
第二世代抗アンドロゲン薬で前立腺がん患者のうつ病リスクが上昇か
前立腺がんに対するホルモン療法として第二世代抗アンドロゲン薬を使用していた患者では、従来のホルモン療法を受けた男性や、ホルモン療法を受けていない男性と比べて、うつ病の発症リスクが2倍以上高かったとする研究結果が報告された。
米テキサス大学MDアンダーソンがんセンターのKevin Nead氏らによるこの研究の詳細は、「JAMA Network Open」に12月23日掲載された。
前立腺がんは、テストステロンなどの男性ホルモン(アンドロゲンとも呼ばれる)に刺激されて増殖する。
そのため前立腺がんの治療では、アンドロゲンのがん細胞への作用をブロックするアンドロゲン遮断療法が選択肢の一つとなる。
アンドロゲン遮断療法には、近年、アビラテロンやアパルタミドなどの第二世代抗アンドロゲン薬が登場した。
これらの薬剤は、従来の薬剤よりもテストステロンの働きを抑制する作用が優れているとされる。
しかし、テストステロンの不足は、前立腺がんの有無にかかわらず男性のうつ病リスクを高める。
「テストステロンが低値の男性はうつ病リスクが高い。また、テストステロンが低値の男性にテストステロンを補充すると気分が改善し、うつ病リスクが低下する」とNead氏は説明する。
そもそも、命に関わる疾患であるがんと闘う患者は、うつ病リスクが高い。
また、うつ病はがん患者の全生存率の低下をもたらすなど、がんのアウトカムの悪化に関連する。
Nead氏らは今回の研究で、第二世代抗アンドロゲン薬の使用がどの程度、うつ病リスクを高めるのかについて明らかにするため、66歳以上の前立腺がん患者3万69人のデータを解析した。
解析対象者は、1)ホルモン療法を受けていない患者1万7,710人(非ホルモン療法群)、2)従来のホルモン療法薬による治療のみを受けた患者1万1,311人(従来のホルモン療法群)、3)第二世代抗アンドロゲン薬による治療を受けた患者1,048人(第二世代抗アンドロゲン薬群)の3群に分類された。
第二世代抗アンドロゲン薬群には、より高齢な人が多く(81歳以上の人が占める割合は、第二世代抗アンドロゲン薬群24%、従来のホルモン療法群18%、非ホルモン療法群7%)、また、がんが遠隔転移している人も多い(同順に、24%、8%、0.7%)という特徴があった。
多変量Cox比例ハザードモデルによる解析の結果、第二世代抗アンドロゲン薬群では、従来のホルモン療法群、非ホルモン療法群のどちらと比べても、うつ病のリスクが2倍以上高いことが明らかになった(ハザード比は、2.26、2.15)。
この研究結果を踏まえNead氏は、「医師が、前立腺がん患者に第二世代抗アンドロゲン薬を処方する際には、うつ病リスクに留意する必要がある」と指摘。
「うつ病は患者の全体的なアウトカムに影響を与える。そのため、第二世代抗アンドロゲン薬による治療を受けている患者に対し、われわれは十分注意を払い、うつ病の予防や治療のために早期に介入する必要がある」と話す。
一方、米マウントサイナイ・ヘルスシステム泌尿生殖器腫瘍科のBobby Liaw氏は、「こうしたうつ病リスクの上昇は、第二世代抗アンドロゲン薬の効果の高さに起因する可能性が高い」とする見方を示している。
同氏によると、従来薬では、精巣からのテストステロンの産生は抑制されるが、副腎などの他の部位から産生される少量のアンドロゲンは抑制されない。
これに対し、より強力なアンドロゲン受容体拮抗薬であれば、既にテストステロンが不足している細胞からさらにそれを奪うことになる。
そのため、「そうした薬剤の使用により患者の気分や抑うつ症状が悪化しても驚きはない」と話す。
ただし、Nead氏とLiaw氏はいずれも、前立腺がん患者にとって、第二世代抗アンドロゲン薬のベネフィットはうつ病リスクを上回るとの見解を示している。
Liaw氏は「うつ病リスクを理由に、この極めて有効な治療を避けるべきだというわけではない。ただ、少しだけそのリスクについて留意しておく必要があるのは確かだ」と述べ、「前立腺がん患者のうつ病の兆候を早い段階で捉えることができるような体制を整えるべき」と話している。(HealthDay News 2022年1月18日)
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(参考情報)
Abstract/Full Text
https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2787430
構成/DIME編集部
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