
新アプローチの免疫療法、進行乳がん治療に有望
体内の腫瘍に対抗する免疫細胞の力を高める実験的な治療法が、一部の進行乳がん患者に有効であることを示唆する初期段階の研究の結果が報告された。
標準治療が奏効しなかった転移性乳がん患者を対象に、米国立がん研究所(NCI)で実施されているこの臨床試験の詳細は、NCIのSteven A. Rosenberg氏らにより、「Journal of Clinical Oncology」に2月1日報告された。
がん免疫療法にはさまざまな種類があるが、全ての種類のがんが免疫療法に反応するわけではない。
例えば、多くの遺伝子変異を伴う悪性黒色腫(メラノーマ)は、免疫療法による奏効が得られやすいがんの代表例だ。
特に、免疫チェックポイント阻害薬と呼ばれる免疫療法薬による治療は、進行悪性黒色腫の治療を大きく変えた。
その一方で、乳がんでは遺伝子変異が比較的少ないため、現行の免疫療法によって得られる効果は限定的だ。
ただ、悪性度が高い傾向にあるトリプルネガティブ乳がんに対しては、免疫チェックポイント阻害薬の使用が承認されている。
一方、Rosenberg氏らが開発している治療アプローチは、腫瘍浸潤リンパ球(tumor infiltrating lymphocyte;TIL)輸注療法(TIL療法)と呼ばれるものだ。TIL療法では、腫瘍の内部や周囲に浸潤しているリンパ球(T細胞)を採取して培養し、それを患者の体内に戻すことで免疫反応の増強を図る。
研究グループは、これまでに進行悪性黒色腫やまれなタイプの消化器がんを含む特定の種類のがんに対してこの治療法を試してきた。
今回の臨床試験には、従来の治療が奏効しない転移性乳がん患者42人が組み入れられた。いずれの患者にも手術が行われ、腫瘍検体が採取された。
研究グループはこの腫瘍検体のDNAシーケンシングを行い、遺伝子変異を同定。次に、腫瘍組織からT細胞を分離し、腫瘍細胞に含まれるDNAの特定の変異に対するT細胞の反応を調べた。
その結果、患者の28人(67%)が、少なくとも1つ以上の腫瘍細胞DNAの変異に対して反応を示すTILを有しており、このうち13人ではT細胞を体内に戻すのに値する、強い反応を示した。
最終的に6人に対して、この治療法を施行した。治療の一環として、体内に戻すT細胞が不活性化した状態にならないようにするために、免疫チェックポイント阻害薬の一つであるペムブロリズマブ(商品名キイトルーダ)が最大4回投与された。
その結果、6人中3人で腫瘍が縮小し、うち1人の患者では完全奏効が得られ、その後5.5年以上にわたってがんのない状態が持続している。
残りの2人の患者では部分奏効が得られた。部分奏効は、それぞれ10カ月間、および6カ月間持続したという。
研究論文の上席著者であるRosenberg氏は、「この治療法はまだ実験段階のものであり、米食品医薬品局(FDA)には承認されていない」と強調しながらも、今回の初期段階の結果は「有望」としている。
しかし、この研究では、過半数の対象者が1つ以上の腫瘍DNAの変異に対して反応するTILを有していた。
それにもかかわらず、なぜこれらのT細胞は腫瘍を殺せなかったのだろうか? Rosenberg氏は、「腫瘍細胞は免疫応答から逃れる手段を持っているため、TILの力だけでは不十分だ」と説明する。
そこで、こうした反応性を示すT細胞を実験室で増殖させて「軍隊」を作った上で体内に戻し、腫瘍細胞を探して破壊させることを狙った。それが今回検討された治療法なのだという。
この報告を受け、米ダナ・ファーバーがん研究所のErica Mayer氏は、「明るい兆しだ」と述べる。それと同時に同氏は、「同治療法の有効性と長期的な安全性については、解明すべき点が多く残されている」と指摘。
また、この治療法を、一部の専門的な施設以外でも実施できるのかどうかも課題の1つとして挙げている。(HealthDay News 2022年2月9日)
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(参考情報)
Abstract/Full Text
https://ascopubs.org/doi/abs/10.1200/JCO.21.02170?journalCode=jco
構成/DIME編集部
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