代表取締役、“ミセス日本の会”社会貢献活動アドバイザー。犬との暮らしをきっかけに、犬の栄養管理士やメディカルアロマテラピーアドバイザー、ペットアロマアドバイザーなどの資格を保持し、ペットと暮らす飼い主さん向けのセミナーも行っている“JULIET YOKOHAMA(ポーセラーツサロン)”を主宰。
写真/木村 圭司
取材・文/大塚 良重
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