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西武HDの凋落を象徴するホテルの売却、V字回復の起爆剤となるか?

2022.02.19

西武ホールディングスが保有するホテルやスキー場を、シンガポールの政府系投資ファンドGICに売却します。2022年2月10日に基本協定書を取り交わしたと発表しました。31物件を1,500億円で譲渡し、800億円を譲渡益として見込んでいます。売却する物件は「ザ・プリンスパークタワー東京」や「苗場プリンスホテル」、「サンシャインシティプリンスホテル」など名の知れたものが多数含まれています。

西武は2004年3月に総会屋に対する利益供与で役員が逮捕され、その年の10月に有価証券報告書虚偽記載が発覚して上場廃止になりました。その後、米投資ファンド、サーベラスの支援を受けて経営再建を行います。2014年4月に再上場を果たして健在ぶりをアピールしました。

今回のホテルの売却は西武の事業を弱体化させ、利益率低下の要因となる可能性があります。

大赤字を出す原因となったホテル事業

西武は2022年3月期に110億円の営業損失(前年同期は515億8,700万円の営業損失)を予想しています。なお、東急は同時期に280億円の営業利益、京急は営業利益0円を見込んでおり、私鉄の中でも西武の苦戦ぶりが目立ちます。

■西武、東急、京急の営業利益比較

※決算短信より筆者作成
西武:https://www.seibuholdings.co.jp/ir/ir_material/brief_note/
東急:https://www.tokyu.co.jp/ir/library/library_04.html
京急:https://www.keikyu.co.jp/ir/library/accounts.html

西武の2022年3月期の売上高に当たる営業収益は前期比19.3%増の4,010億円を見込んでいますが、コロナ禍の2021年3月期の売上高は前期比39.4%もの減少に見舞われていました。完全回復には程遠い状況です。

※決算短信より筆者作成(営業利益の目盛は右軸)
https://www.seibuholdings.co.jp/ir/ir_material/brief_note/

2018年3月期の営業収益は前期比3.6%増、2019年3月期は6.7%増と新型コロナウイルス感染拡大前までの業績は堅調でした。コロナ前の2019年3月期の私鉄3社の営業利益率を比較すると、西武が13.0%でトップ。収益性の高い会社だったことがわかります。

※決算短信より筆者作成
西武:https://www.seibuholdings.co.jp/ir/ir_material/brief_note/
東急:https://www.tokyu.co.jp/ir/library/library_04.html
京急:https://www.keikyu.co.jp/ir/library/accounts.html

コロナ前の強さの源泉こそがホテル事業でした。2019年3月期の事業別営業収益を見ると、ホテル事業が2,198億100万円で全体の35%を占めています。鉄道事業である都市交通の26%を大幅に上回っているのです。鉄道の西武はホテル企業として成長していました。この時期はインバウンド需要が最高潮に盛り上がっており、品川プリンスホテルを中心に高稼働が続いていました。

※決算短信より筆者作成
https://www.seibuholdings.co.jp/ir/ir_material/brief_note/

コロナによってインバウンド、国内旅行、ビジネス需要が蒸発すると、ホテル事業は凄まじい赤字を出すことになります。2021年3月期はホテル事業単体で534億1,300万円の営業損失となりました。会社全体の営業赤字額を上回るほどのものです。

※決算短信より筆者作成
https://www.seibuholdings.co.jp/ir/ir_material/brief_note/

西武は2021年3月期に723億100万円という巨額の最終赤字を出す結果となり、3月末時点の自己資本比率が17.6%(2020年3月末は21.5%)まで低下。安全基準とされる20%を下回りました。資金調達のため、保有する不動産の売却へと動くのです。

家賃の支払いが利益率の悪化を招く可能性

ホテル経営は所有と運営の分離が進んでいた分野です。外資系ホテルブランドを中心として、物件を不動産ファンドが所有し、運営会社が家賃を支払うスタイルが定着していました。

分離をすることで運営会社は出店スピードを上げることができ、ホテルのサービス力を高めることに事業を集中することができます。高稼働が見込めるホテルは所有者にとってもうま味のある形態でした。

西武も所有と運営を分けるだけであり、時代の潮流に沿ったものだと納得してしまいがちです。しかし、西武が保有していた土地の多くは、戦後の混乱期に日本の華族などから買収したものであり、「ザ・プリンスパークタワー東京」は2005年4月、「サンシャインシティプリンスホテル」は1980年4月の開業です。売却額1,500億円のうち半分以上の800億円を譲渡益と見込んでいる通り、物件そのものの借入依存度は少なかったと考えられます。

そうなると、今後西武は高額な家賃を支払いながらホテル事業を継続することになり、利益率悪化の要因となる可能性があります。

不動産の売却が苦渋の決断だったことは容易に想像されます。西武はかつてアクティビストファンドであるサーベラスとの対立に悩まされました。それは現在の東芝にも通じるものがあります。大型増資によってアクティビストファンドに入り込む隙を与えれば、事業の推進力を失うことにもなりかねません。増資による資本増強はしづらかったものと予想されます。

文化の発信拠点となったセゾングループ

西武の凋落を印象づけるもう一つの出来事が西武デパートの売却です。今はセブン&アイ・ホールディングスの傘下にありますが、かつてはセゾングループ(旧:西武流通グループ)の中核企業でした。

セゾンの創業者は堤清二氏です。堤氏は辻井喬の名で詩人・小説家としても活躍していました。作家・三島由紀夫とも親交が深く、経営者であり文化人でもあった重鎮です。堤氏は街づくりに文化を溶け込ませたことでよく知られています。

西武百貨店池袋店は1975年の増改築で美術館を開館しています。このとき、当時珍しかった美術書の専門店「アール・ヴィヴァン」を併設しました。この店舗は前衛芸術の専門書や現代音楽を販売していました。書店のリブロは人文書などの品ぞろえが豊富でした。そのほか、パルコ劇場や銀座セゾン劇場、シネセゾン渋谷など、セゾングループは文化戦略を推し進めます。文化の力で人々の関心を引き、街全体の消費を加速させる狙いがありました。

よく池袋は埼玉県民の街だと揶揄する声が聞こえますが、これこそが堤氏の功績だと言えます。堤氏は郊外に住む大衆を文化の力で熱狂させ、池袋に引き込んだのです。西武百貨店が力を失った今も、その名残があると見るべきでしょう。それほど影響力のある会社でした。

日本で最も有名なキャッチコピー「おいしい生活」を掲げたころの西武百貨店は、三越の売上を抜いて日本一となっています。

しかし、バブル期の不動産への過剰投資が仇となって経営が傾きました。2006年6月にセブン&アイ・ホールディングスが完全子会社化しています。セブン傘下に入っても業績は回復せず、むしろ株主から利益の下押し要因になっていると邪魔者扱いされることになりました。

西武百貨店の買収候補として三菱地所、三井不動産が手を上げていると報じられています。西武百貨店は事業価値よりも不動産価値が買収のポイントであり、かつての勢いは完全に消沈してしまいました。

取材・文/不破 聡

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