■連載/阿部純子のトレンド探検隊
「手間抜き」冷食のメリットを広める入り口となる冷凍餃子
今年で50周年を迎えた味の素の「冷凍ギョーザ」。2020年度の冷凍餃子市場規模は約600億円、直近5年では年率約7%成長しており、今後まだまだ伸びると味の素の鼻息は荒い。
しかし、冷凍餃子カテゴリーを見ると年間購入率は43%で、半数以上がまだ購入経験がない状況。さらに実際に購入した人も年間では6個しか買っていないという結果も出た。
「レンチンしたものをそのまま食卓に出すことに抵抗がある方はまだ多く、それが家庭での冷凍食品導入へのハードルになっていた。初めて冷凍食品を購入する方に最も多く選ばれているのが味の素の『冷凍ギョーザ』で、冷凍餃子は冷凍食品の中で唯一、自分で調理するという工程を持っている。
冷食を食卓に出すことは『手抜き』ではなく『手間抜き』だという論争が昨年SNSでも話題になったが、冷凍餃子はフライパンで焼く工程があることから料理をしていると感じる方が多く、冷食は手抜きと思っている方のハードルを下げる要因にもなり得る。冷凍餃子でおいしさを体験することでその他の冷食に広がっていく入り口となり、冷凍餃子は冷凍食品自体の市場拡大に貢献する役割を果たすと考えている」(味の素 マーケティング本部 国内統括事業部 製品戦略部長 大竹賢治氏)
ごはんと味噌汁が並ぶ食卓といえば、「一汁三菜」を基本に品数重視と言われてきたが、昨今では品数が少なくても栄養バランスのとれた食事は可能だとする「一汁一菜」の考えが浸透しつつある。
餃子は豚肉などのたんぱく質、皮の炭水化物、具材にあるキャベツなどの野菜が摂れるメニュー。品数をたくさん出すという脅迫観念から解放され、ご飯とみそ汁にメインのおかずが冷凍ギョーザという食卓が成立すると味の素は提案している。
また、万人受けする定番メニューの餃子も時代の流れによって消費者が求めるニーズが多様化しており、オケージョンの拡大に対応する商品展開で、食卓に「冷凍ギョーザ」が登場する頻度を高めていくという。
「ギョーザ」ワールドの進化を担う新商品&リニューアル品
〇新製品「黒胡椒にんにく餃子」
味の素独自のレシピ設計技術で、ビールにとことん合う餃子を開発。ビールに合う味覚条件の追求し、辛みや塩味が効いて味にパンチがあるという条件には黒胡椒とにんにくで再現し、油感をしっかり味わえる条件には、豚肉を中心に肉のうまみで再現した。
フードペアリング理論によると対照的な物質同士の相性が良く、ビールのさっぱり、すっきりした味わいに、餃子の肉汁ジューシーでパンチのある味わいがマッチングする。
ビールに合わせるための緻密なレシピ設計を行った。下記の画像は、縦軸が味・香り風味の強さ、横軸が口に入れてから飲み込むまでの時間軸の変化。一口食べるとにんにくの風味がぱっと広がり、噛みしめるうちに豚肉の旨味と甘味が広がり、中味で黒胡椒の風味、辛味が広がり、飲み込んだ後でも黒胡椒の後味を感じる。ビールにとてもよく合う味覚設計で、発売前の調査では、ビール好きの93%がこの商品を買いたいと回答した。
〇新製品「シャキシャキやさい餃子」
野菜のおいしさを活かしたレシピで、和風メニューにも組み合せやすい味わいに仕上げている。野菜本来の甘みや旨みを活かすために香りの強いにんにく・ニラは不使用、野菜中心でヘルシーでありつつも、ふんわり生姜が香る、昆布だしが効いた飽きのこない味わい。
野菜の量は定番「ギョーザ」の約 1.6 倍で、野菜もたくさん摂れてやさしい味付けで和風のメニューとの相性が良い。
シャキシャキ食感の野菜にこだわり、野沢菜は品質の良い信州・長野産を中心に使用している。大根は季節に合わせて旬の産地から調達、シャキシャキ食感をより楽しめる 10mmサイズの大きめカットにしている。肉は野菜のおいしさを引き立てる、さらっとした脂がおいしいブランド豚「南国麦豚」を採用した。
「野菜餃子のニーズがあることは以前からわかっていたが、ここにたどり着くまでかなりの紆余曲折があった。野菜の量を増やした餃子をそのまま作ると、味が平坦でおいしさが乏しくなりがち。野菜餃子を求めるお客様は健康志向という理由もあるが、野菜がおいしい、野菜をきちんと食べていると感じられることを重視される。そうしたニーズの中で重要になるのが食感。野菜をシャキシャキと噛んでいるという感覚があると『野菜を食べているおいしさ』を感じられる。
冷凍餃子でもシャキシャキと食感を感じる野菜を探し求めた結果、肉とのバランスも良く食感がしっかりと残っている野沢菜と大根に行きついた。両方とも餃子の具材としては一般的ではなかったが、チャレンジをして試行錯誤の末にたどり着いた」(大竹氏)
〇「黒豚大餃子」(リニューアル)
従来品は水を入れて調理していたが、改訂品では油・水なし調理が可能になった。さらに専門店の揚げ焼きしたカリッとした食感の焼き目を目指し、改訂後の黒豚大餃子の羽根はあまり広がらず底面にとどまることで揚げ焼き状態になり、専門店のようなカリっとした焼き目になる設計を施した。
「最も売れている定番『ギョーザ』が油・水なしなので、こちらに慣れ親しんでいる方が作ることを想定すると油・水なしが最も作りやすいだろうと発売当初から考えていた。しかし、黒豚大餃子は定番よりも大ぶりで皮も厚い設計だったため、水なしにすると皮までしっかり柔らかく仕上げることが難しかった。今回は、大ぶりでも油・水なしでできる技術のブレイクスルーがありリニューアル品を出すことができた」(大竹氏)
〇「レンジで焼ギョーザ」(リニューアル)
水分を閉じ込めやすい配合に変更し、電子レンジ調理をしても皮の水分率が高く維持され、皮が硬くなりにくくなった。電子レンジでも皮の水分が蒸発しにくいため皮のもっちり感が味わえる。
〇「米粉でつくったギョーザ」(リニューアル)
「小麦・卵・乳」不使用でアレルギーの人でも食べられる米粉で作った餃子。米粉で皮を作っているため、定番品より白っぽいのが特徴で、定番「ギョーザ」に慣れている人が羽根の色を目安に調理すると底面を焼き過ぎてしまうことがあった。
改訂品では“羽根の素”の配合を見直し、餃子の底面と羽根の焼き色の付き方を近づけて、定番「ギョーザ」の羽根の配合に近くすることで、馴染みのある焼き加減にして失敗せずに焼けるよう改善した。
【AJの読み】たれをつけなくてもおいしく食べられる餃子
塩分を抑えるため餃子は何もつけずに、もしくは酢だけをつけて食べることが多いが、味の素の冷凍ギョーザはたれなしでもおいしく食べられる味の設計になっており、調理も油・水が要らず手間も省けるため、我が家では食卓に上がる頻度はかなり高い。
新製品2品を食べてみたが、どちらもたれなしでもそのままでおいしく食べられる味だった。「黒胡椒にんにく餃子」はかなりパンチのある味。目視でもわかるほど黒胡椒が入っており、予想以上に黒胡椒が効いていて、後味もピリピリが続く。ビールが進むこと間違いなしだ。
「黒胡椒にんにく餃子はさまざまなたれに合うが、たれをつけなくても、ごはんのおかずとしておいしく食べられる味の設計をしている。ぜひこのままで食べていただきたい。ビールのつまみを用意するとき、一刻も早く缶を開けて飲みたいという気持ちが強いと思うので、たれを作る手間もなく、そのまま食べてビールでぐっと流し込むのがおすすめ」(大竹氏)
「シャキシャキやさい餃子」も、まずはたれをつけずに食べてみた。野菜の甘みがダイレクトに感じられ美味。酢しょうゆやだししょうゆと合わせてもおいしかった。他の冷凍餃子と比べて和食との相性が良いので、焼き魚や煮物などの組み合わせてもバランスの良い食卓になる。
文/阿部純子