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【深層心理の謎】‟マイルドな楽観主義”が生存競争に有利だとされる理由

2022.03.03

 新しい試みには当然失敗するリスクもつきまとうが、場合によっては失敗しそうだとわかった時点で対策を考えてもいいのではないだろうか。安易な楽観は禁物だが、シビアに考え過ぎていては世界が広がらない——。

ホテルでの苦い体験を思い出しながら街を歩く

 ホテルに併設の大浴場で朝からひと風呂浴び、支給された1枚刃の安全カミソリで髭剃りをしていたら、鼻の下を少し切って流血したという過去の苦々しい体験がよみがえってきた。その後もどういうわけかなかなか血が止まらなくて、電車と飛行機での移動中もティッシュで鼻の下を押さえ、午後まで過ごしたことが思い出されてくる。刃の当て方が雑で自分にも非があったようにも思えるし、単純に運が悪かった…ということかもしれないが、どうしたって泊まった宿への印象は悪くなるというものだ。悪気はなくとも再び利用することはまず考えられない。

 某所からの帰路、埼京線を板橋駅で降りた。午後6時になろうとしている。帰宅の時間ということもあり、駅構内はけっこうな混雑ぶりだ。

 このご時世の中、いわゆる“テレワーク”でホテルに滞在する人々がいるのはご存知の通りだ。観光や出張の需要の急減で、都市部のビジネスホテルは泊まりやすくなっていて、特にテレワークでなくとも休養やリフレッシュの目的で宿泊する人も増えてきているようだ。最近はビジネスホテルでも温泉の大浴場がある施設もけっこうあり、普段の日常を少し離れて一晩ゆっくり寛ぎたいというニーズにも応えてくれる。

 そういう自分もまた、ここ最近になって近場のビジネスホテルで何度か1泊している。旅行や取材でもないのにホテルに泊まるなんて、これまでには考えられなかったことだ。そしてノートパソコンを持ち込んで泊まれば、案外仕事が進むことも今さらのように発見することになった。

 板橋駅の西口に出る。今日は日中は雲一つない快晴で寒さも和らいだが、日が暮れはじめると急速に冷え込んでくる。特にあてがあるわけではないが、少し歩いてどこかで何か食べて帰るのもいいだろう。部屋に戻ってからやることがまだ少しあるので、「ちょっと一杯」という案は残念ながら却下せざるを得ない。

※画像はイメージ(筆者撮影)

 実は3、4日先にはまたしても近場のビジネスホテルに1泊するつもりでいる。宿泊料金はできるだけ安く抑えたいのだが、前回泊まったところはサウナのある大浴場があって料金も安く、なかなか理想的なホテルだった。早い時間にチェックインして仕事もけっこう捗ったのだ。

 今回もそこでいいとは思うのだが、数日前にネットで見つけた都内某所のホテルも条件面ではなかなか魅力的だった。前回と同じにするか、そっちを初めて利用してみるか迷うところだ。

 もちろん初めて泊まるホテルにはリスクがある。かつて泊まったあるホテルには大浴場とサウナがあったのだが、先に話した通り、無料で提供されるカミソリが1枚刃で、朝の入浴時に髭剃りをしている際中に鼻の下を少し切ってしまった。

 また別のホテルでは早朝に、空室のはずの隣の部屋から目覚ましのアラーム音が大音量で鳴り響いてきて、もう少し寝ていたかったのにむりやり起こされたこともあった。ほかのホテルではそうした体験は1度もしたことがないので、このホテルでは時折起こっているのかもしれない。そしてそもそも部屋を仕切る壁が薄い作りになっているのだろう。

 初めて訪れる施設にこうしたリスクがあることは避けられないが、まぁどれも仕方のない種類の出来事である。1枚刃のカミソリを使いたくなければコンビニやドラッグストアで買ってきてもよかったし、眠る際には耳栓をしておいてもよかった。あまりシビアに考えてもナンセンスなのだろう。

“マイルドな楽観主義”で生存競争が有利になる

 土地勘のない通りを歩いてみた。引き返して知っている東口側に行けば、かつて入ったことのある店がいくつかあるのだが、こちら側にはまったくない。某牛丼チェーン店を過ぎ、続いて居酒屋の前を通り過ぎる。ゆっくり歩いていればそのうち入りたくなる店も見つかるだろう。少しばかりは楽観的でありたい。

※画像はイメージ(筆者撮影)

 ホテル選びも少しくらいは楽観的であっていいのかもしれな。初めてのホテルには確かにリスクはあるが、もしも目論見通りに事が進めば、ほんのわずかでも世界が広がる体験になる。最新の研究ではほどよく楽観的にエサを探し回る動物たちは、結果的により栄養状態が良く健康的であることが報告されていて興味深い。


 前向きな考えのバイソン、ウシ、あるいはツキノワグマは、中立的な考えや悲観的な動物よりも、より満たされた腹具合と長期的に良好な健康の可能性が高くなります。

 研究チームは「感情価に依存する楽観バイアス」を考慮した動物の採餌行動モデルを開発しました。これは悪い結果に関する情報が除外または無視される偏った学習プロセスです。

 コンピュータシミュレーションで、平均的な食料の質と新しい食料源への移動時間に関する部分的な知識を備えた架空の採餌動物が、現在の食料源にとどまるか、以前に利用された地域に戻るか、新しい地域を探索するかについて継続的な決定を下しました。

 採餌動物は新しい経路を移動するたびに、その領域について「学習」し、その情報がメンタルライブラリに追加されました。楽観的な意思決定は多くの場合、より健康的な状況とより良い食料源へのアクセスにつながりました。

※「Utah State University」より引用


 野生動物の死因は外敵に襲われて命を落とすことよりも、実際には餓死がメインであるといわれている。したがって野生動物の日々の暮らしの最も重要なテーマは当然ながら食糧の確保だ。

 ライオンやトラなどの獲物を捕まえて捕食する捕食動物は、ある意味単純に獲物がいる場所に身を置いていればよいのだが、クマなどの雑食性の動物やウシなどの草食動物、つまり採餌行動をとる動物は身の回りに食べ物が少なくなれば、新たな餌場を求めて移動するかどうかの判断に迫られてくるだろう。

 身の回りに食糧が不足してきた際に、まだかろうじてある餌を食べ尽くすまでそこに留まるのか、あるいはかつていたことのある餌場に戻るのか、またはこれまで訪れたことのない新たな餌場を探すのかといった採餌行動には、その個体の性格特性が大きく関係してくることは間違いない。つまり慎重で悲観的なキャラクターなのか、それとも大胆で楽観的なキャラクターなのかというベクトルの間で採餌行動は違ってくることになる。

 米・ユタ州立大学とイスラエルのネゲヴ・ベン=グリオン大学の合同研究チームが2022年2月に「Frontiers in Ecology and Evolution」で発表した研究では、野生動物の採餌行動モデルを開発してコンピュータシミュレーションを行っていて興味深い。検証の結果、ほどよく楽観的なキャラクターの個体が食糧確保の競争において最も優れていることが導き出されたのである。悲観的であるのはもちろん、極端に楽観的であっても食糧確保の面では不利で、ほどよい“マイルドな楽観主義”が現状維持や過去の成功にとらわれずに“新規開拓”を促し食糧源へのアクセスの確率を高め、ひいては生存競争を有利に運んでいたのである。

 餓死する可能性と隣り合わせの野生動物にとって“明日の食い扶持”の確保は等しく負わされた課題となる。そうした不確実性に満ちた明日を悲観的にとらえれば現状や過去に固執しがちになる一方、「どうにかなるさ」と心の底でわずかながらでも楽観的に考えることで“新天地”に足を踏み入れる気持ちも芽生えてくるだろう。そして往々にしてこうした行動が突破口を開いて実益をもたらしてくれるのかもしれない。

 もちろん必ずしも成功するわけではなく、失敗もそれなりに多いのだろうが、ひどい状況であったとしても心のどこかで「どうにかなるさ」という気持ちを抱いていることは、実はきわめて大事なことだったのだ。

ボリューム満点の“体育会系”メニューと格闘する

 勝手わからぬ板橋駅西口界隈をあてもなく徘徊するも、心のどこかで「どうにかなるさ」と信じられている今の自分もまた“マイルドな楽観主義”者ということになるだろうか。

“マイルドな楽観主義”というフレーズをよく噛み砕いて頭の中で思い描いてみるとイメージされてくるのはいわゆる“体育会系”の人物像だ。基本的に平均以上あるその体力を根拠にすれば、普段から「どうにかなるさ」というマインドセットであったとしても不思議ではない。失敗したならその時になってまた考えればいいとどこかで思っていたりするのかもしれない。

 通りの交差点を気分次第で右に折れてみた。この通りにもいくつか店があるようだ。

※画像はイメージ(筆者撮影)

 この時世ではなかったら、そしてもう少し遅い時間であったら、入るかどうか迷うであろう大衆居酒屋を数軒見送って先に進むと、東京ローカルチェーンの某洋食店があるのを発見する。高田馬場と池袋にもある店だが、個人的にはもう何年も食べていない。1人で純粋に食事だけして帰るならこの店は好都合だ。入ることにしよう。

 夕食時にはまだ早い時間ではあるが、このご時世で全体的に人々の暮らしのリズムが早まっていることもあってけっこうなお客の入りだ。すべてカウンター席で、壁側ではなく調理場に面したほうのカウンターの一角に着かせていただく。

 店の入口に近くにあったメニューをざっと確認していたので食べたいものは決まっていた。お店の人に「なすと肉のしょうが焼ランチ」を注文する。

※画像はイメージ(筆者撮影)

 料理がやってきた。見た目のボリュームに少し驚くが、もちろんこの店ではこれが標準だ。ライスは普通盛りでもけっこうな量である。具沢山の豚汁も食べ応えがありそうだ。

 豚汁をひと口啜ってからさっそくしょうが焼きをいただく。生姜が効いたタレに絡んだナスとピーマンが美味しくでご飯が進んでしまい、自然に黙々と食べ進めることになる。店内の人々もひたすら目の前の食べ物に集中していた。隣のお客も注文時にライスを大盛りにしていたし、店内の半分くらいのお客は大盛りライスを攻略していそうだ。

 平均以上の胃袋がないとこの店では楽しめないことは明らかで、その意味ではまさに“体育会系”の店だ。自分もまた休むことなく食べ続けよう。まさに攻略であり“格闘”だ。

 店で受け取るテイクアウトの電話注文も多く、店員さんが次から次と電話口で注文をさばいている。誰一人話し声のない店内では電話注文の内容がまるわかりだ。そして注文した料理を受け取りに来るお客もコンスタントに来店してくる。

 勝手知らぬ街で少しさまよった挙句に今こうしてボリュームたっぷりの定食と格闘している自分がいる。これもひとつの「どうにかなるさ」の帰結だろうか。

文/仲田しんじ

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