
オフィスの投資額は1兆7,270億円と対前年比11%も増加
CBREは、スペシャルレポート「日本投資家意識調査2022」を発表した。
2021年の投資額は前年より6%減少もコロナ禍前の規模を上回る規模
2021年の投資額は3兆8,410億円で、対前年比6%減少した。前年2020年に500億円を超える大型取引が比較的多かったことの反動減が主因。
しかし、コロナ禍前の2018年ならびに2019年を上回る規模である。500億円未満の取引の総投資額は対前年比18%増加している。
アセットタイプ別にみると、オフィスの投資額が1兆7,270億円と対前年比11%増加した一方で、物流施設は8,990億円と同13%減少した。500億円未満の取引でも、オフィスが前年比53%増加した一方、物流施設は24%減少した。
2021年の期待利回りは低位で推移
コロナ禍においても期待利回りは概ね低下傾向にあった。2021年Q4の東京の主要アセットタイプ別期待利回りは、物流施設(首都圏湾岸)が1年前より13bps低下、次いで賃貸マンション(ワンルーム、ファミリー)が同8bps低下した。
コロナ禍でも賃貸需要が堅調で、安定したキャッシュフローが期待できる両アセットタイプを投資家は選好したとみられる。
また、期待利回りが横ばいだったオフィスについても、取引利回りの低下を示唆する事例が散見された。
オフィス市場全体で新規賃料は下落基調にあるものの、収益の安定性や成長性が依然として期待できる物件が選別された。
日本の投資家の投資意欲は非常に旺盛、「不動産ファンド」が牽引
2022年の取得額が「昨年より増加する」と回答した日本の投資家の割合は54%で、2020年12月に実施した前回の調査結果に比べて10ポイント増加。
これは2015年12月以降に実施された7回の調査の中で最も高い割合である。この結果を投資家属性別にみると、「昨年より増加する」という回答の割合がもっとも高かったのは「不動産ファンド」(74%)で、次いで「デベロッパー・オーナー・オペレーター」(51%)、「機関投資家」(50%)となった。
また、2022年の売却額が「昨年より増加する」と回答した投資家の割合は24%で、同8ポイント増加した。投資家属性別に回答率をみると、「デベロッパー・オーナー・オペレーター」が32%ともっとも高く、次いで「不動産ファンド」が28%、「機関投資家」は11%となった。
経済正常化への期待の高まりとともに、投資家の意欲もさらに高まっているようだ。さらに、取得意欲だけでなく売却意欲も昨年より高まっていることは、2022年の売買市場では流動性がさらに高まることを示唆している。CBREは、2022年の投資額が2021年を10%程度上回ると予想している。
日本の投資家は引き続き「コア」を選好
「コア」が41%と、前回調査に比べて2ポイント上昇した。また、「バリューアッド」と「コアプラス」の回答率もそれぞれ同7ポイント、同3ポイント上昇し、「バリューアッド」が「コアプラス」を上回った。
「コア」を魅力的な投資戦略として選択した投資家割合は「デベロッパー・オーナー・オペレーター」がもっとも高く32%となり、次ぐ「上場REIT」が31%だった。また「バリューアッド」では「不動産ファンド」が全体の50%を占めた。
2021年は、キャッシュフローの安定性や成長性が見込める案件で取引利回りが低下するケースが散見された。
2022年のマーケットも「コア」投資家が中心となるため取引利回りは低位で推移すると考えられる。
その一方で、超低金利で運用難が続く中、より高い利回りを求める「バリューアッド」戦略を志向する投資家も増えている。開発案件の取得やコンバージョンなどの動きが増える可能性がある。
オフィスが主な投資対象として再び1位に
2022年の主な投資対象として投資家が選んだアセットタイプは、オフィスが39%と、物流施設(26%)を抜いてもっとも高い回答率となった。
一方の物流施設は前回調査から7ポイント減少した。オフィスを選んだ投資家が増加した要因は、オフィス賃貸需要の見通しについての見方が改善したためと考えられる。
本調査で今後3年間の需要の見通しについて投資家に質問したところ、「縮小する」の回答率が56%と、前回調査に比べて13ポイント減少した。
一方で、「今と変わらない」もしくは「拡大する」の回答率が合わせて41%と、同11ポイント増加した。オフィス需要が、当初懸念されていたほどは減少しないと考える投資家が増えているようだ。2021年末の東京のオフィス空室率は3.9%といまだに低水準である。
パンデミックの初期段階でIT企業が相次いでオフィスを解約したことが話題となった渋谷では、2021年に入って空室率は低下に転じた。人材採用の強化を目的とした企業のオフィス回帰の動きが背景にある。
一方、物流施設を選んだ回答者の割合が低下した背景には、需給バランスの緩和懸念があると考えられる。本調査で物流施設投資に関するリスクを質問したところ、「大量の新規供給」が61%ともっとも高かった。
CBREでは、物流施設の需給バランスが大きく緩和する可能性は低いと予想している。とはいえ、テナントの選択肢が拡大している中で、物件によってはリーシングに時間がかかるものも出てこよう。
投資市場においても、立地や物件の仕様等により価格差が広がる可能性はある。加えて、物流施設の価格の上昇も投資家の見方に影響を与えているとみられる。不動産投資全般に関するリスク要因の考察からも、そのことが窺える。
最大のリスク要因は「価格の高騰」。しかし投資家の意欲は物流施設のさらなる価格上昇を示唆
2022年の不動産投資において懸念されるリスク要因としては、日本の投資家の70%が「取得競争の激化で価格が想定以上に高くなること」を選択した。
投資家は「経済環境の不透明感」(47%)よりも価格の高騰で物件取得が困難になることを、より深刻なリスクとして捉えている。
しかしながら、物流施設については、投資家の関心がさらに高まることで価格はさらに上昇する可能性がある。投資家が想定する価格水準をアセットタイプ別に質問したところ、物流施設においては「売主の希望価格を上回る価格を提示してもよい」と回答した投資家が27%と前回調査を11ポイント上回った。
ただし、物流施設については、大量供給に対する懸念から、投資対象についてより選別的になる投資家も増えている。そのため、立地や物件仕様等の違いにより価格動向には温度差がみられるだろう。
オルタナティブ投資はデータセンターと冷凍冷蔵倉庫
オルタナティブアセットの中で選好するアセットタイプを質問したところ、「データセンター」が24%(前回調査より+14ポイント)ともっとも高く、次いで「冷凍・冷蔵倉庫」が23%(同+19ポイント)、「学生寮・学生マンション」が20%(同+6ポイント)となった。
全アセットタイプの回答率が前回結果に比べて増加しており、オルタナティブ投資に取り組む投資家が増えていることを物語っている。
より高い利回りが期待できるからという理由だけではなさそうだ。「データセンター」や「冷凍・冷蔵倉庫」など、コロナ禍を受けてニーズが加速したとみられるアセットタイプに対する関心が高まったと考えられる。
オルタティブ投資に取り組む投資家を分類別にみた割合は、全てのアセットタイプでデベロッパーと不動産ファンドが上位を占めた。
ストックが限定的なオルタナティブアセットで既存物件の売買は限られ、開発が中心となっている。特に、「データセンター」は、デベロッパーや不動産ファンドが、事業者とJVを組んで開発する大型プロジェクトが増加傾向にある。
アジア太平洋地域の魅力的な都市として、東京が3年連続で1位
日本の不動産投資市場に対する海外投資家の関心は依然として高い。海外投資家が選んだアジア太平洋地域のもっとも魅力的な都市として、東京が3年連続で1位となった。
当ランキングには、今回はじめて日本の地方都市が8位にランクインしたほか、大阪も10位に入った。日本が海外投資家にとって魅力的な投資対象となる背景には、資金調達コストの低さや流動性の高さがある。
また、海外で地政学的リスクが高まる中、相対的に日本に対する安心感が高まっているとも考えられる。国内外の投資家からの関心の高さを背景に、東京の投資市場の需給バランスは非常にタイトで、アセットタイプによっては取引利回りが低下傾向にある。
このため、大阪や名古屋など、より高い利回りが期待できる地方都市にも投資家の関心が向かっていると考えられる。
2022年のインバウンド投資額は増加
日本を投資対象に含む海外投資家の投資意欲は非常に高い。2022年の取得額が「昨年より増加する」と回答した海外投資家の割合は74%で、「昨年と同じ投資額」と合わせると96%になった。
また、これら海外投資家が志向する投資戦略としては、「オポチュニスティック」が全体の37%ともっとも高く、次いで「バリューアッド」(22%)、「ディストレス」(21%)となった。主な投資対象となるアセットタイプについては「物流施設」を選んだ回答者の割合が38%、次いで「オフィス」が24%、「住宅」が13%となった。
日本の投資家の戦略は引き続き「コア」が中心であるのに対し、海外投資家はより高いリスクを取ろうとしている。日本では投資家間の競争が厳しく、取引利回りも低水準で推移している。
そのような中、投資機会が日本の投資家より限られる海外投資家は、開発やリノベ―ション等を通じて、より高い利回りを実現しようとしているようだ。
特に、「物流施設」や「住宅」については、J-REITを中心とした国内投資家の存在が大きい。これらのアセットタイプの投資機会を増やすため、海外投資家はデベロッパーと協力し、開発する取り組みを積極的に行なっている。
ESG投資に対する意識はさらに高まる
ESGポリシーを投資基準として採用している投資家の割合は29%と前回調査より9ポイント上昇。「採用を検討中」の回答率は49%と、同21ポイント上昇した。
さらに、当設問への回答率も前回の74%から98%に上昇したことを踏まえると、ESG投資に対する日本の投資家の意識は明らかに高まっており、採用に向けた動きが本格化しているようだ。
採用もしくは採用を検討している割合を投資家タイプ別で見ると、JREIT、不動産ファンド、デベロッパーの順番で高く、それぞれ90%、89%、78%となった。特にJ-REITは、前回から+43ポイントともっとも増加幅が大きかった。
ESG投資に際しては、物件の環境認証の取得を重視
ESG投資を採用もしくは採用予定である日本の投資家に、ESG投資を行なう理由として、主なものを3つ選択してもらったところ、「企業ブランドイメージの向上、もしくは環境認証の取得」が61%ともっとも高かった。
「株主の要求に応える」(45%)も3番目に高い回答率だったことから、企業評価を高めることが投資家のインセンティブとなっているようだ。
ESG投資の実践方法では、物件の環境認証を取得することが中心となる可能性が高い。本調査で実践方法について質問したところ(Figure15)、「(GRESBなどの)外部機関から物件取得の評価を取得する」が69%ともっとも高く、次いで「既存物件を改修して環境認証を取得する」が47%となった。
とはいえ、「ESGポリシーを満たす物件には高い価格を支払う」と回答した投資家は1割程度と低い。ESGポリシーを満たした物件の価格にプレミアムが乗るのはもう少し先になりそうだ。
資金調達に関しては、ESG投資を採用もしくは採用予定である日本の投資家のうち、「グリーンファイナンスに参画する」と回答した投資家は全体の35%となった。
一方で、アジア太平洋地域の全投資家を対象とした場合は40%と、日本の投資家の回答結果より高い。日本では未だグリーンファイナンスの認知度が低いことや、その仕組みが投資家のニーズにマッチしていないことが考えられる。
調査概要
・投資家意識調査は2021年の11月17日から12月23日にかけて実施した。
・日本回答者は173名で、アジア太平洋地域の全回答者(535名)の32%を占めた。
構成/DIME編集部
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