
テレワークなどのリモートワークが浸透する中、通勤時間の削減やワークライフバランスがとりやすくなるなどのポジティブな側面がある一方、従業員一人一人の孤独感や不安、つながりの希薄さというネガティブな側面が今、問題になっている。
そこで今回は、上司と部下双方の視点から、有識者に従業員の「孤立」対策のポイントを解説してもらった。
テレワークで「孤独」を感じ「孤立」する従業員
2020年3月26日~28日の3日間にリクルートマネジメントソリューションズが22~59歳の会社勤務の正社員に対して「テレワーク」に関する実態を調査した結果、心理的変化について次のことがわかった。
出典:リクルートマネジメントソリューションズ「テレワーク緊急実態調査」
心理的変化について、複数の項目を尋ねたところ、いずれの項目においても、変わらないと考える人が最も多く6割前後だったが、次の3項目については増える(高まる)人が、減る(低下する)人を上回った。
●「さびしさや疎外感を感じる気持ち」
(高まる・やや高まる32.7% > 低下する・やや低下する12.5% :20.2ポイント差)
●「仕事のプロセスや成果が適正に評価されないのではという不安」
(高まる・やや高まる29.4% > 低下する・やや低下する10.7% :18.8ポイント差)
●「会社に対する、好意的・肯定的な感情(感謝、貢献意欲、誇りなど)」
(高まる・やや高まる23.7% > 低下する・やや低下する13.5% :10.1ポイント差)
テレワーク環境下では、仕事の中断が減るなどの理由で生産性が高まり、生活や健康面に振り向ける意識や時間が増えるというポジティブな面がある一方で、コミュニケーションが減ることによる「さびしさ・疎外感」「評価に対する不安」が増え、「会社への好意的な感情」が減り、つながりが希薄化する傾向があることがわかる。
この「つながり」の希薄化については、一般的に「孤立」問題として取り上げられることが多い。
実際、2020年3月9日~15日にパーソル総合研究所がテレワーカーに対して実施した「テレワークにおける不安感・孤独感に関する定量調査」においても、テレワーカーのうち「孤立していると思う」と回答した人は28.8%となり、テレワークの頻度が高いほど孤独感は高くなる傾向が出ていた。
出典:パーソル総合研究所「テレワークにおける不安感・孤独感に関する定量調査」
従業員の「孤立」はどんなデメリットをもたらすか
実際、職場では、リモートワーク推進により、従業員の孤立問題が増えているといわれている。そうした中、孤立問題に対応するためには、どうすればいいか。今回は、人事問題に詳しい株式会社リクルートマネジメントソリューションのアセスメントサービス開発部 マネジャー 荒金泰史氏に話を聞いた。
【取材協力】
荒金 泰史氏
株式会社リクルートマネジメントソリューション
アセスメントサービス開発部 マネジャー
入社以来、一貫して人材アセスメント事業に従事。顧客の人事課題に対し、データ/ソフトの両面からソリューションを提供。新たな人事アセスメントの開発業務と、実証研究にも関わる。現場マネジャーの対話力を向上させる HR Technology サービス「INSIDES」(2018年度グッドデザイン賞受賞、HR アワード 2019プロフェッショナル部門最優秀賞)の開発責任者を務める。
https://www.recruit-ms.co.jp/issue/talent/0000000154/
従業員が孤立することで、会社にとって、そして従業員にとってどのようなデメリットがあると考えられるだろうか。
●会社のデメリット
「ひとことで言うと、会社にとって、労務管理や業務上のリスクが高まります。
会社や上司が気づかぬうちに業務過多になっていて、メンタルや体調を崩してしまう。結果、その業務を周りが引き取ることになって、チームの生産性がガタ落ちする。また転職活動をしていたとしても、誰も気づかない『びっくり退職』が起きる。仕事が上手く進んでいなくても、なかなか報告が上がってこず、ギリギリのタイミングになってようやくそれが上手く進んでいないことが分かる。といったことが生じます」
●従業員のデメリット
「従業員は、ひとりで考え込んで、良い結論に行きつくことはほとんどありません。孤立していると、周囲からの意見が入ってこなくなります。自分だけで悶々と考え込んでいると、ネガティブな思考が巡り巡って一層強化されます。人は、誰かに話すだけで気分が楽になるものですが、その逆が起きるのです。そもそも『誰も分かってくれない』『誰とも話したくない』という決めつけが強くなりすぎると、『だから◎◎なんだ』とあらゆる事象がネガティブに映ってきます」
孤立している従業員への対策とは?
孤立している従業員に対して、会社や上司の立場として、どのような対策が考えられるか。
「孤立している従業員というのは、単に周囲との接触が少ないというだけではなく、そもそも自ら孤立に向かっていることが多いのです。ですから、周囲が孤立から救い出そうと声をかけたり、話を聴こうとしても、あまり積極的に関わってこようとしない。これが問題をより厄介にしています。
孤立に向かう従業員の意識において、多くの場合、その根っこにあるのは『この職場やこの会社には、どうせ私のことを分かってくれる人なんていない』『私のことなんか誰も認めてくれない』という決めつけです。周囲を遠ざけるので、こうした決めつけがどんどん自分の中だけで強化されて、孤立が深まっていく。このようなメカニズムです。だからこそ『困ったら声をかけてね』等と言っておくだけでは、孤立は解消されないのです」
「声をかけてね」だけではダメ。ではどうすればいいか。
「こうしたときに意外と有効なことは、プライベートでも仲が良い人間と、会社の中で接点を持たせるようにしておくこと。一緒に仕事をさせられればベストですが、そうでなくても、定期的に昼ごはんを一緒に食べるようにさせたり、趣味の交流をする時間を持たせたりしておくことも有効です。自分のことを分かってくれる、無条件に認めてくれる人が『ひとりもいない』のではなく、『ひとりはいる』と、職場への安心感は大きく変わってきます。この『ひとりはいる』状態をつくっておくことで、本人が決めつけにとらわれて自ら孤立していく可能性は大いに減っていくのです」
従業員の孤立を予防するためのポイント
今後、フレキシブルな働き方がどんどん浸透していく中で、従業員の孤立のリスクはさらに高まっていくだろう。予防するには、どうすればいいか。
「孤立のメカニズムが先述のことにあるとすれば、それを未然に予防するために大切なことは、職場における人間的交流を保っておくことです。同じ会社に属している、同じ空間で働いているというだけでは、それを実感することは難しい。趣味で繋がるとか、同じ出身地同士で集まってみるとか、会社から与えられる場だけではなく、自分個人として参画している実感が得られる交流の機会が大切です。
実は『一緒に仕事をしたことはないけれど、よく飲み会では一緒に楽しく過ごしている関係』というのが意外と大切だった、ということです。コロナ禍ではこうした機会はなかなか難しいですから、代替手段として、オンラインでも趣味が同じ人同士でサークルをつくって雑談をする等といった工夫が求められると思います。会社の中に、職場という単位だけでなく、いろいろな角度でのコミュニティをつくっておくことが重要です」
コロナ禍では雑談や飲み会が減ったと言われるが、単に寂しくなっただけではすまされず、実は孤立問題につながっている側面もあるようだ。意識的にサークルや部活、コミュニティなどの集まりを作ることが重要といえそうだ。
調査出典
リクルートマネジメントソリューションズ「テレワーク緊急実態調査」
パーソル総合研究所「テレワークにおける不安感・孤独感に関する定量調査」
取材・文/石原亜香利